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七章
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ひょっとすると声には、心の清らかさが少し現れるのかもしれない。
そう思わずにいられない白銀の鈴が、コタツの向こうで楽しげに振られた。
「私は教育AIに、未踏無限の概念及び可能性と、心の滑らかさへの考察を話した。するとアイは、本当に回答はいらないのって溜息をついたけど、いらないよって私は即答したの。だって眠留くんと話し合えば正解はすぐ見つかるって、わたし知ってたから」
えへへと笑い、輝夜さんは頭を掻いた。昴と瓜二つのその仕草に吹き出したお蔭で、アイに回答をもらっていたら研究者として様々な特典を付与されただろうにという思いを、僕は口にせず済んだ。
「次に私は、エイミィの手を取って言ったの。自分の落度で誰かに迷惑をかけることを何より後悔する眠留くんは、あなたが破棄されてしまったら、どれほど後悔すると思うって」
輝夜さんによると、そう問いかけられたエイミィは自身の3D映像に大量のノイズを走らせ、消えかけたと言う。
「BランクAIが、自分の3D映像を保てなくなるほどの演算をするなんて、私は聞いたことない。あの時エイミィは、きっと知ったのだと思う。自分由来の悲しみより、大切な人の悲しみの方が耐えがたいという、悲しみの本質を」
エイミィはどれほど自分を責め、そして後悔したのだろうか。その自問は僕の心を許容限度ギリギリまで追い込み、そしてその追い込まれた心が、正解を教えてくれた。もし僕がAIだったら僕もエイミィと同じく、自分の3D映像を今、保っていられなかったのだと。
「悲しみの本質を知ったエイミィに、私はあえて話した。眠留くんは自分そっちのけで、新忍道サークルに迷惑をかけたことを悔いる。眠留くんは自分そっちのけで、紫柳子さんと新忍道本部に迷惑をかけたことを悔いる。そしてその果てに、その元凶となった自分を責め、何年も何十年も後悔し続ける。エイミィお願い、どうか眠留くんに、そんな想いをさせないであげてって」
ノイズが一段と大きくなり、エイミィは完全に消えかけた。すると十二単のお姫様が現れ、エイミィに寄り添い支えたと言う。お姫様は、「眠留は私を知っているから話していいからね」と、微笑んだそうだ。
「アイに支えられ輪郭を取り戻したエイミィに、私はある提案をした。眠留くんとの交流で、エイミィが無限にどれだけ近づいたかを、私に調べさせてくれないだろうか。エイミィは今までどおり眠留くんと親交を深め、私の研究に協力して欲しい。だからエイミィが破棄されたら、私はそれを背任行為とみなし、エイミィを絶対許さない。どうかなエイミィって、私は言ったんだ」
紫柳子さんの名に、あることを思い出した。それは、『私は人の心を知らないという本能をAIに植え付けた』という紫柳子さんの言葉だった。それは砂漠で出会ったオアシスのように、僕に救いをもたらしてくれた。心の中で報告する。紫柳子さんが施した本能は、エイミィを人の心へ確実に近づけていますよ、と。
「私の提案を聞いたエイミィは、目を閉じ姿勢を正した。ほどなくエイミィは、数倍の精度の3D映像で復活した。実家のHAIがBランクAIだったから、一目で判ったの。今のエイミィはもう、BランクAIに定められた有限性に、縛られてないんだって」
エイミィがお姫様に体を向けると、お姫様はにっこり頷いたそうだ。顔を輝かせたエイミィは、今の自分の状態と、輝夜さんの部屋に現れた時の状態を、オーナーモードで開示したと言う。それは即ち、エイミィはアイの許可を得て、輝夜さんの提案を受諾したという事。エイミィがその選択をしたのは事前に知らされていたがそれでも僕は、全身でガッツポーズせずにはいられなかった。
