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二章
がんばれ、1
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剣道と翔刀術の違いを問われたら、僕はこう答える。「剣道は一対一で戦うが、翔刀術は複数の敵と戦う」と。なんせ僕が今、その真っ最中だからね。
「全力攻撃開始!」
筆頭精霊猫の水晶の号令で、精霊猫たちによる全力攻撃が開始された。僕は生命力消費量を百倍にし、意識速度と神経伝達速度を十倍に上げそれに対抗する。と同時に、松果体を先端とする通路を押し広げ、生命力を追加流入させる。頭の中心やや後ろから生命力が溢れ出し、心身の消耗を抑えているのがはっきり感じられた。
――よし!
心中頷き戦闘に集中する。
物理の制約に縛られない精霊猫達は空中はおろか、壁や床の中からさえ攻撃を繰り出してくる。鞭のようにしなる十一の超音速攻撃を、以前の倍である20秒間、僕は凌ぎきったのだった。
訓練が終わり、精霊猫たちに一礼。猫丸を鞘に納め壁に掛け、道場の清掃を始める。以前は疲労困憊し、訓練後清掃をする事ができなかった。だがゴールデンウイーク初日の闇油戦で生命力追加を身に付けてからはさほど疲れなくなり、清掃を自分でできるようになった。そんな日は永遠に来ないと半ば信じていた身としては、嬉しい限りだ。僕は床をせっせせっせとモップがけした。
清掃を終え、道場入り口で一礼。すると今日の当番を務める橙色の精霊猫、蜜柑が現れ、神通力で最後の仕上げをしてくれた。床だけでなく、壁や空気も清められ清浄な空間と化した道場と蜜柑に、僕は再度一礼する。去りぎわ、蜜柑が空中でにっこり笑い「またね」と前足を振った。またねと僕も軽やかに右手を振り返した。最近、精霊猫たちが最後に手を振ってくれるようになった。純粋で可愛い精霊猫に手を振られ、自然と顔がほころんでゆく。蜜柑に心を清めてもらった僕は、晴れ晴れとした気分で離れのお風呂に向かった。
僕の家にはお風呂が二種類ある。一つは普通のお風呂で、もう一つが翔人専用風呂だ。翔人専用風呂は祖父母の離れと中離れに設けられていて、僕と美鈴は中離れの方を使っていた。体を洗い、猫将軍家秘伝の薬湯に顎まで浸かる。毛細血管の隅々まで血液が染み渡ってゆくのが感じられ、感嘆の声が漏れた。夢見心地を暫し楽しんだのち、訓練最後の二十秒間を振り返り、分析と反省を始める。以前は疲れ過ぎて、こんなこと絶対できなかったけどね。
剣道は一対一での戦闘を想定し、発展してきた武道だ。よって剣道は両足のつま先を真っすぐ前に向け、踵を若干浮かせて立つことを基本としている。人は全速力で走るさい、自然とつま先を前に向け踵を浮かせるように、前進と後退を素早く行うにはこの立ち方が適切なのだ。然るに一対一の戦闘を想定した剣道で、つま先を前に向け踵を浮かせるのは、基本姿勢として理に適っていると僕は考えている。
一方翔人は踵を地に付け、後ろ足のつま先を若干外へ向ける。前足こそ真っすぐ前を向かせるが、後ろ足はつま先を30度ほど外へ向け、かつ踵を浮かせずベタ足で立つのだ。剣道の元となった古流剣術もこれに似た方法で立つことが知られており、これは古流剣術が合戦を基に編みだされた剣術である証拠だろう。敵味方大勢が入り乱れて戦う合戦では、目の前の敵だけに気を取られていると、死角から槍で突かれ死んでしまう。それを避けるべく合戦では後ろ足のつま先を外に向けベタ足で立ち、全方向へ瞬時に動ける体勢を整えておくのだ。鎌倉武士だった翔人のご先祖様も、古流剣術と同じく合戦を基本とする翔刀術を編み出し後世へ伝えた。鞭のようにしなる触手攻撃を全方位からしかけてくる魔邸と渡り合うためには、縦横無尽に動き回る翔刀術がどうしても必要だったのである。よって魔想の第三段階である魔邸と戦った事のない僕も、毎回必ず対魔邸訓練を行い、全方位戦闘に磨きをかけてきた。その分析と反省を、やっと訓練直後にできるようになった。嬉しい限りだ。薬湯と嬉しさの両方に浸かりつつ、終盤二十秒の動きの一つ一つを、僕は頭の中で念入りにチェックしていった。
薬湯を出て頭を洗い、水風呂に入る。精霊猫が生命力を吹き込んだこの特殊な水風呂に浸かると、以前は猛烈な睡魔に襲われたものだが、今は心身に力がみなぎり頭が冴え渡ってゆく。風呂を出て衣服を身につけ、自室で来週の小テストの予習をちょっぴりして台所へ向う。
今日は五月十五日、土曜日。
時刻は、七時くらいだった。
「全力攻撃開始!」
筆頭精霊猫の水晶の号令で、精霊猫たちによる全力攻撃が開始された。僕は生命力消費量を百倍にし、意識速度と神経伝達速度を十倍に上げそれに対抗する。と同時に、松果体を先端とする通路を押し広げ、生命力を追加流入させる。頭の中心やや後ろから生命力が溢れ出し、心身の消耗を抑えているのがはっきり感じられた。
――よし!
