僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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二十一章

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 練習場の整備を終え、フラフラになりながら部室に戻って来た僕らを待っていたのは、事前予約していたのとは異なる豪華お弁当だった。けどそれに首をひねる者はいなかった。赤に金の縁取りをされた、
 ―― 寿
 の文字が部室中央にドンと鎮座し、それを中心に弧を描いて豪華お弁当や太巻きや唐揚げが並べられている光景を見たのは、これが二度目だったからである。僕らは喜びを爆発させるも、
「「「「アイ、ありがとう!」」」」
 まずは何より、無料提供された豪華料理のお礼を教育AIに伝えた。次いで黛さんが代表し、
「真田さんが、結婚を了承してもらえたんですね!」
 そう尋ねる。寿の文字の上に浮かび上がった湖校の校章は光を燦々と放ち、肯定の言葉を述べた。そのとたん僕らははっちゃけ、続いて全員で万歳三唱し、そして制御不可能な喜びをどうにかこうにか制御下に置いてから、それぞれの場所に座った。千家さんと三枝木さんがお弁当等々を人数分並べてくれた場所で、はっちゃけ続ける訳にはいかないからね。然るに男子達は腰を下ろすや居住まいを正し、黛さんの号令のもと、千家さんと三枝木さんに謝意を述べた。お二人はどういたしましてと手短に応え、「さあ頂きましょう」と食事開始を促す。賢いこの女性達は、男子達が本当は食欲魔人化しているのを、ちゃんと見抜いていたのだ。そんな素敵な女性達が用意してくれた食事は、一層美味しく感じられて当然。体育会系の腹ペコ男子なら尚更なのである。よってそれから暫く、美味しいご飯を一心にかっこむ時間が続いたのだった。

 床にずらりと並べられた豪華料理を九割ほど平らげ、ようやく一息ついたころ、真田さんと杠葉さんが3D映像で部室に現れた。ホント言うと、食事開始直後に荒海さんが真田さんにメールを送り、真田さんから折り返し電話がかかって来て、お二人がそれ以降ずっと会話していたのを僕らは知っていた。相殺音壁を巡らせていたので内容は窺えずとも、荒海さんがああも嬉しげにしていたのだから、良いこと尽くしの会話だったはず。また荒海さんはしばしば和んだ瞳を後輩達へ向け、頷きを繰り返すという仕草をしていた。仮に真田さんが部室の様子を見ていて、そこから得た情報をもとに後輩の話を振り、それに荒海さんが同意の相槌を打っているとするなら、荒海さんの仕草につじつまが合う。というか「仮に」を使う必要など本当は微塵もなく、真田さんが部室の様子を見ていることを僕らは確信していて、そして僕らのその確信を、真田さんも確信しているに違いなかった。そんな信頼関係を築いているのだから、教育AIとエイミィもプライバシーうんぬん言わず、部室の様子を真田さんと杠葉さんに見せるはず。杠葉さんも、お弁当を無我夢中で食べる僕らを「お袋さん」の眼差しで見つめてくれる人だから、自分達の映像を部室に映して僕らの食事を中断することをきっと控えるだろう。とまあ長くなったけど、お弁当を九割平らげた辺りで真田さんと杠葉さんの3D映像が部室に現れることを予想していた僕らはそれが的中するや、
 ザッッ
 座法を正座に切り替えた。黛さんが代表しお祝いを述べ、僕らもそれに続く。真田さんとの短いやり取りを経て、杠葉さんが御両親を紹介してくれた。杠葉さんの御両親はとても優しい方々で、和やかなまま挨拶は終わる。そして画面の横幅が最初の状態に戻り、映し出されているのがお二人のみになるや、
「「「「真田さん、杠葉さん、おめでとうございます!!」」」」
 敬意と親しみを融合させたいつもの調子で声を揃え、
「「「「ヒャッハアアァァッッッ!!!」」」」
 僕らはリミッターを解除してはっちゃけた。そんな僕らを、杠葉さんは涙を流して見つめていた。杠葉さんの両親はこれが初対面なため、礼儀を最優先して当然。けど挨拶が終われば、ここにいるのは身内だけなのだから、僕らはいつもの僕らで二人をお祝いし、喜んだのである。その、
 ―― ここにいるのは身内だけ
 の箇所に杠葉さんが嬉し涙を流していると来れば、僕らの喜びも益々増えるというもの。はっちゃけ過ぎた僕らは本日二度目の、足腰立たなくなる状態に陥ってしまった。そんな僕らの様子に、杠葉さんと一緒に真田さんも嬉し涙を浮かべたところで、本日の昼食は幕を下ろしたのだった。

