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第八話
―“特別”が欲しくて、喉が渇く―
しおりを挟む「私だけじゃないんだよね……」
施術ベッドに横たわりながら、無意識にこぼれた言葉だった。
リクの指が腰のあたりで止まる。
「……何が、ですか?」
低く落とすその声は、いつも通り穏やかで。
だからこそ余計に、胸の奥がざわついた。
「私以外にも……さっきの“あやか”さんみたいな……」
「……いるんですよね?」
言ってしまった瞬間、後悔が喉元を締めつけた。
施術の空気を壊すなんて、ルール違反だとわかっている。
でも、もう止められなかった。
彼の指がゆっくり動き出す。
けれど、その熱はさっきよりもわずかに遠く感じた。
「……柚希さんは、“自分だけが特別”でいたいんですか?」
背中越しに聞こえた声が、やけに静かだった。
「……そう……思っちゃダメですか?」
声が震えた。
涙が、目の奥に滲む。
施術に来ているだけ——お金を払って、癒やされるだけ。
そんなはずなのに。
「僕は……お客さまの期待に応えるのが仕事です」
「でも……」
言いかけて、彼の手が背骨をなぞり落ちる。
ゆっくりと、何かを諦めさせるように、あるいは煽るように。
「でも、何ですか……?」
問いかけても、リクはそれ以上を言わなかった。
その代わりに、手がゆっくりと脚の内側へ滑っていく。
欲望の波が、理性をあっさりと飲み込む。
私は、声を漏らすのもはばからずに、リクの手にすがった。
もっと、もっと触れてほしかった。
私だけに向けて、この手が動いていると思いたかった。
気づけば、自分から腰を押しつけていた。
「……リクさん……お願い……もっと……」
こんな言葉を言う自分を、どこかで冷静に見ている自分がいる。
でも、身体はもう戻れない。
彼の指が、太ももの付け根を何度もなぞる。
ぎりぎりの場所に、わざと触れない。
焦らされるたびに、熱が奥で膨らんでいく。
「……もっと奥まで……」
涙が頬を伝った。
切なさと、恥ずかしさと、救われたい気持ちと。
「柚希さん……今日は、いつもと違いますね」
耳元に落とされる声が、心の奥に突き刺さる。
「……特別にしてほしいんですか?」
その言葉に、縋るように頷く。
「……お願い……私だけ……私だけ……」
彼の指が、ようやく深く沈んだ瞬間、
小さな声が喉の奥から漏れた。
“誰かのための私”じゃない、
“女としての私”が、ここにいる。
それでも——
この手が終われば、また私は“お客さま”に戻る。
分かっているのに、欲しがってしまう。
私はもう、自分を止められない。
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