僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

文字の大きさ
828 / 934
二十二章

3

しおりを挟む
 部活が終わり、車座になってお弁当をがっつき、半分ほど平らげて皆の食欲魔人ぶりがようやく薄まった頃。部長との約束を僕は果たした。
「今年は四月八日が土曜日なので、新一年生の入学日は四月十日にずれました。一方、新忍道部の合宿は四月三日、四日、五日を予定しており、また今年は僕の神社ではなく寮を利用する事になっています。合宿に参加した颯太君は、合宿が終わった五日の夜、どこに宿泊するのでしょうか?」
 僕の発した最後の問いに、ハッとした部員が少なからずいた。新一年生の寮生は、入学日の前日までに入寮するのが研究学校の決まりだ。よって九日晩の颯太君の宿泊先については案じなくてもいいが、五日の夜は心配してあげねばならない。春休み最後の六日を合宿の最終日にしている部やサークルは多く、つまり颯太君は五日の夜、寮に宿泊できない可能性が高いのである。親御さんとしては、なら長野に帰ってきて欲しいと思うのが本音なのだろう。しかしだからと言って「はいそうですか」と切り捨てる新忍道部では、親御さんはもっともっと不安になるに違いない。咲耶さんのことだから抜かりがあるとは思えずとも、大切な後輩を預かる先輩として颯太君の宿泊先を知る義務があるのだと、さきの整理体操中に僕は気づいたのである。
 そしてそれは、正しかったことが直ちに証明された。若干陰のある声で黛さんが語ったところによると、颯太君は五日の夜を、学校指定の宿泊施設で過ごすと言う。そのような宿泊施設が湖校のすぐ近くにある事と、その施設を作らねばならなかった理由の一つを、地元民の僕は知っていた。家庭の事情で入寮日より何日も早く実家を出ねばならない新一年生が数年おきにいても、合宿の関係で寮のベッドに空きは無く、よって学校指定の宿泊施設を湖校のすぐ近くに作ったというのが、地元民の僕の耳に入って来た理由の一つだった。その子たちを不幸だと、僕は思わない。しかしそれでも、その施設を春に利用する新一年生は数年おきに一人しかいないとなると、話はまったく変わってくる。複数の同級生と一緒にワイワイ過ごすのでは、決してないのだ。その上更に、智樹がその宿泊施設に一週間滞在したことを、僕は本人から聴いていた。詳しい事情は智樹も知らないそうだが、智樹が湖校入学を十日後に控えていたころ子務放棄権を行使した子供が大勢出て、それを受け文科省は、研究学校に進学する子供達の早期退寮者を募集したらしい。自分がそれに応募すれば、極度に不安定な時期を過ごしている子供が一人、居心地の良いこの場所ですぐ暮らせると知った智樹は、男気を発揮し、それに応募したそうだ。それから一年八か月が経過したある冬の夜、寮に泊まった僕に、智樹はこんな暴露話をした。「湖校のすぐ近くの宿泊施設に滞在した一週間で、俺に一人暮らしはまだ早いって、とことん知ったよ」 夜という、打ち明け話を普段以上にできる状況に助けられ、初めてそれを口にできた智樹の胸中を思うと、僕は心が痛んでならなかった。然るに、たとえ一晩であろうと颯太君にそんな想いをさせては、絶対ならないのだ!
 そう決意した僕は立ち上がり、断固主張した。
「皆さん、春休みの合宿の宿泊先は、やっぱり僕の神社にしましょう。そうすれば颯太君は五日の夜も、引き続き神社で過ごすと思います。そしてもし颯太君が寂しそうにしていたら、連絡しますので皆さん泊りに来てください。さあ黛さん、颯太君のためにも、すぐ決を取りましょう!」
 一年生の松竹梅が、両手で顔を擦りまくる事をさっきからずっと続けている。一度は諦めた「美鈴と同じ屋根の下ですごす三日間」がひょっとすると実現するかもしれないと思った子猿どもは、喜び一色の顔を反射的にしてしまい、それを僕に咎められぬよう、こうして顔を擦りまくっているのだ。ったくしょうがないなあと嘆息しつつも、今回は大目に見ることにした。颯太君がいち早く心を開くのは、一学年しか変わらない松竹梅のはずだからね。
 的なことを考えていた僕と、顔をこすり続ける三匹の子猿を、黛さんは優しい眼差しで交互に見つめていた。そして眼差しを威厳ある部長のそれに替え、僕と三猿以外の部員一人一人と目で意思疎通したのち、居住まいを正して問うた。
「部長として、やはりはっきりさせておかねばならない。眠留、おじい様とおばあ様に、来月三日から五日までの宿泊の是非を、確認してもらえないか」
 了解ですと応え祖父母にメールすると、もちろん可能との返信をすぐもらえた。その途端、
「全員、整列!」
 黛さんの指示が飛んだ。黛さんを右端にした一列横隊に全員一瞬で並び終え、短い打ち合わせに入る。次いで僕が祖父母に電話し、美夜さんに頼み部室の映像を社務所に映してもらい、準備が整ったことを発表するや、敬意と感謝に染まった黛さんの声が響いた。
「格別な温情を賜り、去年に続き今年も、三日間宿泊させて頂くことになりました。全身全霊で部活に励みますので、三日間よろしくお願いします」
「「「「よろしくお願いします!!」」」」
 十三人揃って腰を直角に折った。すると社務所の映像が浮かび上がり、
「部活に励んでください」「楽しみに待ってますね」
 3Dの祖父母がにこやかにそう告げた。続いて二人は去年の想い出を楽しげに話し、黛さんを始めとする先輩方もそれに加わり、場が和んだところで三枝木さんと一年生三人が進み出て、
「マネージャーの三枝木です。私と一年生の三人は、初めてお世話になります。どうぞよろしくお願いします」
 四人揃って頭を下げた。三枝木さんは淑やかに腰を折るも、一年生トリオは額が膝に着く寸前になっていた。その様子に、祖父母は相好を崩すだけでは足らず笑い声をあげる。場は更に和み、その機を逃さず教育AIが校章の姿で現れ改めてお礼を述べ、全員揃って「「「「ありがとうございました」」」」を唱和したのち、部室と社務所を繋ぐ通信を切った。と同時に、
 カッッ
 新忍道部の十三人は踵を打ち鳴らし直立不動になった。瞬き二回分の静寂が部室を支配する。その静寂を、
「は~~~」
 教育AIは盛大な溜息で破ってからこちらに向き直り、愚痴を零した。
「湖校は生徒達の自主性をとりわけ重んじていますから褒めてあげたい気持ちが大半を占めるのは事実でも、教育AIを離れた個人としては、ちょっとくらい相談してくれても良かったんじゃないと言うのが、正直なところね」
 それだけでも僕らは罪悪感で一杯になったのに、
「私も、相談して欲しかったです」
 しょんぼり顔のエイミィが肩を落として校章の隣に現れたものだから、さあ大変。
 僕らはそれからお弁当そっちのけで、とにもかくにも謝罪することを、部室の退出時間ギリギリまで続けたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私の守護霊さん

Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。 彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。 これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

処理中です...