731 / 934
二十章
7
しおりを挟む
続いて女子のスケジュールに移るも、それはあっけない程すぐ終わった。男子のスケジュールの、性別の部分を女子に替えれば、それで完成だったのである。ならば一分一秒でも早い方が良いということになり、明日金曜放課後の男女別練習と、それに参加できなかった場合の救済措置の二点をメールに綴り、クラスメイト全員に送信した。すると予想外の事態が発生し、僕は思わず叫んでしまった。
「なんでみんな判を押したように、明日放課後の練習に参加可能だけど日曜の実践練習にもできれば出たいって、こうもすぐ返信して来たの?」
明日の放課後に皆の都合が付いたのは、容易く想像できる。学期間休暇明けから文化祭の準備が本格化するのは毎年の恒例なので、後期初日の今日は部活に顔を出し、週三日の自由日以上に休んでしまう場合の部の規約を確認するのも、恒例行事だったからだ。しかし、日曜の件は不可解。結婚式場を兼ねる神楽殿に入ってみたいと女子が考えるのは納得できても全員と言うのはやはり首を傾げるし、しかも男子全員も同様と来れば、首のひねりに眉間の縦皺を加えざるを得ない。ひょっとして、美鈴が目当てなのだろうか? もしそうなら女子は良いとしても、アホ猿どもは断固拒否しないとな! などと闘志を燃え上がらせた僕の胸中を、夕食会メンバーは察したのだと思う。
「眠留、美鈴ちゃんを一目見たいと願う男子はいるかもしれないが、心配ないと思うぞ」「うん、女子全員で美鈴ちゃんを守るから、安心して」「美鈴ちゃんは神々しいタイプの美少女だから、一学年違う程度じゃ、ひれ伏すのが精一杯じゃないかな」
智樹と那須さんと香取さんが、それぞれ的を射た言葉で僕の心配を取り除いてくれたのだ。美鈴と面識のある久保田と秋吉さんも協力を確約し、残り四人もすぐさま二人に賛同する。妹のいる岡崎は特に張り切ってくれて、それが嬉しくて堪らなかった僕は、日曜午後の件を了承した。次の瞬間、
「日曜午後の合同練習を、成功させるぞ!」
「「「「オオォ―― ッッ!!」」」」
智樹の放った檄に全員が拳を天に突き上げた。合同練習の日程が一日前倒しになったのだからこれで良かったのだと、僕は心から思うことができたのだった。
続いて男女に分かれ、序列戦争の説明方法について話し合った。石塚らのお陰で男子はすぐ目途を立てられたが、女子は手こずっているようだ。とはいえこの件に関し、男子にできることは無い。男子組は駒を先に進め、お辞儀と挨拶等の基本所作の予習に移っていった。
とここで、予想外の事実が判明した。男子の接客責任者の僕がアシスタント役を久保田にお願いし、そして久保田が高レベルの所作を見本として披露した事に、石塚ら三人が意表を突かれた顔をしていたのだ。三人に尋ねたところ、千家さんの初塗装授業の直前に急遽行った礼儀作法の訓練中、三人は自分のことに一杯一杯で、周囲に目をやる余裕がなかったらしい。よって三人が久保田の実力を知ったのは今が初めてであり、そして「これなら明日の訓練もスムーズにいくはず」と、三人は安堵の息を吐いていた。三人の見解は正しかった。久保田が所作を担当し僕がそれを解説した方が、僕一人で全部するより伝わりやすくて当然だからだ。かくなる次第で男子組は明日の予習に、僕と久保田の連携を新たに加えて、練習を重ねていった。
この時点までは多少の紆余曲折があったにせよ、委員達はパワーランチの手綱を握っていたと言える。だがお昼休み終了の予鈴まで残り五分となったころ、切羽詰まった表情をした女子達が全員で僕の名を呼び、そして香取さんが僕にある問いかけをするや、手綱はここにいる十人の手を離れて行った。その問いかけは、これだった。
「去年の十組が学年末ギリギリに辿り着いた、六年時の不公平なクラス分けに関する、研究学校初の推測。あの推測を、明日放課後の女子の初練習で皆に伝えるしか、序列戦争の恐怖に打ち勝つ方法はないように私は感じていたの。私の一存で秋吉さんと水谷さんにあの推測を伝えたら、二人もそれしかないって同意してくれた。ねえ猫将軍君、私たちは、どうすれば良いのかな」
それ以降の十秒間の記憶が、僕にはない。僕の両肩を掴み「戻ってこい眠留!」と叫び続けた智樹によると、
―― 時間の流れが異なる世界