 帰宅するや神社の仕事に取り掛かり、時間に追われる日々が続いた。そしてふと気づくと、
「「「「明けまして、おめでとうございます!」」」」
「おめでとうございます」
「ようこそお出でくださいました、お待ちしてましたよ」
 祖父母と新忍道部員一同が、元日の挨拶を交わしていた。どうも僕は、集中すると周りが見えなくなるという弱点を、未だ引きずっているらしい。水晶はそれを一点集中特化型として褒めてくれるけど、最強魔想の魔邸は複数個所への同時集中が可能だから、僕はこのままではいつまで経っても、魔邸と戦えないという事になる。う~む、今年こそは改善しなきゃなあ・・・
 なんて心中秘かに落ち込んでいる自分を蹴り飛ばし、祖父母と並んで祝詞をあげた。一年で最も忙しい元日のお昼の、しかも不意打ち参拝なのに、祖父母は去年も今年も嬉しくて堪らないといったていで新忍道部のために祝詞をあげてくれる。それは表面を取り繕った行動ではない、己の真我から湧き上がって来た行動であることなら、去年の僕にも解った。けどその理由、もしくは仕組みは去年の僕には解明できず、そしてそれは今年も同じみたいだ。自問が心をよぎる。こんな僕にも、いつかは解明できるのかな?
 ―― もうできているではないか
 呆れ声の空間が、そう答えてくれたのだった。

 それはさて置き、と言ったら文字どおり神をも畏れぬ行いになるのかもしれないがそれはさて置き、今年初めて参拝に加わった四人がいた半面、今年は来られなかった二人がいたことは、仕方ないとはいえ寂しかった。本当は、姿は見えなくともちゃんとここにいる人が一名いるのだけど、それは事情が込み入っているので追々説明する事とする。話を戻すと、去年の参拝にはいなかった四人はマネージャーの三枝木さんと、一年生トリオの松井と竹と梅本だ。寮生の梅本は緑川さんや森口さんと同じく、毎日の通学は無理でもお昼に待ち合わせる程度なら容易い距離に実家があるようで、こうしてここに足を運んでくれた。親御さんの気持ちを思うと一年寮生の梅本に来てもらうのは忍びないけど、
「「「美鈴さんも、明けましておめでとうございます」」」
「おめでとうございます」
 美鈴の巫女姿にふにゃふにゃ顔をさらしまくっている様子を見るに、案じる必要はないのだろう。思春期真っ盛りの男子なんてのは、まあそんなものだよね。
 対して、今年はここにいない二人の方は、案じるなと言われても案じずにはいられなかった。真田さんと荒海さんはどちらもお正月を、婚約者の家で過ごしていたのである。
 恥を晒すと、もとい実を言うと、お調子者コンビの加藤さんと京馬は、
「次の元日は杠葉さんと千家さんの振り袖姿が見られるかもな!」「そうっすね加藤さん!」
 系のことを部室でしばしば宣っていた。それは二人がお調子者モードに入っている時に聞かれたため冗談を言っているだけだと皆は思っていたが、実際は違った。振り袖姿を見られるかもしれないと二人は本気で考えていて、だから真田さんと荒海さんが初詣に参加しないと知ったとき、「「なんで~~」」と大声で異を唱えたのだ。それが、三枝木さんの逆鱗に触れた。杠葉さんと千家さんにとって今年のお正月は、生来の苗字で過ごす最後のお正月になる。次からは実家であろうと「外に嫁いだ娘」の気構えを持たねばならず、それは日本女性の美徳なのだ。その気構えを称え、そして陰で支えるのが良夫であり、真田さんと荒海さんはそれに則ったお正月の計画を立てているのに、あなた達は何をしているのか。情けなくて仕方ないと、三枝木さんは二人を叱ったのである。
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