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二十章
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続く休憩時間、トイレに向かっている最中の僕の背中に、級友男子の声が掛かった。
「よう猫将軍、依頼されていたあの件、休暇中にばっちり終わらせたぜ」
「よう小池、せっかくの休暇に頼んじまって、悪かったな」
そう、後ろから声を掛けて来たのは小池だった。僕は休暇前、小池と遠山さんにある提案をし、それを素晴らしいアイデアと絶賛した二人は、委員会に提出する資料の制作を引き受けてくれていたのだ。二人は約束どおりそれを成し遂げ、資料の完成を今こうして報告してくれたのに、学期間休暇を文化祭準備に捧げた級友として僕は二人を認識していなかった。その理由は、これ
「いやいや猫将軍、ここだけの話だが、遠山さんの好みを沢山知ることができて、俺マジ助かっちまったよ」
そうなのだ、恋の始まりにいる小池と遠山さんにとって、
――クラス展示にウエディングドレスを加えてしまおう大作戦
は、楽しくて仕方ないお題目だったはず。今の発言どおり、ウエディングドレスの制作を介して遠山さんの好みはもちろん、あこがれの結婚式や将来の夢等々への貴重な情報を小池は沢山仕入れたに違いないから、休暇を文化祭準備に捧げた級友に僕は二人を加えていなかったのである。けどまあそれは、胸の内に仕舞っておくのが無難。僕は休憩時間のすべてを費やして小池のノロケ話に、もといウエディングドレス制作に関する報告に、耳を傾けていた。
しかし二限目が始まり、二人から受け取った資料を精査するにつれ、僕は自分の間違いを認めざるを得なくなって行った。二人の資料にはウエディングドレスの設計図となる3Dプログラムが、なんと三つも記載されていたのだ。それは素人かつ無粋な僕でもため息をつかずにはいられない卓越したデザインのウエディングドレスで、しかもその上、三つそれぞれに四カ所のアレンジが可能なよう工夫されていたのである。僕は資料の出来栄えに脱帽するしかなくそれを正直に伝えたところ、二人は暫し間を置いたのち、思いもよらぬ告白をチャットに綴った。
小「う~ん、実はな猫将軍。これは俺達の、みんなへのお詫びでもあるんだよ」
遠「猫将軍君には、これを打ち明ける最初の人になって欲しいの。どうか聞いて下さい」
小「ホントは俺達、俺達の交際が皆にバレてるって、知ってたんだ」
遠「皆が私達の様子に辟易していたのも、ちゃんと知っていたの」
小「でも、言い訳にしかならないが」
遠「皆に秘密で付き合うってシチュエーションに、私たち酔っちゃって」
小「万全のフォローをしてくれる猫将軍に、頼り切っちまったんだ」
遠「猫将軍君がこの作戦を提案してくれた時の私の喜びよう、覚えてる?」
小「うん、あれにも理由があってさ」
遠「私達は、交際を秘密にしてるってシチュエーションに酔ってはいたけど」
小「それでも心の隅に、皆を辟易させてスマンって気持ちがやっぱあって」
遠「だからあの時、この提案をしてくれて凄く嬉しかったの」
小「なあ猫将軍、お前は気づいていなかったが」
遠「皆に謝罪してお詫びの品を提供できる状況を、猫将軍君はあの日、私達にくれたという事ね」
小「改めて、礼を言わせてくれ」
遠「かけがえのないきっかけをプレゼントしてくれて、ありがとう猫将軍君」
二人には申し訳ないが、チャットに「どういたしまして」のたった八文字を打ち込むまで、一分近く時間がかかってしまった。ハンカチを目に押し当て歯を食いしばり、溢れようとする涙を堪えていたのである。僕が感動屋なのは皆に知れ渡っているからか一分近く待たせても、二人は不快に感じていないようだった。
その後、この資料の有効な使用法について、三人で時間を忘れて語り合った。ただどうしても、資料作成の苦労話が二人のノロケ話になるのは避けられず、そして僕も休暇前同様、幸せ一杯の二人の話を聴くことにストレスをまったく感じなかったから、だいたい半分はノロケ話に費やしたのが実情なんだけどね。
それでも納得のいく結論を二限中に得られた僕ら三人は、休憩開始を告げるチャイムを、ガッツポーズをしながら聞くことができたのだった。
が、それもつかの間だった。
「おい眠留、ちょっと顔貸せ」
智樹を始めとする男子五人の文化祭委員にチャイムが終わるや取り囲まれ、そして実技棟のトイレに有無を言わさず連れていかれたのである。その途中、久保田にさりげなく目をやり助けを求めるも、温厚な久保田ですら厳しい表情をしていて、しかも皆が怒っている理由に思い当たる節がありまくった僕は、お仕置きが待っているロバの如く連行されるしかなかった。
けどまあ、そこは湖校生なのだろう。有無を言わさず連行されても、問答無用で糾弾されることは無かったのである。鬼の形相の皆に釈明の機会を与えられた僕は、教室から遠く離れたここに着くまでに考えておいた、三段構えの事情説明を行った。
「事の発端は、千家先生への感謝の気持ちだったんだ」
仮に僕の本音を職業で表記する魔法具があったら、この瞬間僕の職業は間違いなく、
―― 策士
になっていたんだろうなあ。
僕ら文化祭委員は千家さんへ、巨大な感謝を捧げている。特に男子達は、千家さんを女神のように崇めていた。十代半ばの男子というものは優しくて綺麗な年上女性へ、逆らいようのない憧憬を抱くものだからだ。その崇拝心を刺激せずにはいられない、
―― 千家先生への感謝の気持ち
との言葉を耳にした男子達は、様相を一変させた。皆が皆「むむっ」「なにっ」「そっ、そうだったのか」などと呟き、怒気の大半を手放した顔になったのである。ウブさを多分に残す青少年達へ、策士の僕は第二の矢を放った。
「小池と遠山さんが桃色の空気を爆発させても僕はぜんぜん気にならなかったから、辟易する皆の代わりに二人と接していたよね。恋の始まりにいる二人は、やっぱ幸せ一杯でさ。そんな二人を見ていたら、千家先生へのお礼について閃いた事があったんだよ」
「よう猫将軍、依頼されていたあの件、休暇中にばっちり終わらせたぜ」
「よう小池、せっかくの休暇に頼んじまって、悪かったな」
そう、後ろから声を掛けて来たのは小池だった。僕は休暇前、小池と遠山さんにある提案をし、それを素晴らしいアイデアと絶賛した二人は、委員会に提出する資料の制作を引き受けてくれていたのだ。二人は約束どおりそれを成し遂げ、資料の完成を今こうして報告してくれたのに、学期間休暇を文化祭準備に捧げた級友として僕は二人を認識していなかった。その理由は、これ
「いやいや猫将軍、ここだけの話だが、遠山さんの好みを沢山知ることができて、俺マジ助かっちまったよ」
そうなのだ、恋の始まりにいる小池と遠山さんにとって、
――クラス展示にウエディングドレスを加えてしまおう大作戦
は、楽しくて仕方ないお題目だったはず。今の発言どおり、ウエディングドレスの制作を介して遠山さんの好みはもちろん、あこがれの結婚式や将来の夢等々への貴重な情報を小池は沢山仕入れたに違いないから、休暇を文化祭準備に捧げた級友に僕は二人を加えていなかったのである。けどまあそれは、胸の内に仕舞っておくのが無難。僕は休憩時間のすべてを費やして小池のノロケ話に、もといウエディングドレス制作に関する報告に、耳を傾けていた。
しかし二限目が始まり、二人から受け取った資料を精査するにつれ、僕は自分の間違いを認めざるを得なくなって行った。二人の資料にはウエディングドレスの設計図となる3Dプログラムが、なんと三つも記載されていたのだ。それは素人かつ無粋な僕でもため息をつかずにはいられない卓越したデザインのウエディングドレスで、しかもその上、三つそれぞれに四カ所のアレンジが可能なよう工夫されていたのである。僕は資料の出来栄えに脱帽するしかなくそれを正直に伝えたところ、二人は暫し間を置いたのち、思いもよらぬ告白をチャットに綴った。
