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十二章
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諸手を挙げて賛同したのは智樹も同じだった。いや、香取さんの願いを叶える決意をした漢にとって、諸手の賛同はただの首肯だったのだろう。智樹はスクッと立ち上がり、同性の僕から見ても惚れ惚れする漢っぷりで場を締めくくった。
「香取さん、あなたは素晴らしい女性だ。香取さんなら、どの運動系部活に入り直しても大成し、必要不可欠な部員になると俺は考えている。だが同時に、香取さんが文芸部をとても大切にしているのも俺は知っている。よって第二部活とも呼ばれる、選択授業に力を入れてみてはどうだろうか。新学年が始まった今は、様々な選択授業をお試しで受けてみる絶好の機会だ。女子限定の授業でない限り俺も付き合うから、さっそく午後からでも足を運んでみないか」
僕は最近気づいた事がある。それは、僕の周囲にはイケメンが大勢いるという事。容姿のみを条件にするだけでも真山と北斗という飛び抜けたイケメンがいるのに、人間性という内面的要素も条件に加えたら、イケメンだらけになる。猛、京馬、新忍道部の先輩方、神崎さん、藤堂さん等々の十指では到底足らぬイケメンが、周囲に溢れていたのだ。
けどそれは多くのことと同様、僕の認識不足だった。人間性という内面的要素も加えた時点で、僕は考えをこう改めるべきだったのである。人は己の内面をいつも晒してはいないから、僕が知らないだけの大物イケメンが、近くに隠れているはずなのだと。
それを教えてくれた友を、改めて仰ぎ見てみる。
顔立ちも体躯も、平均をかなり上回っているとして間違いない。
サッカー未経験からたった一年で同級生チームのレギュラー候補になったのだから、卓越した胆力と運動神経を持っているのだろう。
フレンドリーかつ責任感のある人柄が一年時のクラスメイトに評価され、後期委員のクラス代表を立派に務めたと真山から聞いていたとおり、智樹はこの二十組でも同じ道を着実に歩み始めている。
そんな智樹を、周囲に溢れるイケメンの一人に僕は数えていたのだけど、それでは不十分だったことを今はひしひしと感じていた。
イケメンへの新たな認識を教えてくれたこの友は、そうこの友こそはまことそれに相応しい、
――隠れ大物イケメン
だったのである。
そしてそれは、僕一人の感覚ではなかった。
智樹の正面に座る女の子が、それを証明していた。
真山に恋心を寄せるその女の子は、まるで真山が突然目の前に現れたかのような表情で智樹を見つめていた。
確かにそれは、真山へ向けるそれと瓜二つではなかった。
しかしそれは、目の前の男子が世界の全てになった瞬間にのみ女の子が浮かべる表情であることに、違いはなかったのである。
だが、
「ありがとう。そしてごめんなさい」
香取さんはその一瞬を、過ぎゆくものとする選択をした。僕は立ち上がり、友の背中を叩いた。
「智樹、まだ五年ある。それに今のごめんなさいには、別の意味も含まれているんだよ。香取さん、昨日の時点で運動系の選択授業を受けるつもりでいた事を、皆に話していいかな」
香取さんは身をすぼめ、かぼそく「はい」と答える。
その姿に知った。
ああなるほど、本人が言っていたとおり、香取さんは北斗と肩を並べる知恵者ではないのだな、と。
三日前。
新忍道部の一年生部員を選考した日の、午後一時。
北斗は僕に、策に溺れた策略家が辿る暗澹たる未来について語った。その中の、
『俺の望む心理状態を他者に抱かせるべく、俺は様々な策を弄していた』
という一節が、身をすぼめる香取さんの胸中を僕に教えてくれた。香取さんは策略家では決してないが、自分の望む心理状態を他者に抱かせるべく、策を講じる人ではあった。作家としての目が、状況変化に伴う他者の気持ちの変化を容易く見抜くため、クラスのムードメーカーとして必要に迫られた際、香取さんは人知れず様々な策を講じてきたのだ。その日々が香取さんの頭脳を北斗と同級にしたのだろうが、それでも本人の言うとおり、香取さんは北斗に及ばなかった。北斗は知恵に勝る力を複数知っていて、それを獲得するための道をすでに歩んでいるが、香取さんは知恵に勝る力を知りつつも、それを獲得する道に未だ足を踏み入れていなかったのである。香取さんは昨夕、僕にこう話した。
