僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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十七章

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 そしてそれは、皆も同じだった。意地悪く言えば、決断を丸投げした僕に乗っかっただけなのだが、仮にそうだとしても心の通い合う仲間でなければ、こうも素早い団結は不可能だろう。真山を除く十一人は心を一つにして、話題を十組の大望へ、極々自然に戻していった。
 まあでも真山を除く野郎どもは目配せし合い、「湖校在学中に真山をイジリ倒せるようになるぞ大連合」を、満場一致で締結したんだけどね。
 とまあそれはさて置き、智樹と那須さんと美鈴は真山のファインプレーによって、くだんの大望を十全に理解した。ならば次は、三人が加わったことを元クラスメイトにいつ伝えるかを話し合うと僕は予想したのだけど、それは完全に外れた。僕を除く全員が、それは明日の夜に決まっていると口を揃えたのである。そこには今の二十組の三人も、つまり智樹と那須さんと香取さんも含まれていたから、僕は涙目で「明日の夜はクラス展示の暫定投票をするではありませんか?」と訴えた。すると、
「「「見てないの?」」」
 三人は一斉に呆れ声を出した。僕の呆然自失ぶりから「見てない」と判断した三人は、二十組の文化祭掲示板を手元に映し出してくれた。僕は驚きに目を剥いた。昨夕の時点で二カ所開催案は可決同然になっていて、気の早い連中がドレスや冒険者服の3D案をアップするようになり、今はそれを身に付ける際の魔法エフェクトまでもがアップされまくっていたのである。目を剥くのみならず口をあんぐり開けた僕を気遣ってくれたのだろう、香取さんが十指を閃かせ、アップされた魔法エフェクトや3D衣装の中から目ぼしいものを空中に映してくれた。凄まじくクオリティーの高いそれらを見るや、級友達が心底楽しんでいる様子が瞼にありありと浮かんで来て、僕はさっきとは真逆の意味で涙目になった。そんな僕の肩を、智樹が軽快に叩いた。
「掲示板がこんな状態でも、暫定投票を建前上呼びかけなければならない俺の立場を、クラスの皆は理解してくれている。そんな奴らばかりがいるクラスだから、明日の投票はあっという間に終わるだろう。眠留と香取さんは後顧の憂いなく、旧十組の会合に臨んでくれ」
 微力ながら私も手伝うよと那須さんが智樹に約束し、そんな那須さんへ女性陣の感謝が集中しているこの状況で、四の五の言ったら男が廃る。智樹と那須さんへ「よろしくお願いします」と上体を折ると、事実上の前期委員長である北斗が、文化祭に関する裏情報を教えてくれた。
「二年生で文化祭の準備が最も進んでいるのは、俺の一組と眠留達の二十組だ。一組も明日の夜にネット会合を開くが、俺は文化祭実行委員ではないから、旧十組の会合を同時進行させても不都合は何もない。眠留、香取さん、安心してほしい」
 北斗が太鼓判を押すのだから不安などあるはずが無い。僕は改めて皆へ向き直り、皆も改めて背筋を伸ばして、明日の夜は頑張ろうと誓い合った。
 その話題はそれでお開きになり、残り少なくなった太巻きと稲荷寿司を野郎どもで奪い合ったのち、夕食会は幕を下ろした。そして恒例の男性陣による後片付けの最中、「二年生で文化祭の準備が最も進んでいるのは一組と二十組」という情報を思い出した僕は、そのクラスが文化祭の覇者を争う未来を、まざまざと幻視したのだった。

 翌日曜の、午後七時。
 もしもの場合に備え、二十組の事前投票を僕は利用させてもらった。票を投じたのは言うまでもなく、二カ所開催案だった。
 その三十分後に始まった旧十組のネット会合は、毎度毎度のことながら白熱した。休憩を兼ね八時五分に、二十組のクラスHPを覗いたところ、
「二カ所開催案、得票数四十一!」
 とのNEWアイコンが表示されていた。投票権を持たない実行委員長の智樹を除く全員が、二カ所開催を選んだのである。智樹と那須さんへ感謝のメールを直ちに送り、首と肩をグルグル回してから、旧十組の議論へ僕は再び飛び込んで行った。
