僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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二十章

文化祭二日目、1

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 翌朝の魔想討伐と翔刀術の訓練を、僕はいつになく真剣にこなした。毎回全力を尽くしているつもりでも、今日はもっと真剣に行うぞと決意したらそれが叶ってしまうのは、良いことなのだろうか。それとも、悪いことなのだろうか。その判断を付けられなかった僕を、水晶が豪快に笑い飛ばしてくれた。
「おにぎりのためにそうも頑張れるのは、青春の特権じゃのう」
 水晶を始めとする十三匹の精霊猫全員がああも楽しげに笑っていたのだから、少なくとも悪い事ではないんだろうなと僕は考えている。
 訓練後は二時間ほど寝るのが常なのだけど、今日はすぐ朝食に移った。美鈴が昨夜作ってくれた、大量のきんぴら牛蒡をしっかり咀嚼し、胃袋へ詰め込んでゆく。お腹が空きすぎて胃痛がした昨日より、今日は空腹度が一段増すと予想されたため、消化吸収に時間の掛かるおかずをあえて選んだのである。きんぴら牛蒡で膨れ上がったお腹を抱えて、僕はベッドに横たわった。
 約二時間後の六時五十分、大量の着替えを詰め込んだバッグを背負い、玄関を後にした。湖校の規則を読み返したところ、大会に出場する等の特別な事情を除き、朝七時以前の登校は滅多に許可されないらしい。王冠を完成させた昨日はいざ知らず、「四合おにぎりを制覇してオメガの戦士になりたいから」などという今日の理由が受理されるとは到底思えなかったので、朝七時丁度に校門をくぐるよう出発したのである。
 実技棟の個室に着き、いつもの倍の時間をかけて早朝研究に励んだ。すると研究が三倍近く捗るという、嬉しい誤算が生じた。エイミィによると、深夜に起床し魔想討伐や訓練を行ってきた僕の体は、深夜から早朝にかけて最高の能力を発揮する、いわゆる深夜早朝型になったのではないかとの事だった。思い当たる節が多々あったため、三十分早い早朝研究を、週二日を目途に試みる決定をした。それを聞き、エイミィが顔をパッと輝かせる。しかし瞬き一回後にはすまし顔になっていて、続く瞬きでは喜びを隠しきれなくなっており、そしてその次の瞬き以降は演技をどうしてもできない自分に落ち込むという、僕の女子バージョンのような状態になっていた。いやもちろん、超絶美形のエイミィと僕に天と地ほどの外見差があるのは、重々承知しているんだけどね。
 八時二十分から始まったHRでは、昨日の実績が発表された。教室棟と実技棟の二カ所開催が活き、二十組は集客数一位を独走していると言う。然るによほどの事態が起きない限り集客部門一位は揺るがないだろうが、
 ―― 一組と六組と二十組の三つ巴
 が一日目にして既に確立したとの報告は、教室を大いに揺るがした。事前予想のとおり売り上げ部門一位は一組の鬼斬り道が、インパクト部門一位は六組の真山ライブがそれぞれ獲得し、二位と三位もこの三クラスによって独占されているそうなのである。今日は朝露の白薔薇を筆頭とする、ウエディングドレス希望のお客様が多数予約されているので二十組は大量のインパクトを稼ぐに違いないが、それでも真山のあのライブを抜けるかと問われたら、眉間に皺を寄せるしかない。仮にインパクトで二位になっても売り上げ部門も二位になれば総合優勝は二十組になるが、真山効果によって高額ジュースが飛ぶように売れている六組は昨日の時点で売り上げ二位につけており、これも抜くのは微妙。料金を安くして客数を伸ばす作戦の二十組には、三位が精一杯なのだ。しかしかく言う六組も、ライブ中とその前後は客足が途絶え閑古鳥が鳴くという、大きな弱点をかかえていた。したがって六組の来客数は三位が上限でありその結果、