に僕がいるような錯覚を、智樹は覚えたと言う。その直後に僕が取った行動から、それは錯覚ではなく真実だったのだろうと同僚達は口を揃えるが、恥ずかしくて死にそうなためそれは脇に置くこととする。ええっとつまり、この世界に戻って来た僕は、
「香取さん、同じ説明を男子委員にもして欲しい」
と強引な口調すれすれで頼んだ。続いて男子達に素早く体を向け、
「皆、覚悟を決めて!」
強引な口調そのものでそう言い放ち、座る時間も惜しいとばかりに立ったまま2D画面を立ち上げ、北斗と真山と猛と京馬に事と次第のメールを送ったのである。自分のクラスのパワーランチに出席していた真山も含み、四人から一斉に返信を受け取った僕は、五人によるチャットを進めて行った。そしてお昼休み終了の予鈴が鳴り終わると同時に、
「北斗、真山、猛、京馬の合意を得られた。五限終了までに、旧クラスメイト全員をまとめてみせる。香取さん、助力よろしく!」
などと似合わない事この上ない宣言をして、今日の清掃場所に僕は大股で向かったのである。いやホント、思い出しただけで、羞恥心に息の根を止められそうだよ・・・
冗談抜きに心臓が止まりそうだから、話を先に進めることとする。
渾身の集中力を発揮し今日の清掃分担を速攻で終らせた僕は、輝夜さんと昴と芹沢さんに、こんなメールを送った。
『去年の喫茶店の接客業務で、来店した同学年の女子生徒との間に、マウントの取り合いはあったのかな?』
おそらく香取さんが僕より早くメールを出していたのだろう、清掃は終わらせてあるから安心してと冒頭に綴った長文を、三人はさほど間を置かず返信してくれた。すぐ読みたいと騒ぎ立てる本音をねじ伏せ、すべきことを全部終らせてから教室の自分の席に座り、三人の長文を精読してゆく。それらを要約すると、こんな内容になるだろうか。
「なんでみんな判を押したように、明日放課後の練習に参加可能だけど日曜の実践練習にもできれば出たいって、こうもすぐ返信して来たの?」
明日の放課後に皆の都合が付いたのは、容易く想像できる。学期間休暇明けから文化祭の準備が本格化するのは毎年の恒例なので、後期初日の今日は部活に顔を出し、週三日の自由日以上に休んでしまう場合の部の規約を確認するのも、恒例行事だったからだ。しかし、日曜の件は不可解。結婚式場を兼ねる神楽殿に入ってみたいと女子が考えるのは納得できても全員と言うのはやはり首を傾げるし、しかも男子全員も同様と来れば、首のひねりに眉間の縦皺を加えざるを得ない。ひょっとして、美鈴が目当てなのだろうか? もしそうなら女子は良いとしても、アホ猿どもは断固拒否しないとな! などと闘志を燃え上がらせた僕の胸中を、夕食会メンバーは察したのだと思う。
「眠留、美鈴ちゃんを一目見たいと願う男子はいるかもしれないが、心配ないと思うぞ」「うん、女子全員で美鈴ちゃんを守るから、安心して」「美鈴ちゃんは神々しいタイプの美少女だから、一学年違う程度じゃ、ひれ伏すのが精一杯じゃないかな」
智樹と那須さんと香取さんが、それぞれ的を射た言葉で僕の心配を取り除いてくれたのだ。美鈴と面識のある久保田と秋吉さんも協力を確約し、残り四人もすぐさま二人に賛同する。妹のいる岡崎は特に張り切ってくれて、それが嬉しくて堪らなかった僕は、日曜午後の件を了承した。次の瞬間、
「日曜午後の合同練習を、成功させるぞ!」
「「「「オオォ―― ッッ!!」」」」
智樹の放った檄に全員が拳を天に突き上げた。合同練習の日程が一日前倒しになったのだからこれで良かったのだと、僕は心から思うことができたのだった。
続いて男女に分かれ、序列戦争の説明方法について話し合った。石塚らのお陰で男子はすぐ目途を立てられたが、女子は手こずっているようだ。とはいえこの件に関し、男子にできることは無い。男子組は駒を先に進め、お辞儀と挨拶等の基本所作の予習に移っていった。
とここで、予想外の事実が判明した。男子の接客責任者の僕がアシスタント役を久保田にお願いし、そして久保田が高レベルの所作を見本として披露した事に、石塚ら三人が意表を突かれた顔をしていたのだ。三人に尋ねたところ、千家さんの初塗装授業の直前に急遽行った礼儀作法の訓練中、三人は自分のことに一杯一杯で、周囲に目をやる余裕がなかったらしい。よって三人が久保田の実力を知ったのは今が初めてであり、そして「これなら明日の訓練もスムーズにいくはず」と、三人は安堵の息を吐いていた。三人の見解は正しかった。久保田が所作を担当し僕がそれを解説した方が、僕一人で全部するより伝わりやすくて当然だからだ。かくなる次第で男子組は明日の予習に、僕と久保田の連携を新たに加えて、練習を重ねていった。
