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二十二章
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その後、二人に教えてもらったところによると、僕の午後の部活は新忍道部の皆から大層注目されていたと言う。理由は二つあり、一つは僕の疲労を案じての事なので純粋に嬉しかったが、もう一つは嬉しすぎて心の制御を失いかけるほどだった。それは、
―― 眠留がこの状況で一肌脱がない訳がない
に代表される、僕への深い理解だったのである。
「目立ちたくないという想いの強い眠留は、いつもはそれを優先し、目立たず静かにしている。だが春合宿や体育祭や文化祭のような、個より集団を意識せねばならない状況ではその想いを封じ、集団の利益を優先するようになるんだよ」
「特に今回はそれが強く出るはずだと、俺と北斗は警戒していた。後輩の指導という、責任を感じずにはいられない立場を自ら買って出た眠留が、後輩を何より優先し自分の成し得る最高の指導を施したら、それは眠留の体を害するのではないか。俺と北斗はそれを、警戒していたんだな」
「案の定、お前は指導の途中に関節を突如ほぐし始めた。始めやがったと直感し、眠留達のいる場所に駆けつけようとした俺と京馬の背中を、黛さんが叩いてな。眠留の勝負勘を信じよう、と仰ったんだよ」
「俺ら以上にお前と三人チームを組んだ部員はいないから、お前の勝負勘の凄まじさを俺らは一番理解していると考えている。それは今も変わらないが、黛さんの言葉には打ちのめされたよ。度量の大きな漢はかくあるべしって感じで、俺しびれちゃってさ」
あれはカッコ良かった、だよな、と二人は暫し黛さんの話題で盛り上がった。その間に僕は呼吸を整えつつ瞬きを盛んに繰り返し、目を乾かしていた。それが実り、あふれ出ようとする心の汗をどうにかこうにか押し留められたタイミングで、二人は話を再開する。
「眠留と公式AIの会話に『出雲』の名が出たのを聞いた俺と京馬は、秋葉原の新忍道ショップで眠留が鬼王と戦った様子を黛さんに話した。黛さんは教育AIにすぐメールを送り、観客席の生徒に口止めを頼むにはどうすれば良いかを尋ねた。教育AIは、何らかのメリットを提示すれば協力してくれるだろうと答え、お二人は話し合い、眠留のサタン戦を見学者に見せる決定をした。教育AIは観客席に飛び見学者に事情を説明し、非公式ながら世界初となる練習用サタンと剣士の戦いを余すところなく見せるから、その代わりこの件を口外しないで欲しいと頼んだ。全員が二つ返事で了承してくれたと、教育AIは言っていたよ」
涙を必死で止めたのは無駄たっだなあと、僕は諦念に染まりかけた。けどここから話は一転し、雲行きが怪しくなっていった。
「んで眠留とサタンの戦いが始まったんだが、俺らはだんだん腹が立ってきてな」
「眠留、気づいているか。お前はサタン戦で、俺らとまだ一度もチームを組んでいない。それって少し、薄情じゃないか?」
「そうだそうだ、俺らもサタンと戦わせやがれ」「「「そうだそうだ」」」「「「俺達もサタンと、戦わせろ!!」」」「「「「オオォォ――ッッ!!!」」」」
てな具合に、僕は四年生から二年生までの男子部員八人による、非難の集中砲火を浴びる事になったのである。加藤さんと緑川さんと森口さんが北斗と京馬に同調するのは、納得できる。だが、そこに二年生が加わっているのはその限りではない。四年生の後ろに一応隠れてはいても二年の松竹梅が「「「戦わせろ!」」」と気炎を上げる光景に、さすがにムカッと来てお前らにはまだ早いとドヤそうとするも、
「今お前、まだ早いって言おうとした?」
京馬が暴露しやがったものだからもう大変。僕は八人からくすぐられまくり、冗談抜きで窒息しそうになって黛さんに目で助けを求めたのだけど、黛さんは「諦めろ」と唇を動かしただけだった。「えっと、えっとあの、僕ってそんなに悪いことをしたのでしょうか?」
との心の叫びを、聞いてくれたのだと思う。颯太がすっ飛んできて皆を止め、僕のために幾度も頭を下げてくれた。その姿に、なんとなく思う。
―― 颯太は僕の、弟子だったことがあるんじゃないかな?