 来客数  二十組  一組  六組
 売り上げ  一組  六組 二十組
 インパクト 六組 二十組  一組

 というまさしく三つ巴が、昨日の時点で確立していたのである。そしてこれは裏を返せば、この三クラス以外のクラスが三つ巴に参入したら、参入されたクラスは総合三位が確定するという事。二十組の四十二人は今日の七時間を全力疾走すべく、闘志を燃え上がらせたのだった。
 HRを終え、各自それぞれの場所へ散ってゆく。僕が向かったのは、男子更衣室。今日の僕のシフトは当初の予定どおり、実技棟の第一陣と教室棟の第四陣だから、実技棟用の制服に着替える必要があったんだね。
 もっとも、蝶ネクタイを着用するだけの男子に、更衣室行きは義務付けられていない。二十組は男子更衣室から離れている事もあり、実技棟の隅でちゃちゃっと済ませる男子も昨日は多数いたようだ。しかし、本日二日目の第一陣に限って言えば、ちゃちゃっと男子は一人もいなかった。九時十五分に朝露の白薔薇が来店されるのに、片手間で済ますなどありえないのである。僕は同僚の男子二人と共に、無言かつ早足で更衣室へ向かった。
 ちなみに女子は、実技棟の店舗に最も近い第八小会議室を、ニ十組女子専用の臨時更衣室として昨日の午後から確保してもらっていた。女の子は身支度に時間が掛かるものなので、歩いて三十秒の場所に更衣室を用意してもらい大喜びしていた。そんな彼女達の様子に、次回のAIお茶会で咲耶さんに舞踏会用のドレスを沢山着て頂こうと、僕は秘かに決意したものだった。
 それはさて置き、男子更衣室に着いた。自分の棚の前でシャツとズボンを素早く脱ぎ、アイロンをかけた制服にそれぞれ着替えてゆく。僕は今日、シャツ三着とズボン二本を予備の制服として持って来ていた。紫柳子さんと岬さんと千家さんはアイロンをきちんと当てたシャツで接客したかったし、また真山ライブでは汗みずくになることが予想されたため、この量になったのである。ひょっとするとこれでも足りないかもしれないが、ライブは体操着可になったから何とかなるだろう。昨日の第二回真山ライブの一時間前に教育AIが緊急措置としてそれを施行しなかったら、体操着でクラス展示をするしかない生徒が数百人出たに違いないと言われていた。
 シャツとズボンを替え、髪に櫛を入れ、蝶ネクタイを首元に着ける。中心の結び目に鈴、右羽に茶虎猫、左羽に三毛猫を配置したこの蝶ネクタイは、なぜか高評価を得ていた。神社のお守りに刺繍した猫たちをそのまま使ったのが、良かったんじゃないかな。
 同僚二人と身だしなみをチェックし合い、実技棟へ向かう。開店時間十五分前にもかかわらず、渡り廊下には百人をゆうに超すギャラリーが詰めかけていた。慌ててハイ子を取り出し、二年生校舎の校門の様子を咲耶さんに尋ねたところ、想像を絶する事態が生じていた。校門の内側に八百人の在校生が既に集合していて、その数は刻一刻と増加しており、まだ到着していない四年生以上の生徒を加えたら、一千四百を超える人数になるはずだと咲耶さんは話したのである。入れ違いに美夜さんの声がスピーカーから流れ、鋼さんと岬さんは五分前に神社に到着し、祖父母と猫達に挨拶を済ませ、たった今学校へ向かったと教えてくれた。その最中、咲耶さんは校門のライブ映像を映し、校門外に岬さんの同級生が百余人いて、その全員が岬さんと連れ立って舞踏会写真館に来ることを望んでいると文字で表示した。僕は頭を抱え蹲りそうになるも、ズボンに皺が入ってしまうことを思い出し、かろうじてそれを押し留める。そんな僕の耳を、咲耶さんの「安心なさい」との声がくすぐった。
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