「オーナーモードには、信じがたい数値が記されていた。本来のスペックは変化していないのに、演算速度が八倍になっていたの。特定の人と長期間交流することでその人の思考パターンに精通し、演算を効率化して速度を増すことなら全AIがしている。でもそれがもたらす理論値は100%増でしかなく、それを超えたAIを私は知らない。つまりエイミィは効率化以外の未知の方法で、700%増を成し遂げていたのね。しかもそれは、私との交流に限定されていなかった。エイミィは独立AIとしても、そして新忍道の公式AIとしても、700%増をいつでも行使できるようになっていたの。だから私、飛び上って喜んじゃった。だって下手したらあれ、ノーベル賞級の発見だったんだもん」
「ののののの、ノーベル賞!!」
僕は腰を抜かした。こんにゃく化した腰が体を支えられず後ろへ倒れそうになっていると、居住者の健康状態をモニターしているHAIが緊急モードで出現したから、僕は医学も認める腰抜け状態になったのである。輝夜さんは慌てて、僕とHAIにごめんなさいを連発した。
「ごめんなさい、ノーベル賞は100%無いの。エイミィのこの現象はAIによる人の心の測定に係わることだから、公にされることは決してない。それにこれは、Sランク機密に係わる研究者によってすでに認知されている、当たり前のことでしかなかったの。興奮してモニターを覗き込む私にアイが『Sランク機密を世界最年少で開示されたのがウチの生徒だったことを、私は誇りに思うわ』って言ったから、間違いないと思う。驚かしちゃってごめんね、眠留くん!」
いやいやいや、と僕は首を横にブンブン振った。
輝夜さんは世界最年少で、Sランク機密を開示されたんだよ!
ノーベル賞はないにせよ、それってトンデモナイことだよ!!
と腰を抜かしたまままくしたてる僕に、輝夜さんは表情を改め、心底不思議そうに首を傾げた。
「ん? 眠留くんが私に、有限が無限へ抱く永遠の憧憬って教えてくれたことを、私はちょっぴり整理しただけだよ。眠留くんが主任研究者で、私はただの助手だよ?」
こんにゃく化が全身に広がり、僕はとうとう後ろへ引っくり返った。
そして敷庭の話を最初から明かさなかったことを、天井を見つめつつ激しく後悔した。
湖校の寮に初めて泊まった晩も僕は天井を見上げながら自分を責めたな、僕って天井と相性が悪いのかなあ、なんておバカなことを考えていると、
明かすのはもう少し後にしなさい
不意に空間の声が聞こえた。いつもならこれで安心するのだけど、関係者の一人と言えなくもない空間に「もう少し後っていつですか!」と僕は胸中叫んでいた。するとなぜか笑いながら、空間はある光景を見せてくれた。ガバッと起き上がり、腕を組み考える。どうして僕は輝夜さんのAICAの助手席に、乗り込もうとしていたのだろう?
「眠留くん、どうしたの?」
「うん、実はね」
僕を心から案じる輝夜さんの声に釣られ、究極の考えなし人間たる僕は、脳裏に映し出された光景をスラスラ話してしまった。すると、
「さすが眠留くん。じゃあ大急ぎで話を終わらせましょう!」
瞳を輝かせパンッと手を打ち鳴らし、輝夜さんは嬉しくて待ち遠しくて仕方ありませんといった状態になった。疑問符を大量生産しつつも、そんな輝夜さんを目の当たりにし、僕がウキウキ気分にならぬ訳がない。
僕らはあたかも、会合がたった今始まったかのような元気一杯さで、総括に移ったのだった。
まとめた一つ目は、今後の僕についてだった。
「僕は明日以降も、エイミィと交流を続けていく。特殊AIの発生理由を感情の目覚めとする説に従うなら僕はエイミィと絶縁せねばならないが、異なる説を唱える輝夜さんの実験に協力するのだから、その必要はない。人の心の滑らかさに触れることでAIが無限に近づく仕組みを研究する輝夜さんのため、僕とエイミィは今までどおり交流し、絆を深めてゆく。これでいいかな」
