僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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二十四章

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 僕は四年の先輩の竹刀を弾き飛ばした時の動作をした。試合中に竹刀を落とすと反則になり、接戦時はたった一つの反則で負けることがあるとはいえ、これについては興味を持たれないだろうと予想していた。だがそれは大外れと言うほかなく、「なぜあれができるんだ!」との集中砲火を浴びる事になってしまった。意味が解らず半分涙目になった僕を哀れんだのだろう、四年女子の高柳さんが噛み砕いて説明してくれた。
 それによると、竹刀落としは滅多に起こらないらしい。あったとしても偶然の要素の強い一回きりの現象であり、意図的に二回連続成功させたのを見たのは今回が初めてだったそうだ。「だからできれば原理を教えてくれないかな」と高柳さんは結んだ。ようやく腑に落ちた僕は、竹刀を弾く際に絞り出した瞬時の大筋力について話した。爆渦軸閃の論文用に制作した図やグラフを豊富に使えたのが良かったのだろう、
 ――瞬時に大負荷を掛けて育てた筋肉は、大筋力を瞬時に作り出す筋肉になる
 ことを、比較的短時間で皆に理解してもらえた。よって僕としてはそろそろ前回の両足踏み出しへ、つまり静集錐閃へ話題が移ると予想していたのだけど、それはまたもや外れた。竹刀落としの話が出てからずっと何かを考え続けていた清水が、ようやく合点がいったとばかりに勢いよく挙手し、
「その筋肉は、クリスマス会の余興の筋肉か!」
 と叫んだ。そのとたん「そうか!」「なるほど!」「喉の小骨が取れた気分!」系の賛同が立ち上り、話題がそれ一色に染まったのである。とはいえ僕だけは何が何やらさっぱり解らず半分涙目になっていると、清水は「悪い悪い」と詫び、事と次第をきちんと話してくれた。
「竹刀を弾き飛ばした猫将軍の動きを、以前どこかで見たような気がしきりとしてさ。クリスマス会の余興で妖魔の攻撃を回避する時と妖魔を斬り伏せる時に猫将軍がしていた、横の回転運動と同じなんだって、さっきやっと思い出したんだよ」
 確かに清水の言うとおりだった。刀剣の振り方は、踏み込んで行う方法と、軸回転で行う方法の二つに大別される。幅0.1ミリの3D映像を両断した時は踏み込む振り方だったのに対し、竹刀落としや妖魔との戦いで用いたのは、軸回転での振り方だった。太腿が瞬時に大筋力を作り出すのも、どちらかというと踏み込みより軸回転だから、清水の発言は正しかったのだ。それは友人に理解されたのと同義だったので僕にとっても嬉しいことだったが、
 ――ここにいる全員が余興の映像を見ていた
 ことは恥ずかしくて堪らなかった。大立ち回りだけでも恥ずかしいのに稚児服を着ていたのだから、あれについてはなるべく触れないでと言うのが僕の本音だったのである。
 しかしこのような状況に置いて、それが叶うことは滅多にないのが僕の湖校生活だった。大抵の場合、いや90%以上の確率で、更なる羞恥へ突き落されるのが湖校における僕の日常だったのである。その法則は今回も適用され、みんな活発に意見を述べ合い、「瞬時の大筋力の仕組みが解ったのだからあの余興の映像を今すぐ検証し直したい」との総意があっという間に可決されてしまった。遅きに失したのは事実でも、恥ずかしくて仕方ない当人としては、反対しない訳にはいかない。僕は両手をブンブンふりピョンピョン跳ねて注意を集め、アレをここで上映するのだけは勘弁願いませんかと皆に頼んだ。
 だが僕は愚かすぎた。このような状況下でそれが叶うことは滅多にないと知っていたはずなのに、その法則が更に強く働くための燃料を、僕は自ら投下してしまったのである。アレをここで上映するのだけはご勘弁くださいと請う僕へ、香取さんが主旨のすげ替えも甚だしい言葉を嬉々として放った。
「え? 猫将軍君は妖魔と戦う余興より、夏菜とのラブロマンスの余興をここで上映して欲しいの?」
 お願いです香取さん泣いちゃいそうなのでホント許して下さい!
 と僕が懇願するより早く、
「「「「キャ――ッッ!!」」」」
 黄色い声が道場を揺らした。そして間髪入れず「それイイね!」「ねえねえ、ラブロマンスの方も戦闘シーンはあったよね?」「あったあった、牛若丸が盗賊達をたった一人で撃退する場面があったよ」「だから妖魔戦にこだわらなくていい!」「ラブロマンスだと二度おいしいからラブロマンス一択!」「「「「さんせい~い!」」」てな感じに、マシンガントークによる素早い可決が成されてしまったのである。混乱した僕が涙目を通り越し、涙を零す寸前になったのは言うまでもない。そんな僕が、同性として流石に不憫だったのだと思う。藤堂さんを始めとする男子達が僕の周囲にぞろぞろ集まって来て、ここでの上映はちょっと可哀そうじゃないかと女子達をけん制してくれた。だが恋バナ至上主義の女子達は首を縦に振らず、その結束力の高さに説得は悪手と悟った藤堂さんは、妥協案の提示へ舵を切った。その結果、
 ――あの大立ち回りを今ここで見せてくれるなら妥協してもいい
 との合意が両陣営の間で結ばれたのである。混乱も手伝い「なぜ両陣営の合意なのかな?」との疑問がその時は沸いて来ず、また大立ち回りは既に二回披露していた事もあって、その妥協案に僕も同意した。というか、藤堂さん率いる男子陣営に多大な感謝を抱いていた僕は顔を天井へ向け、
「アイ、さっきの幅0.1ミリの3D映像を三本、僕の後方にバラけて配置してみて」
 そう頼んだ。おそらく教育AIは、美夜さんの協力を仰いだのだと思う。これでどうかしら、と映し出された三つの3D映像は、場所といい棒の傾き具合といい、今の僕の実力を遺憾なく発揮させる絶妙な位置に配置されていた。「3Dの棒は斜めでもいいのか?」との藤堂さんの問いかけに頷き、その場で立ち上がって木刀を中段に構える。周囲の男子達は「一瞥しただけで?」「この距離から?」系の疑問を口にしていたが、藤堂さんの呼びかけにより女子達のもとへ戻って行った。それを合図に僕は感覚体を後方へ展開し、三本の棒の位置を今一度確認する。この道場で初めて展開した感覚体を察知したのか、藤堂さんの目が見開かれる。察知しつつもあまり驚いていないような那須さんと香取さんに、二人の前で感覚体を使ったことがあったかなとの疑問が浮かぶも、まあそれは後回しにして。
 ダンッッ
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