小「う~ん、実はな猫将軍。これは俺達の、みんなへのお詫びでもあるんだよ」
遠「猫将軍君には、これを打ち明ける最初の人になって欲しいの。どうか聞いて下さい」
小「ホントは俺達、俺達の交際が皆にバレてるって、知ってたんだ」
遠「皆が私達の様子に辟易していたのも、ちゃんと知っていたの」
小「でも、言い訳にしかならないが」
遠「皆に秘密で付き合うってシチュエーションに、私たち酔っちゃって」
小「万全のフォローをしてくれる猫将軍に、頼り切っちまったんだ」
遠「猫将軍君がこの作戦を提案してくれた時の私の喜びよう、覚えてる?」
小「うん、あれにも理由があってさ」
遠「私達は、交際を秘密にしてるってシチュエーションに酔ってはいたけど」
小「それでも心の隅に、皆を辟易させてスマンって気持ちがやっぱあって」
遠「だからあの時、この提案をしてくれて凄く嬉しかったの」
小「なあ猫将軍、お前は気づいていなかったが」
遠「皆に謝罪してお詫びの品を提供できる状況を、猫将軍君はあの日、私達にくれたという事ね」
小「改めて、礼を言わせてくれ」
遠「かけがえのないきっかけをプレゼントしてくれて、ありがとう猫将軍君」
二人には申し訳ないが、チャットに「どういたしまして」のたった八文字を打ち込むまで、一分近く時間がかかってしまった。ハンカチを目に押し当て歯を食いしばり、溢れようとする涙を堪えていたのである。僕が感動屋なのは皆に知れ渡っているからか一分近く待たせても、二人は不快に感じていないようだった。
その後、この資料の有効な使用法について、三人で時間を忘れて語り合った。ただどうしても、資料作成の苦労話が二人のノロケ話になるのは避けられず、そして僕も休暇前同様、幸せ一杯の二人の話を聴くことにストレスをまったく感じなかったから、だいたい半分はノロケ話に費やしたのが実情なんだけどね。
それでも納得のいく結論を二限中に得られた僕ら三人は、休憩開始を告げるチャイムを、ガッツポーズをしながら聞くことができたのだった。
が、それもつかの間だった。
「おい眠留、ちょっと顔貸せ」
智樹を始めとする男子五人の文化祭委員にチャイムが終わるや取り囲まれ、そして実技棟のトイレに有無を言わさず連れていかれたのである。その途中、久保田にさりげなく目をやり助けを求めるも、温厚な久保田ですら厳しい表情をしていて、しかも皆が怒っている理由に思い当たる節がありまくった僕は、お仕置きが待っているロバの如く連行されるしかなかった。
けどまあ、そこは湖校生なのだろう。有無を言わさず連行されても、問答無用で糾弾されることは無かったのである。鬼の形相の皆に釈明の機会を与えられた僕は、教室から遠く離れたここに着くまでに考えておいた、三段構えの事情説明を行った。
「事の発端は、千家先生への感謝の気持ちだったんだ」
仮に僕の本音を職業で表記する魔法具があったら、この瞬間僕の職業は間違いなく、
―― 策士
になっていたんだろうなあ。
僕ら文化祭委員は千家さんへ、巨大な感謝を捧げている。特に男子達は、千家さんを女神のように崇めていた。十代半ばの男子というものは優しくて綺麗な年上女性へ、逆らいようのない憧憬を抱くものだからだ。その崇拝心を刺激せずにはいられない、
―― 千家先生への感謝の気持ち
との言葉を耳にした男子達は、様相を一変させた。皆が皆「むむっ」「なにっ」「そっ、そうだったのか」などと呟き、怒気の大半を手放した顔になったのである。ウブさを多分に残す青少年達へ、策士の僕は第二の矢を放った。
「小池と遠山さんが桃色の空気を爆発させても僕はぜんぜん気にならなかったから、辟易する皆の代わりに二人と接していたよね。恋の始まりにいる二人は、やっぱ幸せ一杯でさ。そんな二人を見ていたら、千家先生へのお礼について閃いた事があったんだよ」
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