『一年生の頃はそうじゃなかったけど二年生になったら、体育会系部活に所属している人達と文芸部の私には、隔たりがあるんじゃないかって感じるようになったの』
然るに香取さんは、そのための策を講じた。十組日記の作者としてクラスメイトを見続けた香取さんは、体操の選択授業が芹沢さんにもたらした成長と、それが北斗の案だったことを知っていた。よって同じ壁を感じていることを僕に明かせば、僕は香取さんを必ず助けようとする。それにより壁の話は火急の話題へ昇格し、昼食の場を盛り上げるに違いない。香取さんはそんな策を考え、そしてそれを実行したのである。
だがそれは、北斗なら絶対しないことだった。北斗は新忍道を介し、サークルメンバー達が自分の知恵を軽々超えてゆく様子をつぶさに見てきた。仲間を救おうとする崇高な想いの前では己の知恵など矮小な存在でしかないことを、救う立場としても救われる立場としても、北斗は幾度も経験してきたのである。然るに北斗なら、こう考えたはずなのだ。「友人達が自分の予想に収まると思うのは慢心であると同時に、友への最大の侮辱なのだ」と。
とはいえこれは北斗の個人的理念にすぎず、人類全体が共有すべき規範ではない。現に僕は、香取さんから侮辱されたなんて微塵も感じていない。香取さんは私利私欲を満たすために策を講じたのではなく、クラスのムードメーカーとして培ってきた技術を用いただけだから、侮辱等のマイナス感情が湧いてこないのだ。
しかしこれも、僕の個人的意見でしかない。香取さんが今回の件に何を感じるかは、香取さんの自由なのである。そして香取さんは、「私は友人達を侮辱してしまった」と感じた。自分を案じる友人達が、予想を超える友愛を示してくれた事。自分に恋心を抱いている友人が、予想を超える誠実さを捧げてくれた事。香取さんはそれらに、強い罪悪感を覚えた。それが香取さんに身をすぼめさせ、かつ「ごめんなさい」という言葉を紡がせたのだと、僕は気づいたのだ。
とは言うものの、これら全てを詳らかにしてはならない。仮にそれをしたら大抵の人は心に傷を負うだろうし、何よりこれを正面からぶつけて良いのは、
――香取さんと人生を共にする覚悟
のある人だけだからだ。よって僕は、現時点におけるその最有力候補者に質問した。
「なあ智樹、お前は立ち止まって考えるタイプか? それとも、とにもかくにも一歩を踏み出してみるタイプか?」と。
「香取さん、あなたは素晴らしい女性だ。香取さんなら、どの運動系部活に入り直しても大成し、必要不可欠な部員になると俺は考えている。だが同時に、香取さんが文芸部をとても大切にしているのも俺は知っている。よって第二部活とも呼ばれる、選択授業に力を入れてみてはどうだろうか。新学年が始まった今は、様々な選択授業をお試しで受けてみる絶好の機会だ。女子限定の授業でない限り俺も付き合うから、さっそく午後からでも足を運んでみないか」
僕は最近気づいた事がある。それは、僕の周囲にはイケメンが大勢いるという事。容姿のみを条件にするだけでも真山と北斗という飛び抜けたイケメンがいるのに、人間性という内面的要素も条件に加えたら、イケメンだらけになる。猛、京馬、新忍道部の先輩方、神崎さん、藤堂さん等々の十指では到底足らぬイケメンが、周囲に溢れていたのだ。
けどそれは多くのことと同様、僕の認識不足だった。人間性という内面的要素も加えた時点で、僕は考えをこう改めるべきだったのである。人は己の内面をいつも晒してはいないから、僕が知らないだけの大物イケメンが、近くに隠れているはずなのだと。
それを教えてくれた友を、改めて仰ぎ見てみる。
顔立ちも体躯も、平均をかなり上回っているとして間違いない。
サッカー未経験からたった一年で同級生チームのレギュラー候補になったのだから、卓越した胆力と運動神経を持っているのだろう。
フレンドリーかつ責任感のある人柄が一年時のクラスメイトに評価され、後期委員のクラス代表を立派に務めたと真山から聞いていたとおり、智樹はこの二十組でも同じ道を着実に歩み始めている。
そんな智樹を、周囲に溢れるイケメンの一人に僕は数えていたのだけど、それでは不十分だったことを今はひしひしと感じていた。
イケメンへの新たな認識を教えてくれたこの友は、そうこの友こそはまことそれに相応しい、
――隠れ大物イケメン
だったのである。
そしてそれは、僕一人の感覚ではなかった。
智樹の正面に座る女の子が、それを証明していた。