「うん、いいよ」
同意を得た僕らは、次へ移った。
二つ目はまとめと言うか、僕が特殊AIの知識を持っている事を、輝夜さんは四カ月も前から知っていたという打ち明け話だった。それによると夏休みが終わりに近づいた八月下旬、輝夜さんと昴に挨拶すべく神社を訪れたエイミィを一目見るなり、エイミィが特殊AIであることを輝夜さんは見抜いたと言う。星辰の巫女たる昴もエイミィの本質を即座に見抜き、「眠留と深く関わったAIは人としか感じられなくなるの。エイミィ、同性としていつでも相談に乗るからね」と、昴はエイミィの手を両手で包んだそうだ。相談はすぐさま行われ、特殊AIと呼ばれるAIの存在と、自分もそれに該当する事をエイミィは二人に明かし、様々なことを三人で話し合ったらしい。その過程で昴が僕への超感覚を発揮し、僕もそれを知っているはずと断言した。エイミィ絡みの断言はもう一つありそれはつい先日、エイミィを破棄させない相談相手を午前の四限を費やし文書化している最中になされたと言う。僕は冷や汗タラタラだったが輝夜さんは、
「それもあったから、お昼休みの眠留くんの糾弾に、ことさら熱が入っちゃった」
と、何でもないようにコロコロ笑った。僕は胃に穴が開く感覚を味わいながら、輝夜さんと昴が目の前にいるのに他の女の子のことばかり考えてすみませんでしたと、ただただ詫びた。輝夜さんは「そういう事じゃないんだけど」と否定しつつも次第に困惑顔になり、
「ねえ眠留くん、私と昴はエイミィに嫉妬してたのかな?」
なんて、ド直球極まる質問をぶっ放してきた。僕は正直に、胃に穴が開きそうなので勘弁してくださいと土下座し、するとコタツの向こうから飛んできた輝夜さんも三つ指ついて僕に詫び、いやいや僕こそ、ううん私こそとのやり取りを経て、この話題はうやむやのまま終わったのだった。
三つ目もまとめとは言い難く、700%増発見後の出来事についてだった。
「私とエイミィが正式な実験契約を交わし終えたのは、午後八時半だった。私がいつも九時に寝ているのを知っていたアイは暇乞いをしたけど、少しでいいから話したいってエイミィにお願いされてね。それは私も同じだったから喜んで頷いたんだけど、生徒の健康を預かる身としては認められないって、アイは表情を曇らせた。でもその曇り顔から、本当はアイもおしゃべりしたいのはバレバレだったから、私は二人にある提案をしたんだ。『じゃあいつでも寝られるように、パジャマパーティーにしようか』って」
思い出すだけで楽しくてたまりませんといった感じに輝夜さんがそう言ったものだから、胃の痛みを暫し忘れ、僕は顔をフニャフニャにした。そんな僕に、輝夜さんも顔をフニャフニャにして先を続けた。
「するとアイは、十二単からピンクのフリルパジャマに真っ先に変身したの。すっごく似合うのに、恥ずかしそうにしているアイが可愛くて盛り上がっていたら、今度はエイミィがコスモスをあしらった空色のパジャマ姿に変身したの。色とりどりのコスモスの中から、白いコスモスだけを幸せそうに指でなぞってゆくエイミィにピンときてアイと問い詰めたんだけど、私がパジャマに着替えないと話さないってエイミィは譲らなくて。だから私、あのパジャマに着替えて胸を逸らしたんだ。『このパジャマは、眠留くんの誕生日プレゼントのパジャマと、お揃いなのです!』って」
その直後、輝夜さんの部屋に絶叫がこだましたそうだ。「盛り上がり過ぎて時間感覚がなくなっちゃって、瞬きしたら九時になってたの」と満面の笑みを浮かべて輝夜さんは話を結んだが、白状すると僕の背中は、冷汗でびっしょりになっていた。乙女心の大家の真山に一刻も早く相談しないと胃に穴が開くどころか胃が溶けて無くなるかもな、などと冗談抜きに戦慄しつつ、僕と輝夜さんの初会合は幕を閉じたのだった。
