僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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七章

文化祭の想い出、1

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 左隣の輝夜さんと、向かい合うよう机をくっ付ける。椅子とお弁当を手にやって来た昴が、輝夜さんの横に椅子を置き並んで座る。二つの机の上に三つのお弁当が用意されたところで、
「いただきます!」
 お楽しみのお昼タイムを、僕らは開始した。

 後期が始まった十月一日以降、僕と輝夜さんと昴は基本的に、いつも三人揃ってお昼ご飯を食べていた。そう、僕らはほぼ毎日、朝ご飯と昼ご飯を一緒に食べていたのだ。それが楽しすぎ、そして幸せすぎるせいか、二人のいない夕食中、僕はしばしば違和感を覚えた。いるべき人がいないという感覚が、ふと胸を掠めるのである。それは寂寥より喪失感に近いため、僕はそれを家族の不在と認識していた。祖母は二人を家族同然と言ったが、僕にとって二人は、もう完全な家族。胸の奥深くで二人に抱いている想いがそうさせると判っていても、その真実の気持ちに、僕はあらがう事ができずにいた。
 そんな胸の内を察してくれたのか、月曜日と木曜日は仲間達が僕ら三人に加わっていた。火水金のお昼休みを新忍道サークルで過ごす北斗と京馬、学食で過ごす猛と真山、そして撫子部で過ごす芹沢さんが、月曜と木曜は必ずやって来てお弁当を一緒に食べたのだ。エイミィの件を明後日までに解決できなかったら皆に打ち明け協力を仰ごうと思ったのも、それ。明後日は八人が揃う昼食会なので話題提供も兼ね、それを皆に話そうと考えたのである。世界に通用する専門家を目指す学校だからか、昼食会はいつものっけから、かなり高度な話題を交わすのが常となっていた。毎日はしんどくても週二日なら、それは心地よい刺激となる。特殊AIの特異な行動とそれによる破棄の危険性は、皆の知的好奇心を満たす学術的な話題になると感じたのだ。
 けどやっぱり、と好物のアスパラベーコン巻きを箸でつつきながら僕は逡巡した。AIを物と定義するなら、それは高度な学術的話題になるだろう。しかしエイミィを人として捉えるなら、それはエイミィの人権を無視する行為になるのではないか。AIは物であるという社会通念より、エイミィの人権を尊重する方が今回は重要なのではないか。僕はそう、自問せずにはいられなかったのである。
 箸を止め、アスパラベーコン巻きを見つめる。そしてまなじりを決し、それを口に放り込んだ。
 僕は決めた。
 エイミィの件は明後日までに解決できないかもしれないという迷いを捨て、解決できるという前提でいよう。少なくとも、初めから諦める事だけは絶対しないでおこう。輝夜さんと昴という、僕にはもったいなさ過ぎの二人の女性に恥じないためにも、そういう自分でいる事にしよう。僕はそう、決心したのである。そのとたん、
「うん、何について悩んでいたか分からないけど、その方が眠留くんらしいと思うよ」
「輝夜の言うとおりだわ。眠留、先ずは一人でやってみなさい。それでも駄目なら、あなたには頼りになる人達が大勢いるのだから、協力を仰げばいい。ただそれだけのことよ」
 そう即座に同意してもらえる僕は、やはり破格の幸せ者なのだろう。うんそうするよと応えて、気持ちを切り替え、三人一緒のお弁当タイムを楽しむことにした。
 だがそれは、甘い見通しだった。僕が気持ちを切り替えるなり、今まで静かに会話していた二人がこちらに顔を向け、僕を詰問し始めたのである。それは、眉間に皺を寄せた昴の一言から始まった。
「それはそうと眠留、あんた委員はどうするの?」
 頬を引きつらせる僕に、輝夜さんが三白眼一歩手前の眼差しを向けた。 
「私もそれ、ちょっと心配しているの。眠留くん、委員活動は、どうするつもりなのかな?」
 僕はお弁当とお箸を机に置き、二人に言い訳しようとした。だがそれは、いわゆる悪手あくしゅだった。手ぶりも交えて言い訳すべく両手をからにしたその一瞬を、昴に付け込まれたのである。昴は神業的身体能力を発揮しお弁当を持ったまま体を高速で横に向け、輝夜さんに発破をかけた。
「輝夜、もっと具体的に言って、眠留を追い詰めてあげて!」
 それを受け輝夜さんは瞳を煌々と輝かせ、くっきり頷いた。ここまでくると、もう手の施しようがない。言い訳のために使おうとしていた両手を膝の上に揃え、僕は体を小さくして、二人の放つマシンガンお叱りを頂戴した。 
「あのね眠留くん、眠留くんは前期委員も後期委員も、体育祭実行委員も文化祭実行委員もしていないよね。それ、計画に基づく行動なのかな?」
「クリスマス仮装会とプレゼン大会しか残ってないけど、あんたやりたい委員があるの?」
「しかも明日十二月一日は、クリスマス実行委員の申請最終日なんだよ」
「体育祭実行委員をした私の経験からすると、委員になったら忙しくて、その行事を楽しむのは難しいからね」
「最近研究が捗っている眠留くんはプレゼン大会に力をいれるつもりなのかな。もしそうなら、クリスマス会の委員になった方がいいんじゃない」
「念を押すけど、その締め切りは明日なの。眠留、あんたわかってるの」
「私も心配。きちんとした計画があるかないかだけでも、聞かせてくれないかな」
 僕にはもったいなさ過ぎの二大女性から、僕を案じる真摯な眼差しを向けられた僕は、ため息をつかれる覚悟をして時間稼ぎの話題を振った。だって僕自身、どっちの委員になるべきなのか、悩みまくっているんだもん。
「えっとあの、文化祭、楽しかったよね・・・」
 ピクンと眉を上げた二人は高速目配せをして、互いの気持ちを確認した。そして予想よりちょっぴり優しいため息を付いてから、
「ええ、楽しかったわね」
「うん、楽しかったよね」
 と、時間稼ぎを了承する意を示してくれたのだった。
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