真山に恋心を寄せるその女の子は、まるで真山が突然目の前に現れたかのような表情で智樹を見つめていた。
確かにそれは、真山へ向けるそれと瓜二つではなかった。
しかしそれは、目の前の男子が世界の全てになった瞬間にのみ女の子が浮かべる表情であることに、違いはなかったのである。
だが、
「ありがとう。そしてごめんなさい」
香取さんはその一瞬を、過ぎゆくものとする選択をした。僕は立ち上がり、友の背中を叩いた。
「智樹、まだ五年ある。それに今のごめんなさいには、別の意味も含まれているんだよ。香取さん、昨日の時点で運動系の選択授業を受けるつもりでいた事を、皆に話していいかな」
香取さんは身をすぼめ、かぼそく「はい」と答える。
その姿に知った。
ああなるほど、本人が言っていたとおり、香取さんは北斗と肩を並べる知恵者ではないのだな、と。
三日前。
新忍道部の一年生部員を選考した日の、午後一時。
北斗は僕に、策に溺れた策略家が辿る暗澹たる未来について語った。その中の、
『俺の望む心理状態を他者に抱かせるべく、俺は様々な策を弄していた』
という一節が、身をすぼめる香取さんの胸中を僕に教えてくれた。香取さんは策略家では決してないが、自分の望む心理状態を他者に抱かせるべく、策を講じる人ではあった。作家としての目が、状況変化に伴う他者の気持ちの変化を容易く見抜くため、クラスのムードメーカーとして必要に迫られた際、香取さんは人知れず様々な策を講じてきたのだ。その日々が香取さんの頭脳を北斗と同級にしたのだろうが、それでも本人の言うとおり、香取さんは北斗に及ばなかった。北斗は知恵に勝る力を複数知っていて、それを獲得するための道をすでに歩んでいるが、香取さんは知恵に勝る力を知りつつも、それを獲得する道に未だ足を踏み入れていなかったのである。香取さんは昨夕、僕にこう話した。
『一年生の頃はそうじゃなかったけど二年生になったら、体育会系部活に所属している人達と文芸部の私には、隔たりがあるんじゃないかって感じるようになったの』
然るに香取さんは、そのための策を講じた。十組日記の作者としてクラスメイトを見続けた香取さんは、体操の選択授業が芹沢さんにもたらした成長と、それが北斗の案だったことを知っていた。よって同じ壁を感じていることを僕に明かせば、僕は香取さんを必ず助けようとする。それにより壁の話は火急の話題へ昇格し、昼食の場を盛り上げるに違いない。香取さんはそんな策を考え、そしてそれを実行したのである。
だがそれは、北斗なら絶対しないことだった。北斗は新忍道を介し、サークルメンバー達が自分の知恵を軽々超えてゆく様子をつぶさに見てきた。仲間を救おうとする崇高な想いの前では己の知恵など矮小な存在でしかないことを、救う立場としても救われる立場としても、北斗は幾度も経験してきたのである。然るに北斗なら、こう考えたはずなのだ。「友人達が自分の予想に収まると思うのは慢心であると同時に、友への最大の侮辱なのだ」と。
とはいえこれは北斗の個人的理念にすぎず、人類全体が共有すべき規範ではない。現に僕は、香取さんから侮辱されたなんて微塵も感じていない。香取さんは私利私欲を満たすために策を講じたのではなく、クラスのムードメーカーとして培ってきた技術を用いただけだから、侮辱等のマイナス感情が湧いてこないのだ。
しかしこれも、僕の個人的意見でしかない。香取さんが今回の件に何を感じるかは、香取さんの自由なのである。そして香取さんは、「私は友人達を侮辱してしまった」と感じた。自分を案じる友人達が、予想を超える友愛を示してくれた事。自分に恋心を抱いている友人が、予想を超える誠実さを捧げてくれた事。香取さんはそれらに、強い罪悪感を覚えた。それが香取さんに身をすぼめさせ、かつ「ごめんなさい」という言葉を紡がせたのだと、僕は気づいたのだ。
とは言うものの、これら全てを詳らかにしてはならない。仮にそれをしたら大抵の人は心に傷を負うだろうし、何よりこれを正面からぶつけて良いのは、
――香取さんと人生を共にする覚悟
のある人だけだからだ。よって僕は、現時点におけるその最有力候補者に質問した。
「なあ智樹、お前は立ち止まって考えるタイプか? それとも、とにもかくにも一歩を踏み出してみるタイプか?」と。
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