僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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二十三章

私は高校生になったら、1

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 合宿最終日の夕食の後片付けは、京馬の母親を始めとする女性達が名乗り出てくれた。「私達は運動をしておらず、普段の就寝時間にもまだ間があるから、片付けは私達が適任。さあさあみんな、寝る準備に早く取り掛かって」 そう述べたおばさんの剣幕に押されて、いやホントは、
 ―― 末っ子に素晴らしい青春をありがとう
 とのおばさんの感謝にほっこり包まれて、僕らは寝る準備に邁進した。ただでさえ連携の得意な湖校新忍道部員が心を一つにして取り組んだのだから、三十数分後の午後九時半には、全員が布団に身を横たえていた。通常なら僕を除き、十時頃までみんな雑談しているらしいが、三日間の合宿はやはり堪えたのだろう。美夜さんによると皆が身を横たえた数分後には、男子十三人の寝る大離れに、十三人分の寝息が聞こえたと言う。
 翌日の魔想討伐はなかった。僕としては去年同様、合宿を終えた翌日は魔想討伐に励むつもりだったのだけど、水晶と祖父母に説得され休みにしていたのだ。常識の埒外の見本と言える水晶は省くとして、祖父母に予知能力の類はない。にもかかわらず、ああも熱心に休むよう説いたのは、後輩を持った今年の僕が去年以上に頑張ることを、祖父母は人生の先輩として知っていたのかもしれない。
 サタンと翔刀術で戦ったことは、まったく咎められなかった。ただその理由は教えてもらえず、それどころか「自分で考えなさい」とさえ言われなかったので、宙ぶらりんな現状自体が罰の一種なのだろうと僕は考えている。
 合宿最終日は、輝夜さんと昴が神社に泊まった日でもあった。渚さんと約束した「近いうちに必ず神社に泊まる」の決行日と、重なっていたのである。魔想討伐の予定と薙刀部の予定をすり合わせた結果だから偶然のはずなのに、大いなる何かがそうなるよう手助けしてくれたとも、僕は感じていた。
 そう感じていたのは、北斗も同じだった。大いなる何かが人々を常に助けている感覚を北斗は最近ふと覚える事があり、輝夜さんと昴の宿泊が合宿最終日と重なった事にも、それがよぎったそうなのである。時間を取れずそれについてまだ話し合っていないけど、最終日の入浴時に北斗が独り言のように漏らした、
「今夜は渚さんの人生の岐路なんだろうな」
 にその感覚が係わっているのは間違いなかった。弟のためなら研究学校入学を辞退することもいとわない渚さんが、颯太の過去世の話に何を思い、そして何を感じたのか。僕には想像つかないがただ一つ言えるのは、颯太の話を聴いた夜に渚さんが四人の友人に囲まれていたのは、偶然では決してなかったという事だ。合宿最終日の午後九時、京馬の母親に急かされ台所を離れるさい、輝夜さんと昴と美鈴に颯太が「姉ちゃんをどうかお願いします」と泣きながら頭を下げていたのは、視界を霞ませずにはいられない光景として胸に焼き付いている。

 翌日の朝食前の僅かな時間を使い、湖校新忍道部は緊急会議を開いた。議題は、「午前の二時間を神社の清掃に充てることを許可してもらう方法」だった。 
 合宿明けの六日を、新忍道部は強制休日にしていた。週に三日の自由日を設けている研究学校には、部活関連の運動を一切してはならない強制休日制度がある。年に一度あるかないかのこの制度を、湖校新忍道部は今年も採用していた。それについては、問題は全くない。だがこの制度を、祖父母も知っているのは問題だった。対策を施さず「午前の二時間を神社の清掃に充てさせてください」と申し出ても、強制休日制度の詳細を知っている祖父母は「今日は体を休める日ですから、神社の掃除をさせるわけにはいきません」と断ること、間違い無しだったからだ。そうは言っても僕は当初、祖父母と同意見だったんだけどね。
 翔刀術の自主練のため皆より二時間早く起きていた僕は自主練後、神社の清掃について黛さんに意見を求められた。強制休日を理由に僕はそれに反対したのだけど、「眠留のことだから、賛成の気持ちも多々あるんだろ」とニコニコ顔で問われたら、そのとおりで御座いますと白旗を上げるしかなかった。合宿の三日間は、とにかく最高だった。大好きな仲間達と大好きな新忍道に明け暮れるだけでも最高なのに、同じ釜の飯を食べて同じ湯に浸かって同じ空気に包まれて夜を明かすのだから、その最高振りは言葉では到底言い表せなかった。よってそんな時間を過ごさせてくれた場所へのせめてものお礼として、ピカピカに磨き上げたいと願うのは、人として充分理解できたのである。しかもそれに渚さんが関係してくると来れば、ホントは「賛成の気持ちも多々ある」どころの話ではなかった。渚さんは僕らが午前の部活をしている最中、僕らに代わって神社を掃除してくれていた。渚さんにしたら、新忍道部とまだ無関係の弟と、完璧に無関係の自分を合宿に参加させてもらっているのだからそれで当然だったのだろうが、だからといって「そうだ当然だ」などと思う人間は新忍道部に一人もいない。自分達の代わりにお礼をしてくれる渚さんに感謝しない部員はなく、またそれは現役組に留まらず、真田さんと荒海さんも渚さんに感謝のメールを送っていたほどだったのだ。その渚さんと、神社の掃除を一緒にできる機会を逃してなるものかとの強烈な想いが僕の胸に、そして新忍道部全員の胸に燃え盛っていたのも、まごう事なき事実だったのである。したがってニコニコ顔の黛さんに白旗を上げた僕は、その後の会議で祖父母の説得方法を皆と一緒に考えた。祖父母と親交のある北斗と京馬も考察に多大な貢献をしてくれて、ついに僕らはこれなら大丈夫と太鼓判を押せる方法に辿り着いた。といってもそれは「すべて正直に話す」という、工夫も捻りも何もない方法だったんだけどね。
 だがそれは、部員一同が完全に合意した方法だった。その根底にあったのは、祖父母は僕らとは比較にならないほど成長している、との想いだった。これがモンスターとの戦闘なら、知略を尽くして策を巡らせるのが王道なのだけど、祖父母にそれをするのはかえって逆効果。策を巡らせる系の説得の根底にある、
 ―― 相手を騙して自分に都合よく振舞わせる
 が祖父母には筒抜けなのだから、微笑ましいと思われることはあっても、好意的評価はそれが上限。しかもその好意も、子供だから仕方ないという、諦めと許しの副産物にすぎないのである。祖父母からしたら僕らが子供なのは事実であり、これはどう足掻いても覆せないが、「仕方ない」を避けることなら可能と言える。それこそが満場一致で可決された、
 ―― すべてを正直に話す
 に他ならなかったのである。黛さんが代表し、総括した。
「俺達にとってこの合宿がどれほど素晴らしかったかを素直に伝え、そのせめてものお礼をしたいと明かし、またそれは俺達に代わってお礼をしてくれていた渚さんへの感謝でもあることを、包み隠さず正直に話す。それを経て眠留の祖父母が神社の掃除を許可してくれたなら、それはお二人が、俺達の気持ちに共感してくれたという事。そこに諦めや許しはなく、むしろ対等な人間として接してくれたという事だから、俺達もその方が断然嬉しい。したがって、この方法以外ありえない。全員、一丸となってやり遂げるぞ!」
「「「「オオ――ッッ!!」」」」
 かくして策を弄さず素直に話す作戦は、実行されたのだった。
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