けどそれはほんのとりとめない想いにすぎず、また黛さんが手をパンパンと打ち鳴らし、
「はい、座ったままでいいから注目」
皆にそう呼びかけたので、それについて考える時間はなかった。今夜の就寝前に瞑想する予定を立て、黛さんに傾注した。
「四年生以下のサタン戦の諾否は、春休み中に伝えることを約束する。これをもって休憩時間を終わりとし、春合宿恒例の、鬼王との連戦を開始しようと思う。ただし」
黛さんはそこで言葉を一旦切った。嫌な予感が全身を駆け抜け、そしてそれは的中し、黛さんはたっぷり間を設けてから僕に顔を向けた。
「眠留は鬼王との連戦に参加することを禁じる。理由は連戦中に、眠留の体力が尽きると予想されるからだ。眠留、部長命令だ。反論は許さないからな」
僕は姿勢を正し、指示に従いますと伝えた。続いてサタン戦を勝手に始めたことを詫びようとするも、黛さんは僕を制し「その必要はない」と朗らかに笑った。得も言われぬ安心感が、心を満たしてゆく。鬼王と戦えないのは残念だが、直接戦わずとも、戦闘に参加することはできる。特に今回は、自分を過小評価しなくなった黛さんが挑む最初の戦闘なのだから、全身全霊で見学しよう。と決意したのだけど、
「ああやっぱり、皆と一緒に戦いたかったなあ・・・」
鬼王との連戦の最中僕はずっと、そうぼやき続けたのだった。
寮に泊まる合宿は、三日目の午後で終了するのが湖校の決まり。終了した後は各自それぞれの場所へ帰り、各々で夕食を取るのが常なのだけど、何事にも例外はあるもの。そして新忍道部は、二年連続でその例外となった。すなわち、
「「「「「頂きますっっ!!」」」」」
祖父母の強い勧めもあり、今年も全部員揃って夕食を共にしたのである。合宿を成し遂げた達成感に、皆とこうして同じ食卓を囲める喜びと、そして超絶美味しいご飯を空腹に掻っ込める嬉しさが加わった夕ご飯は、それはそれは盛り上がった。あの水晶に、「羨ましいのう青春じゃのう儂も部活をしたいのう」と言わせたほどだったから、相当だったのだろう。祖父母はもちろん貴子さんや翔子姉さん、そして大吉と末吉も、夕飯を心から楽しんでいた。そんな皆の姿に、幾ばくかの恩返しをできたような気が、僕はしたのだった。
―― 眠留がこの状況で一肌脱がない訳がない
に代表される、僕への深い理解だったのである。
「目立ちたくないという想いの強い眠留は、いつもはそれを優先し、目立たず静かにしている。だが春合宿や体育祭や文化祭のような、個より集団を意識せねばならない状況ではその想いを封じ、集団の利益を優先するようになるんだよ」
「特に今回はそれが強く出るはずだと、俺と北斗は警戒していた。後輩の指導という、責任を感じずにはいられない立場を自ら買って出た眠留が、後輩を何より優先し自分の成し得る最高の指導を施したら、それは眠留の体を害するのではないか。俺と北斗はそれを、警戒していたんだな」
「案の定、お前は指導の途中に関節を突如ほぐし始めた。始めやがったと直感し、眠留達のいる場所に駆けつけようとした俺と京馬の背中を、黛さんが叩いてな。眠留の勝負勘を信じよう、と仰ったんだよ」
「俺ら以上にお前と三人チームを組んだ部員はいないから、お前の勝負勘の凄まじさを俺らは一番理解していると考えている。それは今も変わらないが、黛さんの言葉には打ちのめされたよ。度量の大きな漢はかくあるべしって感じで、俺しびれちゃってさ」
あれはカッコ良かった、だよな、と二人は暫し黛さんの話題で盛り上がった。その間に僕は呼吸を整えつつ瞬きを盛んに繰り返し、目を乾かしていた。それが実り、あふれ出ようとする心の汗をどうにかこうにか押し留められたタイミングで、二人は話を再開する。
「眠留と公式AIの会話に『出雲』の名が出たのを聞いた俺と京馬は、秋葉原の新忍道ショップで眠留が鬼王と戦った様子を黛さんに話した。黛さんは教育AIにすぐメールを送り、観客席の生徒に口止めを頼むにはどうすれば良いかを尋ねた。教育AIは、何らかのメリットを提示すれば協力してくれるだろうと答え、お二人は話し合い、眠留のサタン戦を見学者に見せる決定をした。教育AIは観客席に飛び見学者に事情を説明し、非公式ながら世界初となる練習用サタンと剣士の戦いを余すところなく見せるから、その代わりこの件を口外しないで欲しいと頼んだ。全員が二つ返事で了承してくれたと、教育AIは言っていたよ」
