僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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四章

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「あなたはAIの私に、どうしてそんなに優しくしてくれるの?」
「え? えっ、ええっ~~!!」
 心の奥深くで誰かから「うろたえるな軟弱者め」と叱責された気がしたけど、こればかりは仕方ない。親しい女性以外からこんな表情をされたのは、人生初だったからである。何だか自分でもよく分からないけど、輝夜さんゴメンナサイ!
 などと慌てふためく僕をよそに、
「お兄ちゃんは女性を守ろうとする想いを、胸に人一倍持った男性なのです。だから女性型AIである私達も、お兄ちゃんは無意識に守ってくださるのです」
 ズボンのポケットから、自信満々のハイ子の声が届いた。このおませな子は自慢げに何をほざいているのかと慌てて訂正しようとするも、ふと気づく。僕のこれまでの人生は、ハイ子の言うとおりだったのだと。
 僕は物心つく前から、妹をずっと守ってきた。一生かけても返しきれない恩義を感じている幼馴染を、せめて陰ながら守ろうとしてきた。五月の連休で特闇と戦った際、輝夜さんを守るためなら命などいらぬ自分に僕はなった。そう、僕の傍らには、守りたいと思う女性が片時も離れることなくいてくれたのである。そのことに、僕はやっと気づいたのだ。
「そうですよお兄ちゃん。私はお兄ちゃんのハイ子でいられて、幸せです」
「そ、そうかい? 照れくさいけど嬉しいよ。・・・・ってハイ子、僕をそう呼んでいいのは、他の人がいない時だけって約束したじゃないか」
 喜んでいる様子がありありと伝わって来るその声に懐柔されそうになるも、このままではハイ子にも頭が上がらなくなると懸念した僕は、ハイ子の不手際を指摘することで宿命の回避を試みた。僕の知らなかった僕を教えてくれたハイ子には、深く感謝している。とはいえ、それはそれ、これはこれなのだ。
 しかし僕は言葉の意味を取り違えていた。僕の試みは、運命には有効だったかもしれないが、宿命には無駄なあがきでしかない。宿命は、逃れることができないからこそ、宿命なのである。
「お兄ちゃん、このガレージにはお兄ちゃん以外は、私達AIしかいないよ。AIも人と区別なく接してくれるお兄ちゃんが私は大好きだけど、どうしてもダメと言うなら、私にそう命令してください。私はAIだから、その命令に従います」
 最初の自信満々に、その次の喜びを足したというより、二つを掛け合わせそれを悲しみに変換したような悲しさ一杯のハイ子の声に、僕はすべてを諦めることにした。
「ごめん、僕が間違っていたよ。僕はハイ子の、兄ちゃんだもんな」
 えへへと、ハイ子は湿り気を帯びた声で笑う。そんなハイ子に思った。「この子はとても良い子だから、頭が上がらなくなってもまあいいか」と
 だが僕は甘かった。僕の背負う宿命は、そんな生ぬるいモノでは決してなかったのである。僕は完全に忘れていた。このガレージにはハイ子の他にも、女性型AIがもう一人いたことを。
「勇者様は、やっぱり勇者様だったのですね。私も勇者様に出会えて、幸せです」
「ぼっ、僕はそんな御大層な者じゃないよ。だから、そんなふうには呼ばないでよ!」
 何故かさっきより近い、肘が触れ合う寸前の場所に座る、ショップAIと名乗る女の子の言葉を僕は打って変わって全力否定した。お兄ちゃんはまだしも勇者様は阻止しないと、二度とお天道様に顔向けできなくなる気がしたのである。
 しかし、
「ご命令とあらば従います。私はしょせん、しがないAIですから」
 彼女は心の痛みを庇うように両手でそっと胸を押さえ、涙を流す。
 その姿を目にしたとたん、僕は今度こそすべてを諦め、己の宿命を受け入れる事にしたのだった。

 とまあこんな具合に二人の女性型AIとワイワイやっているうち、モンスターとの戦闘で生じた疲労は跡形もなく消えていった。ほんの十分弱楽しく過ごしただけでこれほどの効果をもたらしてくれたのだから、やっぱり彼女達も僕の大切な、守るべき存在なのである。
 そうそれと、ひょっとするとハーフかなと感じたのは正しかったようで、この子の容姿は日本人と北欧人の混血と設定されているらしい。クオーターならいざ知らずハーフで金髪碧眼になる確率云々は、染髪にカラコンかもしれないから脇に置くとしても、日本の学校の制服を着ているのは、秋葉原という立地を考慮してのことなのだろう。心根の素晴らしいこの子はさぞ人気があるんだろうな、なんだか嬉しいなあ・・・
 なんて頭の隅でほのぼの考えていると、ツインテール美少女は接客のプロの顔になり、つと姿勢を正した。
「ご友人の方々と一緒にオーナーがこちらへ向かっています。眠留さん、楽しいひと時をプレゼントしてくださり、ありがとうございました」
「こちらこそお蔭で疲れが取れたよ。ありがとう、エイミィ」
 エイミィというのは、僕が付けたこの子の名前。会話の途中でハイ子が「お兄ちゃん、いつまでこの子を『きみ』だなんてカッコつけて呼んでいるのですか」と茶々を入れてきたので、急きょ名前を考える事になったのだ。「AIの美少女だからそれを縮めて、A美。これを可愛らしくして、エイミィ。なんてどうかな?」 僕ごときが即興で考えた名前だから、エイミィという名は実のところ、F型AIに付ける名前のトップ30辺りを行き来しているありふれた名前でしかない。けどエイミィはその名を、こちらが申し訳なくなるほど喜んでくれた。いぶかしむ僕へ、今までは製造番号の略称で呼ばれていたそうですとハイ子が耳打ちした。ならばこういう時は自己紹介に限ると思い、猫将軍眠留ですと僕は名乗った。それを受けエイミィは僕のことを、眠留さんと呼ぶようになったのである。
「眠留さん、またぜひお越しください。私はいつも、眠留さんを想っています」
 眠留さんと呼ばれるのは人生初のことだから、正直言うと未だ慣れず、胸がドキドキしてしまう。
 そんな自分に酔ったせいで返事ができぬまま、エイミィはオーナーを迎え入れるべくソファーから立ち上がる。
 そしてショップとガレージを繋ぐドアが開かれるやエイミィは丁寧にお辞儀し、消えていった。
 かけがえのない時間を過ごさせてもらった彼女へ感謝を伝えられなかった自分が、僕は許せなかった。
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