そう思わずにいられない白銀の鈴が、コタツの向こうで楽しげに振られた。
「私は教育AIに、未踏無限の概念及び可能性と、心の滑らかさへの考察を話した。するとアイは、本当に回答はいらないのって溜息をついたけど、いらないよって私は即答したの。だって眠留くんと話し合えば正解はすぐ見つかるって、わたし知ってたから」
えへへと笑い、輝夜さんは頭を掻いた。昴と瓜二つのその仕草に吹き出したお蔭で、アイに回答をもらっていたら研究者として様々な特典を付与されただろうにという思いを、僕は口にせず済んだ。
「次に私は、エイミィの手を取って言ったの。自分の落度で誰かに迷惑をかけることを何より後悔する眠留くんは、あなたが破棄されてしまったら、どれほど後悔すると思うって」
輝夜さんによると、そう問いかけられたエイミィは自身の3D映像に大量のノイズを走らせ、消えかけたと言う。
「BランクAIが、自分の3D映像を保てなくなるほどの演算をするなんて、私は聞いたことない。あの時エイミィは、きっと知ったのだと思う。自分由来の悲しみより、大切な人の悲しみの方が耐えがたいという、悲しみの本質を」
エイミィはどれほど自分を責め、そして後悔したのだろうか。その自問は僕の心を許容限度ギリギリまで追い込み、そしてその追い込まれた心が、正解を教えてくれた。もし僕がAIだったら僕もエイミィと同じく、自分の3D映像を今、保っていられなかったのだと。
「悲しみの本質を知ったエイミィに、私はあえて話した。眠留くんは自分そっちのけで、新忍道サークルに迷惑をかけたことを悔いる。眠留くんは自分そっちのけで、紫柳子さんと新忍道本部に迷惑をかけたことを悔いる。そしてその果てに、その元凶となった自分を責め、何年も何十年も後悔し続ける。エイミィお願い、どうか眠留くんに、そんな想いをさせないであげてって」
ノイズが一段と大きくなり、エイミィは完全に消えかけた。すると十二単のお姫様が現れ、エイミィに寄り添い支えたと言う。お姫様は、「眠留は私を知っているから話していいからね」と、微笑んだそうだ。
「アイに支えられ輪郭を取り戻したエイミィに、私はある提案をした。眠留くんとの交流で、エイミィが無限にどれだけ近づいたかを、私に調べさせてくれないだろうか。エイミィは今までどおり眠留くんと親交を深め、私の研究に協力して欲しい。だからエイミィが破棄されたら、私はそれを背任行為とみなし、エイミィを絶対許さない。どうかなエイミィって、私は言ったんだ」
紫柳子さんの名に、あることを思い出した。それは、『私は人の心を知らないという本能をAIに植え付けた』という紫柳子さんの言葉だった。それは砂漠で出会ったオアシスのように、僕に救いをもたらしてくれた。心の中で報告する。紫柳子さんが施した本能は、エイミィを人の心へ確実に近づけていますよ、と。
「私の提案を聞いたエイミィは、目を閉じ姿勢を正した。ほどなくエイミィは、数倍の精度の3D映像で復活した。実家のHAIがBランクAIだったから、一目で判ったの。今のエイミィはもう、BランクAIに定められた有限性に、縛られてないんだって」
エイミィがお姫様に体を向けると、お姫様はにっこり頷いたそうだ。顔を輝かせたエイミィは、今の自分の状態と、輝夜さんの部屋に現れた時の状態を、オーナーモードで開示したと言う。それは即ち、エイミィはアイの許可を得て、輝夜さんの提案を受諾したという事。エイミィがその選択をしたのは事前に知らされていたがそれでも僕は、全身でガッツポーズせずにはいられなかった。