涙を必死で止めたのは無駄たっだなあと、僕は諦念に染まりかけた。けどここから話は一転し、雲行きが怪しくなっていった。
「んで眠留とサタンの戦いが始まったんだが、俺らはだんだん腹が立ってきてな」
「眠留、気づいているか。お前はサタン戦で、俺らとまだ一度もチームを組んでいない。それって少し、薄情じゃないか?」
「そうだそうだ、俺らもサタンと戦わせやがれ」「「「そうだそうだ」」」「「「俺達もサタンと、戦わせろ!!」」」「「「「オオォォ――ッッ!!!」」」」
てな具合に、僕は四年生から二年生までの男子部員八人による、非難の集中砲火を浴びる事になったのである。加藤さんと緑川さんと森口さんが北斗と京馬に同調するのは、納得できる。だが、そこに二年生が加わっているのはその限りではない。四年生の後ろに一応隠れてはいても二年の松竹梅が「「「戦わせろ!」」」と気炎を上げる光景に、さすがにムカッと来てお前らにはまだ早いとドヤそうとするも、
「今お前、まだ早いって言おうとした?」
京馬が暴露しやがったものだからもう大変。僕は八人からくすぐられまくり、冗談抜きで窒息しそうになって黛さんに目で助けを求めたのだけど、黛さんは「諦めろ」と唇を動かしただけだった。「えっと、えっとあの、僕ってそんなに悪いことをしたのでしょうか?」
との心の叫びを、聞いてくれたのだと思う。颯太がすっ飛んできて皆を止め、僕のために幾度も頭を下げてくれた。その姿に、なんとなく思う。
―― 颯太は僕の、弟子だったことがあるんじゃないかな?
けどそれはほんのとりとめない想いにすぎず、また黛さんが手をパンパンと打ち鳴らし、
「はい、座ったままでいいから注目」
皆にそう呼びかけたので、それについて考える時間はなかった。今夜の就寝前に瞑想する予定を立て、黛さんに傾注した。
「四年生以下のサタン戦の諾否は、春休み中に伝えることを約束する。これをもって休憩時間を終わりとし、春合宿恒例の、鬼王との連戦を開始しようと思う。ただし」
黛さんはそこで言葉を一旦切った。嫌な予感が全身を駆け抜け、そしてそれは的中し、黛さんはたっぷり間を設けてから僕に顔を向けた。
「眠留は鬼王との連戦に参加することを禁じる。理由は連戦中に、眠留の体力が尽きると予想されるからだ。眠留、部長命令だ。反論は許さないからな」
僕は姿勢を正し、指示に従いますと伝えた。続いてサタン戦を勝手に始めたことを詫びようとするも、黛さんは僕を制し「その必要はない」と朗らかに笑った。得も言われぬ安心感が、心を満たしてゆく。鬼王と戦えないのは残念だが、直接戦わずとも、戦闘に参加することはできる。特に今回は、自分を過小評価しなくなった黛さんが挑む最初の戦闘なのだから、全身全霊で見学しよう。と決意したのだけど、
「ああやっぱり、皆と一緒に戦いたかったなあ・・・」
鬼王との連戦の最中僕はずっと、そうぼやき続けたのだった。
寮に泊まる合宿は、三日目の午後で終了するのが湖校の決まり。終了した後は各自それぞれの場所へ帰り、各々で夕食を取るのが常なのだけど、何事にも例外はあるもの。そして新忍道部は、二年連続でその例外となった。すなわち、
「「「「「頂きますっっ!!」」」」」
祖父母の強い勧めもあり、今年も全部員揃って夕食を共にしたのである。合宿を成し遂げた達成感に、皆とこうして同じ食卓を囲める喜びと、そして超絶美味しいご飯を空腹に掻っ込める嬉しさが加わった夕ご飯は、それはそれは盛り上がった。あの水晶に、「羨ましいのう青春じゃのう儂も部活をしたいのう」と言わせたほどだったから、相当だったのだろう。祖父母はもちろん貴子さんや翔子姉さん、そして大吉と末吉も、夕飯を心から楽しんでいた。そんな皆の姿に、幾ばくかの恩返しをできたような気が、僕はしたのだった。
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