 今年の文化祭を物足りなく感じている旧十組の生徒は、一組と二十組の計四人を除いた全員と正式に告げられた皆は、薄々気づいていたことも相まって大層な衝撃を受けていた。よって当初は、今からでも文化祭に介入して盛り返そうという意見が大勢を占めていたが、香取さんのこの書き込みにより様相は一変した。
「真山君と北斗君が断腸の想いでした、ファンクラブへの対応を、みんな思い出して」
 二人は、自分達のファンクラブの間違った活動が湖校独自の生徒会長選挙を無に帰す危険性があることを、生贄をあえて作ることで学年全体へ知らしめた。正直言うとあの騒動の直後は、「生贄を作るなんて残酷すぎる」「二人には失望した」に類する意見が、そこかしこで囁かれていた。けれどもそれは、二人と一年間過ごした旧十組の生徒にとって、的外れ以外の何ものでもなかった。香取さんの言うとおり二人が断腸の想いであの計画を実行したと、旧十組の皆は知っていたのである。
 だが実際は違った。旧十組の自分は北斗と真山の真意を知っていると考えていたのに、五十歩百歩でしかなかったことを、香取さんは皆に突き付けたのだ。責任感の強い二人は、ファンクラブが暴走した根源的責任を、自分たち自身にあると考えた。つまり北斗と真山が差し出した本当の生贄は暴走したファンの子ではなく、「二人には失望した」が示すように、自分たち自身だったのである。それを真に理解しているなら、文化祭実行委員でもないのに、クラス展示に今更ズケズケ介入して盛り返そうなどと考えない。そうではなく、クラス展示を物足りなくしてしまった根源的責任は、己の思慮不足にあると考えよう。文化祭で失敗したぶん、クリスマス会とプレゼン大会には積極的に参加し、旧十組のクオリティーに近づけてみせよう。それこそが旧十組の生徒の役目であると、香取さんは皆に訴えたのだ。この悲痛な叫びは皆の心をえぐり、それ以降はクリスマス会とプレゼン大会で嫌味なく、かつ存分に力を発揮するための方法が、主な議題となっていった。そして頃合いを計り、北斗が議論を総括した。
「皆の実力をもってすれば、文化祭に積極介入し、中心人物としてクラス展示を盛り返すのは充分可能と俺は思う。だが今更それをすると、上から目線の印象をクラスメイトにもたらしかねない。それは、この学年から上下高低意識を取り除くという俺達の大望を、大きく後退させてしまうだろう。したがって俺達旧十組の生徒は、縁の下の力持ちとして文化祭のクラス展示を支える。質の高い仕事をし、それを誇りとし、そしてその誇りをクラスメイトと共有してゆく。そうすればクリスマス会とプレゼン大会で、クラスの協力を格段に得やすくなるはずだ。文化祭実行委員の委員長や議長に立候補しなかったという過去は、もう変えられない。しかし、未来は変えることができる。その未来について、白銀さんに話してもらいたい。眠留、いいかな」
「なっ、なんで僕に振るんだ~~!!」
 と、北斗にまんまと乗せられて無意識にそう書き込んだ途端、掲示板は爆笑表記の大爆発状態になった。怒りを覚えなかったと言えば嘘になるけど、最終的に僕は北斗へ感謝した。爆笑表記には輝夜さんのものも含まれていて、その表記に違わず輝夜さんは昴と芹沢さんから委員に誘われた様子をとても嬉しげに話し、二人もノリノリでそれに加わったから、僕がダシになった事など無に等しいのである。大いに癪ではあったが、まあいいのだ。
「白銀さん、昴、芹沢さん、貴重な体験を書き込んでくれてありがとう。三人の書き込みは、クリスマス会とプレゼン大会に臨む皆の、素晴らしい助けになると思う。そうそう忘れていたが、眠留もあんがとな」
「グギギギ~~」
 爆笑表記が再度大噴火するも、今回は意図して北斗に乗っかったので、グギギとは裏腹に僕も笑い転げていた。輝夜さんと昴と芹沢さんが、大笑いの絵文字をメールで直に送ってくれたから尚更だね。
 ほどなく、旧十組のネット会議は終了した。
 時刻は、午後八時四十五分。
 僕の就寝時間に合わせて会議を終らせる事にこうも長けてくれた元クラスメイト達へ、無限の感謝を捧げながら、僕は嬉々として寝る準備を始めたのだった。
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