僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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十一章

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『北斗は去年、学年代表の仕事のすべてを他の委員達へ移譲し、委員全体の能力を底上げした。確認した訳ではないけど北斗は今年もそれを実行し、なるべく大勢の生徒に、前期委員として成長してもらいたいと願っていると思う。だから僕にとってファンクラブの子たちの行いは、北斗の願いを無駄にし、北斗の生徒会長就任を邪魔しているように感じられるんだよ』
 正直言うと、去年の後期委員からその兆しはあった。後期委員になっても学年代表になる気のない真山を事実上の学年代表にすべく、真山ファンクラブの子たちは幾人もの会員をクラス代表として送り出し、その内の一人をまんまと学年代表に据えることで、自分達の欲求を叶えていたのだ。それを、真山ファンクラブと双璧を成す北斗ファンクラブの女子達が察知せぬはずはなく、また対抗心を燃え上がらせなかったとも考えにくかった。よって彼女達はそれを実行したが、彼女達より北斗を知っている僕にとって、それは北斗の大望を妨げる行為に思えてならなかったのである。
 ほどなく香取さんから、智樹と那須さんに説明を終えたとのメールが届いた。僕は三人をチャットに呼び、北斗ファンクラブは北斗の生徒会長就任を妨害している旨をそこに書き込む。続く香取さんの文面には、後悔の念が色濃く感じられた。

 香取「言い訳にしかならないけど、真山君を事実上の学年代表にする計画に、私は一応反対したの。でもこんな事になるなら、もっと反対しておかねばならなかったって、悔やまれて仕方ないよ」
 那須「集団にはしばしば意志の流れが発生し、そしてその流れは往々にして、個人の制御力を超える。だから結は、自分を責めないでほしい。それに結のような人がいないとあの子たちは近々暴走して、真山君と北斗君の首を絞めるような気が、私はする」
 智樹「香取さんに悔やまないでほしい事と、あの子たちが遠からず暴走することに俺も同意。それとは別に、真山をサッカー部で見て来た俺には、真山がこの件に関し対策をなにも施していないとは思えないんだよね。真山と北斗の両方を知る眠留は、どうだ?」
 眠留「悔やまないで欲しいことと、暴走することと、既に対策を施していることに同意。だから尚更それを予想し、行動に移しておかねばならないと僕は思う。その方が二人も、僕らを頼りにしてくれるはずだからさ」

 僕らを頼りにしてくれるという箇所が琴線に触れたのか、香取さんは目にもとまらぬ速さで予想を書き連ねて行った。その一つ一つについて、僕ら四人は熱い議論を交わしてゆく。真山に恋心を抱く香取さんがそうする気持ちは、分かる。真山と同じサッカー部員として、智樹がそうするのも充分理解できる。でも、二人と直接関わってこなかった那須さんがこれほど真摯に二人の身を案じてくれるとは、正直考えていなかった。きっと那須さんは、僕と智樹と香取さんが大切にしている二人を、自分も大切にしようと思ってくれているのだろう。真山に伝えるのは智樹と香取さんに任せても、那須さんの真心を北斗に伝えるのは僕の役目なのだと、僕は胸に深く刻んだ。
 なんて僕らをよそに、体育祭実行委員を決めるHRは着々と進行して行った。挙手して発言する段階に至っていない意見等々を、チャットを使い仲間内で議論するのは認められていたから、立候補者が定員を超え紛糾するHRに参加しなくても僕らが責められることはなかった。まったく関係ないただのおしゃべりをしていたら教育AIに注意されたはずだが、ファンクラブの動向を憂える僕らに教育AIが満足げな眼差しを向けているのを、僕ははっきり感じていたのである。ただ一度だけ、教育AIというか咲耶さんが、非難がましい顔をしたことがあった。それは、こんな会話だった。

 眠留「そう言えば、体育祭実行委員になる気がみんなには無いのかな。今すぐ立候補すれば、まだ間に合うと思うけど」
 香取「猫将軍君としたプレゼン委員が面白すぎたから、私は今年も猫将軍君と、同じ委員になりたいのよね」
 智樹「なぬ、俺もだ!」
 那須「あっ、私も!」
 眠留「いやみんな、そりゃ嬉しいけどさ、それってどうなのかな?」
 香取「せっかく同じクラスになれたのだから、いいと思うよ」
 智樹「そうだそうだ、四人一緒で何が悪い」
 那須「前期委員に九人、体育祭実行委員に十人が振り分けられるから、残り四つの委員に定員割れが発生する可能性は高いと思う。そのとき即座に手を挙げれば、一緒になれるんじゃないかな」
 香取「イイネそれ!」
 智樹「よし、じゃあその委員を予想しようぜ!」
 那須「立候補演説も考えておこうよ」
 眠留「ちょっと待った、この話題はマズイ、今はマズイって!」
 
 言うまでもなく僕が皆を止めた理由は、咲耶さんが非難がましい顔をしているのを超感覚で察知したからだ。皆もそれを感じたのかHR中の規則を思い出したのかは定かでないが、それについては別の機会を設ける事にして、僕らはとりあえず以下の予想を立てた。
『今はどんな働きかけをしても、ファンクラブの子たちの自由意思を抑制する事にしかならない。よって彼女たち自身が自らの過ちを悟る時期を、北斗と真山は待っているのではないか』
 人は身をもって体験しない限り、それを真に理解する事ができない。ファンクラブの子たちはその身をもって、己の過ちに気付くしかないのだ。然るに北斗と真山は彼女達を抑制せず好きにさせ、そして気づきを得る最高の時期を待っているのではないか。僕らはそう、予想したのである。これに基づき、皆で話をまとめた。

 眠留「今の僕らにできるのは、この予想を二人に伝えることだけだと思う。北斗は、僕が引き受けるね」
 智樹「なら真山は俺がって言いたい処だが、香取さんが望むなら俺は辞退するよ」
 香取「ううん、お願い。私には、あの子たちの気持ちも分かるから」
 那須「福井君、結の今の言葉も、真山君にちゃんと伝えてね」
 眠留「あの子たちの気持ちを知りたいって真山が思ったら、香取さんに訊くのが一番だって、真山にしっかり言うんだぞ智樹」
 智樹「なるほど、そういうことか。香取さん、俺に任せてくれ」
 香取「えっ、ちょっと待って、真山君が私に、ええっっ!!」
 
 予期せぬ展開に、香取さんは驚くやら喜ぶやらで大忙しになる。そんな彼女へ温かな眼差しを向けることを以って、僕らの話し合いは終了した。
 それが、五限の終わる五分前。その時間になって体育祭実行委員の投票がようやく始まり、上限いっぱいの十人が決定した。実を言うと、この委員に立候補者が集中し選出が難航することを、僕は事前に知っていた。それは毎年の恒例行事なのだと、昴が教えてくれたからである。そして昴はそのとき久しぶりに、できの悪い弟を諭すしっかり者の姉の表情で、僕にこう念押ししていた。
「いいこと眠留、あなたは何としても、体育祭実行委員になるのよ」と。
 北斗の大望成就を優先させたとはいえ、昴の気持ちを無視してしまったことに変わりはない。
 僕は自分を必死で制御し、頭を抱えて机に激突することを阻止したのだった。
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