僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

文字の大きさ
36 / 934
二章

がんばれ、1

しおりを挟む
 剣道と翔刀術の違いを問われたら、僕はこう答える。「剣道は一対一で戦うが、翔刀術は複数の敵と戦う」と。なんせ僕が今、その真っ最中だからね。
「全力攻撃開始!」
 筆頭精霊猫の水晶の号令で、精霊猫たちによる全力攻撃が開始された。僕は生命力消費量を百倍にし、意識速度と神経伝達速度を十倍に上げそれに対抗する。と同時に、松果体を先端とする通路を押し広げ、生命力を追加流入させる。頭の中心やや後ろから生命力が溢れ出し、心身の消耗を抑えているのがはっきり感じられた。
 ――よし!
 心中頷き戦闘に集中する。
 物理の制約に縛られない精霊猫達は空中はおろか、壁や床の中からさえ攻撃を繰り出してくる。鞭のようにしなる十一の超音速攻撃を、以前の倍である20秒間、僕は凌ぎきったのだった。

 訓練が終わり、精霊猫たちに一礼。猫丸を鞘に納め壁に掛け、道場の清掃を始める。以前は疲労困憊し、訓練後清掃をする事ができなかった。だがゴールデンウイーク初日の闇油戦で生命力追加を身に付けてからはさほど疲れなくなり、清掃を自分でできるようになった。そんな日は永遠に来ないと半ば信じていた身としては、嬉しい限りだ。僕は床をせっせせっせとモップがけした。
 清掃を終え、道場入り口で一礼。すると今日の当番を務めるだいだい色の精霊猫、蜜柑が現れ、神通力で最後の仕上げをしてくれた。床だけでなく、壁や空気も清められ清浄な空間と化した道場と蜜柑に、僕は再度一礼する。去りぎわ、蜜柑が空中でにっこり笑い「またね」と前足を振った。またねと僕も軽やかに右手を振り返した。最近、精霊猫たちが最後に手を振ってくれるようになった。純粋で可愛い精霊猫に手を振られ、自然と顔がほころんでゆく。蜜柑に心を清めてもらった僕は、晴れ晴れとした気分で離れのお風呂に向かった。
 僕の家にはお風呂が二種類ある。一つは普通のお風呂で、もう一つが翔人専用風呂だ。翔人専用風呂は祖父母の離れと中離ちゅうばなれに設けられていて、僕と美鈴は中離れの方を使っていた。体を洗い、猫将軍家秘伝の薬湯に顎まで浸かる。毛細血管の隅々まで血液が染み渡ってゆくのが感じられ、感嘆の声が漏れた。夢見心地を暫し楽しんだのち、訓練最後の二十秒間を振り返り、分析と反省を始める。以前は疲れ過ぎて、こんなこと絶対できなかったけどね。

 剣道は一対一での戦闘を想定し、発展してきた武道だ。よって剣道は両足のつま先を真っすぐ前に向け、かかとを若干浮かせて立つことを基本としている。人は全速力で走るさい、自然とつま先を前に向け踵を浮かせるように、前進と後退を素早く行うにはこの立ち方が適切なのだ。然るに一対一の戦闘を想定した剣道で、つま先を前に向け踵を浮かせるのは、基本姿勢として理に適っていると僕は考えている。
 一方翔人は踵を地に付け、後ろ足のつま先を若干外へ向ける。前足こそ真っすぐ前を向かせるが、後ろ足はつま先を30度ほど外へ向け、かつ踵を浮かせずベタ足で立つのだ。剣道の元となった古流剣術もこれに似た方法で立つことが知られており、これは古流剣術が合戦を基に編みだされた剣術である証拠だろう。敵味方大勢が入り乱れて戦う合戦では、目の前の敵だけに気を取られていると、死角から槍で突かれ死んでしまう。それを避けるべく合戦では後ろ足のつま先を外に向けベタ足で立ち、全方向へ瞬時に動ける体勢を整えておくのだ。鎌倉武士だった翔人のご先祖様も、古流剣術と同じく合戦を基本とする翔刀術を編み出し後世へ伝えた。鞭のようにしなる触手攻撃を全方位からしかけてくる魔邸と渡り合うためには、縦横無尽に動き回る翔刀術がどうしても必要だったのである。よって魔想の第三段階である魔邸と戦った事のない僕も、毎回必ず対魔邸訓練を行い、全方位戦闘に磨きをかけてきた。その分析と反省を、やっと訓練直後にできるようになった。嬉しい限りだ。薬湯と嬉しさの両方に浸かりつつ、終盤二十秒の動きの一つ一つを、僕は頭の中で念入りにチェックしていった。
 薬湯を出て頭を洗い、水風呂に入る。精霊猫が生命力を吹き込んだこの特殊な水風呂に浸かると、以前は猛烈な睡魔に襲われたものだが、今は心身に力がみなぎり頭が冴え渡ってゆく。風呂を出て衣服を身につけ、自室で来週の小テストの予習をちょっぴりして台所へ向う。
 今日は五月十五日、土曜日。
 時刻は、七時くらいだった。    
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

私の守護霊さん

Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。 彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。 これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

処理中です...