心中頷き戦闘に集中する。
物理の制約に縛られない精霊猫達は空中はおろか、壁や床の中からさえ攻撃を繰り出してくる。鞭のようにしなる十一の超音速攻撃を、以前の倍である20秒間、僕は凌ぎきったのだった。
訓練が終わり、精霊猫たちに一礼。猫丸を鞘に納め壁に掛け、道場の清掃を始める。以前は疲労困憊し、訓練後清掃をする事ができなかった。だがゴールデンウイーク初日の闇油戦で生命力追加を身に付けてからはさほど疲れなくなり、清掃を自分でできるようになった。そんな日は永遠に来ないと半ば信じていた身としては、嬉しい限りだ。僕は床をせっせせっせとモップがけした。
清掃を終え、道場入り口で一礼。すると今日の当番を務める橙色の精霊猫、蜜柑が現れ、神通力で最後の仕上げをしてくれた。床だけでなく、壁や空気も清められ清浄な空間と化した道場と蜜柑に、僕は再度一礼する。去りぎわ、蜜柑が空中でにっこり笑い「またね」と前足を振った。またねと僕も軽やかに右手を振り返した。最近、精霊猫たちが最後に手を振ってくれるようになった。純粋で可愛い精霊猫に手を振られ、自然と顔がほころんでゆく。蜜柑に心を清めてもらった僕は、晴れ晴れとした気分で離れのお風呂に向かった。
僕の家にはお風呂が二種類ある。一つは普通のお風呂で、もう一つが翔人専用風呂だ。翔人専用風呂は祖父母の離れと中離れに設けられていて、僕と美鈴は中離れの方を使っていた。体を洗い、猫将軍家秘伝の薬湯に顎まで浸かる。毛細血管の隅々まで血液が染み渡ってゆくのが感じられ、感嘆の声が漏れた。夢見心地を暫し楽しんだのち、訓練最後の二十秒間を振り返り、分析と反省を始める。以前は疲れ過ぎて、こんなこと絶対できなかったけどね。
剣道は一対一での戦闘を想定し、発展してきた武道だ。よって剣道は両足のつま先を真っすぐ前に向け、踵を若干浮かせて立つことを基本としている。人は全速力で走るさい、自然とつま先を前に向け踵を浮かせるように、前進と後退を素早く行うにはこの立ち方が適切なのだ。然るに一対一の戦闘を想定した剣道で、つま先を前に向け踵を浮かせるのは、基本姿勢として理に適っていると僕は考えている。
一方翔人は踵を地に付け、後ろ足のつま先を若干外へ向ける。前足こそ真っすぐ前を向かせるが、後ろ足はつま先を30度ほど外へ向け、かつ踵を浮かせずベタ足で立つのだ。剣道の元となった古流剣術もこれに似た方法で立つことが知られており、これは古流剣術が合戦を基に編みだされた剣術である証拠だろう。敵味方大勢が入り乱れて戦う合戦では、目の前の敵だけに気を取られていると、死角から槍で突かれ死んでしまう。それを避けるべく合戦では後ろ足のつま先を外に向けベタ足で立ち、全方向へ瞬時に動ける体勢を整えておくのだ。鎌倉武士だった翔人のご先祖様も、古流剣術と同じく合戦を基本とする翔刀術を編み出し後世へ伝えた。鞭のようにしなる触手攻撃を全方位からしかけてくる魔邸と渡り合うためには、縦横無尽に動き回る翔刀術がどうしても必要だったのである。よって魔想の第三段階である魔邸と戦った事のない僕も、毎回必ず対魔邸訓練を行い、全方位戦闘に磨きをかけてきた。その分析と反省を、やっと訓練直後にできるようになった。嬉しい限りだ。薬湯と嬉しさの両方に浸かりつつ、終盤二十秒の動きの一つ一つを、僕は頭の中で念入りにチェックしていった。
薬湯を出て頭を洗い、水風呂に入る。精霊猫が生命力を吹き込んだこの特殊な水風呂に浸かると、以前は猛烈な睡魔に襲われたものだが、今は心身に力がみなぎり頭が冴え渡ってゆく。風呂を出て衣服を身につけ、自室で来週の小テストの予習をちょっぴりして台所へ向う。
今日は五月十五日、土曜日。
時刻は、七時くらいだった。
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