この時点までは多少の紆余曲折があったにせよ、委員達はパワーランチの手綱を握っていたと言える。だがお昼休み終了の予鈴まで残り五分となったころ、切羽詰まった表情をした女子達が全員で僕の名を呼び、そして香取さんが僕にある問いかけをするや、手綱はここにいる十人の手を離れて行った。その問いかけは、これだった。
「去年の十組が学年末ギリギリに辿り着いた、六年時の不公平なクラス分けに関する、研究学校初の推測。あの推測を、明日放課後の女子の初練習で皆に伝えるしか、序列戦争の恐怖に打ち勝つ方法はないように私は感じていたの。私の一存で秋吉さんと水谷さんにあの推測を伝えたら、二人もそれしかないって同意してくれた。ねえ猫将軍君、私たちは、どうすれば良いのかな」
それ以降の十秒間の記憶が、僕にはない。僕の両肩を掴み「戻ってこい眠留!」と叫び続けた智樹によると、
―― 時間の流れが異なる世界
に僕がいるような錯覚を、智樹は覚えたと言う。その直後に僕が取った行動から、それは錯覚ではなく真実だったのだろうと同僚達は口を揃えるが、恥ずかしくて死にそうなためそれは脇に置くこととする。ええっとつまり、この世界に戻って来た僕は、
「香取さん、同じ説明を男子委員にもして欲しい」
と強引な口調すれすれで頼んだ。続いて男子達に素早く体を向け、
「皆、覚悟を決めて!」
強引な口調そのものでそう言い放ち、座る時間も惜しいとばかりに立ったまま2D画面を立ち上げ、北斗と真山と猛と京馬に事と次第のメールを送ったのである。自分のクラスのパワーランチに出席していた真山も含み、四人から一斉に返信を受け取った僕は、五人によるチャットを進めて行った。そしてお昼休み終了の予鈴が鳴り終わると同時に、
「北斗、真山、猛、京馬の合意を得られた。五限終了までに、旧クラスメイト全員をまとめてみせる。香取さん、助力よろしく!」
などと似合わない事この上ない宣言をして、今日の清掃場所に僕は大股で向かったのである。いやホント、思い出しただけで、羞恥心に息の根を止められそうだよ・・・
冗談抜きに心臓が止まりそうだから、話を先に進めることとする。
渾身の集中力を発揮し今日の清掃分担を速攻で終らせた僕は、輝夜さんと昴と芹沢さんに、こんなメールを送った。
『去年の喫茶店の接客業務で、来店した同学年の女子生徒との間に、マウントの取り合いはあったのかな?』
おそらく香取さんが僕より早くメールを出していたのだろう、清掃は終わらせてあるから安心してと冒頭に綴った長文を、三人はさほど間を置かず返信してくれた。すぐ読みたいと騒ぎ立てる本音をねじ伏せ、すべきことを全部終らせてから教室の自分の席に座り、三人の長文を精読してゆく。それらを要約すると、こんな内容になるだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ガチャから始まる錬金ライフ
盾乃あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。
手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。
他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。
どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。
自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
転移したらダンジョンの下層だった
Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。
もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。
そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる