僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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二十四章

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 ダンッッ
 僕は左回転の爆閃を発動した。左斜め後方へ跳躍しつつ体を左回転させ、その回転力を土台に木刀を薙ぎ、
 スパンッッ
 一本目の棒を両断した。と同時に再び左爆閃。真左へ跳びつつ二本目の棒に体を正対させ、続いて静閃二連続で正面へ2メートル跳び、そして右爆閃。右回転を活かして木刀を薙ぎ、
 スパンッッ
 二本目の棒を両断した。その勢いを殺さず再度右爆閃。右斜め前方へ跳躍しつつ空中で切っ先を下段に移動させ、両足が床に着地するや静閃。正面に飛んだ僕は左下段から逆袈裟で、
 スパンッッ
 三本目も両断した。そのまま回転の伴わない右爆閃。真右へ50センチ跳び右の爪先を軸に左回転し、三本の棒を視野に収める。それぞれの棒の上に、棒がきっちり両断されていることを保証する2D文字が浮かび上がっているのを確認した僕は、中段の構えをとき楽な姿勢になった。そのさい皆と正対するよう、教育AIが三本の棒を最初から配置してくれていた事を僕は有難いと感じていたのだけど、今は少し複雑だった。10メートルほど離れているとはいえ正対する三十九人全員が、口をポカンと開けてボ~っとしていたため、どう行動すべきかが判らなかったのである。このような場合はだいだい雄叫びが上がり、次いで揉みくちゃにされるという、僕が積極的に行動せずともよいパターンが多かったはずなのに、今回は何が起こっているのだろうか。不安になった僕はオドオドするロバ丸出しで、お馬様の筆頭たる若侍へ問いかけた。
「あの藤堂さん、いかがだったでしょうか?」
 ハッとした藤堂さんは何かを言いかけるも、気になる事があったのか顔を左右に向け、さもありなん的な表情になった。そして「ウオッホン!」と大きな咳を一つしてから、僕自身が見過ごしていたことを指摘してくれた。
「今見せてくれた刀術には、去年と一昨年の余興には無かった、両足踏み込みが入っていたよな。眠留、あれを見せて問題になったりしないか?」
 ああなるほど、確かに去年と一昨年は爆閃だけで戦っていたな、との見過ごしを気づかせてくれた藤堂さんに、いらぬ心配をさせる訳にはいかない。「はい、問題ありません」と答えた僕は「去年はまだせ」と続け、そこで慌てて、問題発言をする寸前だった口を閉じた。爆閃と静閃を実演して見せるのは許可されていても、
 ―― 爆閃及び静閃の語彙を使うこと
 は許されていない。名称は往々にして独り歩きし、その過程で本来の意味から離れ、世に定着してしまうことが非常に多い。よって爆渦軸閃や静集錐閃などの専門用語を明かす事を、翔刀術は固く禁じていたのだ。その決まりを「去年はまだ静閃を使えませんでしたから」と返答しかけたせいで、破ってしまう寸前だったのである。いやそれは僕の考えに過ぎず、水晶は異なる判断をするかもしれない。正座し木刀を脇に置き、水晶の裁定を待った。ほどなく、
 ―― 今回は不問とする
 との声が心にもたらされた。僕は額を床につけ、二度と油断しないことを水晶に誓った。その様子に、何かを察したのだろう。僕が上体を起こし、藤堂さんが「五分休憩」の指示を出すまで、皆は静かに正座してくれていたのだった。

 五分休憩が始まってすぐ、「質疑応答の時間を設けないでほしいなら遠慮せず言えよ」と、藤堂さんに肩を叩かれた。子細を述べずとも大筋を十全に理解してくれる偉大な先輩へ一礼し、「僕が油断しなければ問題ありません」と胸を張った。「なら問題ないな」 そう破顔した藤堂さんの信頼に応えるべく、気合いを入れて僕は休憩時間を過ごした。と言っても大概の男がこういう時するのは、トイレに行くことなんだけどね。
 トイレを済ませ、道場に足を踏み入れる。休憩は、まだ二分ほど残っているようだ。丁度良いと思い、備品室へ足を向けた。木刀の本数を確認したかったのである。竹刀はこの授業の定員と同数あっても、木刀は難しいだろうと予想したとおり、備品は三本あるのみだった。必要な本数をなるべく少なくする鍛錬方法を頭の中で考え始める。そのうち、「眠留さん、そろそろお願いします」との颯太の声が鼓膜を震わせた。気の回るこの子の事だから、備品室に向かう僕を見るや、呼びに行くタイミングやセリフを考えてくれたに違いない。礼を述べ、「颯太の太刀筋、なかなか良いな」「うおお死ぬ気で木刀を振ります~!」なんてワイワイやりながら、僕らは皆の輪へ戻って行った。

 休憩後の質問及びその推移は、予想を大きく外れた。最初に問われたのは、これだった。
「先ほどの身体操作を、剣道の試合で用いることはあるか」
 返答は、無いと思うだった。僕の神社に伝わるのは、一人で多数と戦うための刀術。したがって、1対1を基本とする剣道ではまず用いないだろうと答えたのだ。それを受け、これが問われる。
「用いることは無くとも、役立つことはあるか」
 個人的に最も役立つと思うのは、体全部を使って竹刀を振ること。僅差の二番目は、両足踏み込み。移動と攻撃と回避を同時にこなす回転踏み込みの役立ち度は大きく下がり、相手を弾いてバランスを崩すくらいしかないと思う、と僕は答えた。この返答に、男子と女子は異なる反応を示した。女子は両足踏み込みが有用なことを喜び、男子は回転踏み込みを活かす機会の少なさを嘆いたのである。皆もこの違いに気づき、それが場を席巻しかけるも、颯太がこの問いをするや皆の興味はそれ一点に集中した。
「あの身体操作が1対1で有用なのは、どのような敵と戦うときですか」
 僕がこれにどう答えるかを颯太は重々承知していたため、厳密に言うとこれは質問ではないのだろう。まあそれは置くとして、僕は対戦相手を特定した。それは、
 ――人を凌駕するモンスター
 だった。そのとたん、皆の興味はそれのみに集中する事となる。
 そしてそれは、四限終了のチャイムが鳴るまで続いたのだった。
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