僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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二十二章

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 しかも、
「そうだったのにゃ。おいら全然気づいていなかったにゃ、北斗ありがとにゃ」
 末吉がにゃあにゃあ言葉でお礼を言ったと来れば、場は一層和むというもの。それ以降は笑いの溢れる時間となり、そしてそのまま場を母屋へ移し、皆で夕食を囲むこととなった。そこで明かされた、貴子さんが中吉で翔子姉さんが小吉という事実に北斗は再びカチンコチンになるも、「北斗がカチンコチンになっているのは、恋愛が絡んでいるからかにゃ?」と首を傾げた末吉の大ファインプレーにより、二度目の心身硬直は十秒とかからず解消された。ただ末吉は少し落ち込んだらしく、爆笑渦巻く台所のなかで一人、
「おいら恋愛が全く解らないのにゃ」
 そう呟き肩を落としていた。そんな末吉を北斗は励まし、僕もすぐそこに混ざり、北斗と二人で京馬の恋愛無知エピソードをコント形式で紹介しているうち、末吉はすこぶる上機嫌になった。理由を尋ねると、
「男友達特有のバカ話の一員になる夢が、叶ったのにゃ」
 なんて、涙腺決壊必至の本音を末吉はさらしたのである。とは言うものの、ここで泣く訳にはいかないという面倒クサさも、男は持っている。そしてそれに関してなら、末吉も同じ男として瞬時に理解したようだ。よって僕らは泣く代わりにバカになって騒ぎまくり、それがついつい度を越して、三人揃って翔子姉さんに叱られるハメになってしまった。けど一列に正座して叱られたその経験は、三人の友情を更に深めたイベントとして、僕らの胸に刻まれたんだけどね。
 そうこうするうち夕食も終盤となり、さてそろそろ皿洗いを始めますかと僕と北斗が腰を上げかけたところで、水晶が僕らの場所にやって来た。北斗は目にも止まらぬ速さで正座し、背筋を伸ばす。その様子を見ていた昴はにっこり微笑み、「今日は私が片付けるわ、主役さん」と声を掛け、水晶に恭しく一礼してテーブルを去って行った。同じ所作をしてテーブルを去る輝夜さんと美鈴に僕と北斗も一礼し、そんな三人娘と男子二人を、水晶はまん丸顔でにこにこ見つめていた。その光景に貴子さんは目元を赤くし、それに母が重なった僕も貴子さんに釣られそうになったけど、そんな僕を助けるかのように、水晶が厳かに話し始めた。
「北斗よ、よくぞ我らの元へ来た。小学三年生からそなたを見ていた儂は、嬉しく思うぞ」
「ありがとうございます」
 床の上30センチに浮かぶ水晶へ北斗は謝意を述べ、深々と腰を折った。水晶の予定を妨害せぬよう謝意の言葉は簡潔に留めるも、その代わり額が床に付くまで北斗は頭を下げたのである。その心意気を、きっと好ましく思ったのだろう。福神様になった水晶が、大胆な語彙をさらりと漏らした。
「して北斗よ、そなたは日いずる国初の、銃翔人になる気はあるかの」
 じゅうという発音に誤解が生じぬよう、銃翔人という文字が空中に浮かび上がる。水晶の神気に当てられていようと、こればかりは中二病を抑え切れなかったらしい。出会ったころの、小学三年生の笑顔になった北斗は、瞳をキラキラ輝かせて銃翔人という文字を見つめていた。数秒ののちハッとして慌てて謝罪する北斗に、「儂も男じゃ、男心をくすぐるのは分かるわい」と水晶は哄笑した。超常の長上者が歩み寄ってくれたのだから、こちらも打ち解けねば男がすたるというもの。北斗は何もかも取っ払っい、
「はい、嬉しくて堪りません。命懸けで銃翔人になります!」
 そう宣言し、にぱっと笑った。おそらくそれが、水晶の気質にドンピシャだったに違いない。水晶は北斗の膝元にやって来て「こりゃ大物じゃ!」と北斗の膝をビシバシ叩いた。尋常でなく横幅の広い顔を、口角を持ち上げることでもう一段横に広げてやって来た大吉も、
「これからよろしく頼むぞ、北斗」
 そう言うや、ピカッっと光って龍叔父さんになった。少なくとも年に二回は龍叔父さんに挨拶し言葉を交わしていた北斗は驚くとともに喜び、こちらこそよろしくお願いしますと勢いよく腰を折る。すると祖父も飛んで来て、
「ウチは女性が強いから男は大歓迎だ」
 小声でそう言い、親指をビシッと立てた。水晶と末吉も肉球を器用に折ってそれに続き、もちろん龍叔父さんと僕と北斗もノリノリで皆に倣う。僕ら男六人は不敵に笑い合ったのち、天下取りを成したが如く声を揃えて気炎を上げた。
 そんな男六人へ、祖母と頂点とする女六人が、
 ―― 今日だけは大目に見てあげましょう
 と生暖かい視線を投げかけていたことは、三日天下どころか三分天下にすらならぬことを、男六人に嫌というほど悟らせたのだった。

 北斗の翔人の訓練は、翌日から始まった。とはいえ日本初の試みの銃翔人に訓練方法が確立しているはずもなく、しばらくは手探りで進めることとなり、特に初日は座学のみを行った。「銃社会の中で育った米国の若者と、まるっきり同じ訓練方法という訳にはいかぬからの」 水晶のたったこれだけの説明から北斗は様々な事柄を推測し、しかもその全てが理論の道筋と到着点の双方で正解だったため、さすがの水晶も北斗の訓練に頭を悩ませていた。ただそれを北斗の前では決して見せようとせず、またそれは僕と三人娘の前でも同様だったため、僕ら四人は水晶のある言葉を思い出さずにはいられなかった。
『理論家は翔化に苦労する傾向があり、そして北斗は儂すら初めて見る生粋の理論家なのじゃ』
 思い出さずにはいられなかったのはこれであり、そしてそれが実現化するのを、僕らは恐れたのである。
 その他にも僕ら四人には、ある疑問があった。それは、
 ―― 北斗のパートナーの精霊猫は誰か
 だった。仮に北斗が、弓翔人を排出してきた鳳家で銃翔人を目指すことになっていたら、猫将軍家の大吉や中吉に相当する熟練翔鳥がパートナーになっていたと思われる。米国にはアーチェリーで魔想と戦う勇使ゆうし(over brave  北米の翔人)がいるらしく、そして水晶によると、アーチェリー勇使と銃翔人に差はほぼないと言う。よって鳳家の熟練翔鳥なら長年の経験を活かし、銃翔人にも充分対応できるのではないかと僕らは推測したのだ。
 しかし北斗は、近接武器を用いる猫将軍家で銃翔人を目指すという運命を授かった。かつそこに、超絶頭脳という北斗の特殊能力が加わると、僕ら四人はどうしてもこう考えてしまうのである。
 ―― まったく新しい戦闘様式を、北斗は創造するかもしれない
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