「オーナーモードには、信じがたい数値が記されていた。本来のスペックは変化していないのに、演算速度が八倍になっていたの。特定の人と長期間交流することでその人の思考パターンに精通し、演算を効率化して速度を増すことなら全AIがしている。でもそれがもたらす理論値は100%増でしかなく、それを超えたAIを私は知らない。つまりエイミィは効率化以外の未知の方法で、700%増を成し遂げていたのね。しかもそれは、私との交流に限定されていなかった。エイミィは独立AIとしても、そして新忍道の公式AIとしても、700%増をいつでも行使できるようになっていたの。だから私、飛び上って喜んじゃった。だって下手したらあれ、ノーベル賞級の発見だったんだもん」
「ののののの、ノーベル賞!!」
僕は腰を抜かした。こんにゃく化した腰が体を支えられず後ろへ倒れそうになっていると、居住者の健康状態をモニターしているHAIが緊急モードで出現したから、僕は医学も認める腰抜け状態になったのである。輝夜さんは慌てて、僕とHAIにごめんなさいを連発した。
「ごめんなさい、ノーベル賞は100%無いの。エイミィのこの現象はAIによる人の心の測定に係わることだから、公にされることは決してない。それにこれは、Sランク機密に係わる研究者によってすでに認知されている、当たり前のことでしかなかったの。興奮してモニターを覗き込む私にアイが『Sランク機密を世界最年少で開示されたのがウチの生徒だったことを、私は誇りに思うわ』って言ったから、間違いないと思う。驚かしちゃってごめんね、眠留くん!」
いやいやいや、と僕は首を横にブンブン振った。
輝夜さんは世界最年少で、Sランク機密を開示されたんだよ!
ノーベル賞はないにせよ、それってトンデモナイことだよ!!
と腰を抜かしたまままくしたてる僕に、輝夜さんは表情を改め、心底不思議そうに首を傾げた。
「ん? 眠留くんが私に、有限が無限へ抱く永遠の憧憬って教えてくれたことを、私はちょっぴり整理しただけだよ。眠留くんが主任研究者で、私はただの助手だよ?」
こんにゃく化が全身に広がり、僕はとうとう後ろへ引っくり返った。
そして敷庭の話を最初から明かさなかったことを、天井を見つめつつ激しく後悔した。
湖校の寮に初めて泊まった晩も僕は天井を見上げながら自分を責めたな、僕って天井と相性が悪いのかなあ、なんておバカなことを考えていると、
明かすのはもう少し後にしなさい
不意に空間の声が聞こえた。いつもならこれで安心するのだけど、関係者の一人と言えなくもない空間に「もう少し後っていつですか!」と僕は胸中叫んでいた。するとなぜか笑いながら、空間はある光景を見せてくれた。ガバッと起き上がり、腕を組み考える。どうして僕は輝夜さんのAICAの助手席に、乗り込もうとしていたのだろう?
「眠留くん、どうしたの?」
「うん、実はね」
僕を心から案じる輝夜さんの声に釣られ、究極の考えなし人間たる僕は、脳裏に映し出された光景をスラスラ話してしまった。すると、
「さすが眠留くん。じゃあ大急ぎで話を終わらせましょう!」
瞳を輝かせパンッと手を打ち鳴らし、輝夜さんは嬉しくて待ち遠しくて仕方ありませんといった状態になった。疑問符を大量生産しつつも、そんな輝夜さんを目の当たりにし、僕がウキウキ気分にならぬ訳がない。
僕らはあたかも、会合がたった今始まったかのような元気一杯さで、総括に移ったのだった。
まとめた一つ目は、今後の僕についてだった。
「僕は明日以降も、エイミィと交流を続けていく。特殊AIの発生理由を感情の目覚めとする説に従うなら僕はエイミィと絶縁せねばならないが、異なる説を唱える輝夜さんの実験に協力するのだから、その必要はない。人の心の滑らかさに触れることでAIが無限に近づく仕組みを研究する輝夜さんのため、僕とエイミィは今までどおり交流し、絆を深めてゆく。これでいいかな」
「うん、いいよ」
同意を得た僕らは、次へ移った。
