僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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二十二章

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 ――まったく新しい戦闘様式を、北斗は創造するかもしれない
 米国のネイティブアメリカンのアーチェリー勇使は、銃勇使と協力して魔邸と戦うさい、格別に強力な戦力になると言う。武器の違いが魔邸を翻弄するだけでなく、アーチェリーで魔想と戦う運命を授かった勇使の放つ矢には、銃弾にはない特別な力があるそうなのだ。そのアーチェリー勇使と、同種の運命を北斗も授かっていると考えて間違いないはず。よって北斗を、日本の弓翔人と等しく扱う事へ、尋常ではない「もったいなさ」を僕らは感じていたのだ。
 もったいないと感じる理由は、もう一つあった。それは日本の魔邸戦において、近接翔人と遠隔翔人の共闘記録が無いことだった。つまり北斗は、両者が共闘して魔邸と戦った日本初の事例の、立役者になる可能性が高かったのである。
 最強魔想である魔邸との戦闘では、複数の上級翔人の共闘が必須になる。仮に僕が新忍道をしていなかったら、の上級翔人に注目したと思う。上級翔人すら複数必要なんだな、と考えたはずなのだ。しかし新忍道を介し、
 ―― 連携は基礎中の基礎であると共に、奥義でもある
 を骨の髄から学んだ身としては、別の箇所を注目してしまう。上級翔人のへ、どうしようもなく目が吸い寄せられるのだ。そしてそれに、近接翔人と遠隔翔人の共闘記録が無いという事実を加えると、僕はある確信を抱かずにはいられなかった。それは、近接翔人は近接翔人とのみ高度な連携を成し、遠隔翔人は遠隔翔人とのみ高度な連携を成せるため、近接と遠隔の共闘を「あえて避けてきた」という確信だった。いやそれを更に発展させ、両者の共闘の記録がないのではなく、
 ―― 共闘の成功した記録がない
 だけなのではないかと、僕は感じたのである。
 だが新忍道部でモンスターと戦う僕と北斗に、それは該当しない。盾に内蔵された高周波カッターで近接攻撃をする僕と、銃で遠隔攻撃をする北斗は、いつも当たり前のように連携していた。一年生の夏休みに秋葉原を訪れて以来それをずっと続けて来た僕と北斗にとって、近接と遠隔の連携は、至極自然なことだったのだ。したがって、こう思えてならなかったのである。「北斗を弓翔人の枠に留めたら、まったく新しい戦闘様式が出現する機会を、失うのではないか」と。
 輝夜さんと昴と美鈴もそれに同意した。新忍道部のモンスター戦を幾度も見学し、僕と北斗の連携をつぶさに見てきた彼女達も、北斗を弓翔人として扱うことに反発したのだ。予知能力者と言っても過言ではない昴の反発は凄まじく、僕と輝夜さんと美鈴をもってしても昴を宥めることに苦労したほどだったから、絶対避けるべきなのだろう。いやホント、あの時は疲れたなあ・・・
 思い出しただけで疲労を覚えたため話題を変える事とする。
 僕と三人娘は銃翔人を目指す北斗について、会合を頻繁に開いていた。そんな僕らにとって、
 ――北斗のパートナーの精霊猫は誰か?
 は非常に興味をそそる話題だった。また興味をそそった理由には、昴の予知能力も含まれていた。不思議なことに北斗のパートナーに関しては、昴の予知能力がまったく働かなかったのだ。去年の夏休みに輝夜さんの祖父母宅を僕が訪れた際の、予知能力を発揮したからこそ自分は関わってはいけないという状況とは異なり、てんで働いてくれないそうなのである。けどそれについては、輝夜さんが正解と予想されることを閃いていた。
「北斗君のパートナーの猫さんを、昴も私達と一緒に、一生懸命考えなさいって事なんじゃないかな」
 輝夜さんの言葉に、昴は一瞬ポカンとした。だがその直後、昴は輝夜さんに抱きつき、子供のように泣き始めたのである。それは、未来視は重荷でもあるのではないかという僕の推測が、確信に変わった瞬間でもあったのだった。
 といった具合に、北斗が銃翔人を目指すようになった事は、僕と三人娘の生活にも少なくない変化をもたらした。では当事者の北斗はどうだったかと言うと、一見さほど変化が無いように感じられた。湖校新忍道部は休日の部活動を、午前か午後の三時間のみにしていたから、午前が部活の日は午後に、午後が部活の日は午前に北斗は神社を訪れていた。銃翔人の訓練にも三時間制は適用され、座学に一時間、呼吸法に一時間、瞑想と集中に三十分ずつを北斗はこなしていた。これは、部活を休部して翔刀術に励んだ昴とは大きく異なっていたが、
「昴と同品質の訓練を俺ごときが最初から受けられるなどと、考える訳ないだろ」
 と北斗が嘘偽りなく述べたことにより、まったく心配されていなかった。水晶が北斗を教えているのだから、尚更だね。
 北斗は座学だけでなく、呼吸法と集中にも多大な天分を持っていた。集中については超絶頭脳の副産物として光の速さで解明できたが、呼吸法に才能があったのは本人も意外だったらしく、検証を必要とした。しかし検証したところ、こちらも超絶頭脳の副産物だった事がたちどころに判明した。脳は体重の2%を占めるだけなのに、20%の酸素を消費していることは広く知られている。そしてそれが、北斗はより顕著だった。北斗の脳は常人の五割増しに当たる、30%の酸素を消費していたのだ。にもかかわらず北斗が息苦しさを覚えないのは、肺の全てを使う呼吸を、知らぬ間に習得していたからだったのである。これは北斗には秘密だけど、翔人を目指すのは今生が初めてでも、前世の北斗は翔人とは異なる部署で働いており、その前世で肺の全てを使う呼吸を習得したのではないかと僕は推測している。
 残る瞑想は、天分こそ持たないものの決して苦手ではなく、どちらかと言うと得意だった。研究学校の9段階評価を用いるなら、6といったところだろう。ただこれは翔家の瞑想の定義である、
 ―― 心から離れて心を見つめる
 に限った話であり、一般的に流布している「瞑想とは何も考えない事」では、落第の0評価になる可能性が高かった。落第評価という人生初の経験に北斗が妙なテンションを得て、それに僕と末吉が乗っかり三人でバカ騒ぎし、翔子姉さんに怒っている演技を再びさせてしまったことは、ちょっぴり反省している。
 とまあこんな感じで、北斗の翔人の訓練は穏やかに進行していった。その穏やかさに助けられ、北斗が新たな挑戦を始めたことは、京馬を始めとする親友達にも察知されていないようだった。
 でもホントのところは、全然わからないんだけどね。
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