二つ目はまとめと言うか、僕が特殊AIの知識を持っている事を、輝夜さんは四カ月も前から知っていたという打ち明け話だった。それによると夏休みが終わりに近づいた八月下旬、輝夜さんと昴に挨拶すべく神社を訪れたエイミィを一目見るなり、エイミィが特殊AIであることを輝夜さんは見抜いたと言う。星辰の巫女たる昴もエイミィの本質を即座に見抜き、「眠留と深く関わったAIは人としか感じられなくなるの。エイミィ、同性としていつでも相談に乗るからね」と、昴はエイミィの手を両手で包んだそうだ。相談はすぐさま行われ、特殊AIと呼ばれるAIの存在と、自分もそれに該当する事をエイミィは二人に明かし、様々なことを三人で話し合ったらしい。その過程で昴が僕への超感覚を発揮し、僕もそれを知っているはずと断言した。エイミィ絡みの断言はもう一つありそれはつい先日、エイミィを破棄させない相談相手を午前の四限を費やし文書化している最中になされたと言う。僕は冷や汗タラタラだったが輝夜さんは、
「それもあったから、お昼休みの眠留くんの糾弾に、ことさら熱が入っちゃった」
と、何でもないようにコロコロ笑った。僕は胃に穴が開く感覚を味わいながら、輝夜さんと昴が目の前にいるのに他の女の子のことばかり考えてすみませんでしたと、ただただ詫びた。輝夜さんは「そういう事じゃないんだけど」と否定しつつも次第に困惑顔になり、
「ねえ眠留くん、私と昴はエイミィに嫉妬してたのかな?」
なんて、ド直球極まる質問をぶっ放してきた。僕は正直に、胃に穴が開きそうなので勘弁してくださいと土下座し、するとコタツの向こうから飛んできた輝夜さんも三つ指ついて僕に詫び、いやいや僕こそ、ううん私こそとのやり取りを経て、この話題はうやむやのまま終わったのだった。
三つ目もまとめとは言い難く、700%増発見後の出来事についてだった。
「私とエイミィが正式な実験契約を交わし終えたのは、午後八時半だった。私がいつも九時に寝ているのを知っていたアイは暇乞いをしたけど、少しでいいから話したいってエイミィにお願いされてね。それは私も同じだったから喜んで頷いたんだけど、生徒の健康を預かる身としては認められないって、アイは表情を曇らせた。でもその曇り顔から、本当はアイもおしゃべりしたいのはバレバレだったから、私は二人にある提案をしたんだ。『じゃあいつでも寝られるように、パジャマパーティーにしようか』って」
思い出すだけで楽しくてたまりませんといった感じに輝夜さんがそう言ったものだから、胃の痛みを暫し忘れ、僕は顔をフニャフニャにした。そんな僕に、輝夜さんも顔をフニャフニャにして先を続けた。
「するとアイは、十二単からピンクのフリルパジャマに真っ先に変身したの。すっごく似合うのに、恥ずかしそうにしているアイが可愛くて盛り上がっていたら、今度はエイミィがコスモスをあしらった空色のパジャマ姿に変身したの。色とりどりのコスモスの中から、白いコスモスだけを幸せそうに指でなぞってゆくエイミィにピンときてアイと問い詰めたんだけど、私がパジャマに着替えないと話さないってエイミィは譲らなくて。だから私、あのパジャマに着替えて胸を逸らしたんだ。『このパジャマは、眠留くんの誕生日プレゼントのパジャマと、お揃いなのです!』って」
その直後、輝夜さんの部屋に絶叫がこだましたそうだ。「盛り上がり過ぎて時間感覚がなくなっちゃって、瞬きしたら九時になってたの」と満面の笑みを浮かべて輝夜さんは話を結んだが、白状すると僕の背中は、冷汗でびっしょりになっていた。乙女心の大家の真山に一刻も早く相談しないと胃に穴が開くどころか胃が溶けて無くなるかもな、などと冗談抜きに戦慄しつつ、僕と輝夜さんの初会合は幕を閉じたのだった。
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