Re:noteーこの音が君に届いたらー

しろのね

文字の大きさ
25 / 34
1章ー記憶の旋律ー

ウルフ族

しおりを挟む

「ギル!今日も剣の稽古するぞ!」
「はーい」

俺は小さな村に人間として生まれた。
父、母、兄2人。
家族仲はよく、いつも支え合って生活していた。

──けど、昔から少しだけ違和感があった。

辺り一面に広がる緑。
様々な色の髪。
“魔法”というものの存在。

村のみんなからも「物覚えがいい」「大人びてる」とよく言われた。
まるで──俺が俺じゃないみたいに。

……でも、それは気のせいだと思っていた。
平和な日々。
幸せな家族。
不満なんて、何ひとつなかった。


 
「明日は何の日か覚えてるか?」
父がパンを頬張りながら言った。

「もちろん! 久しぶりだよな!」
「楽しみだな!」
兄たちが目を輝かせて言う。

「何があるの?」
俺の問いに、父が笑って答えた。

「ああ、ギルは知らないよな。明日は、近くの山に住んでるウルフ族が村に来る日だよ。来るのは本当に久しぶりなんだ。」

戦争が終わり、種族同士の争いはなくなった。
この村とウルフ族は、かつて戦った“戦友”として、今も交流を続けている。

「ギルバートに息子がいてな。ギルと同い年なんだ」
ギルバート──父の昔からの親友だ。

「ギルの名前は、あいつから取ったんだぞ」
そう言って笑う父。

「楽しみね。ご馳走たくさん作らなきゃ」
母も張り切っていた。

───

翌日

「おっーーー!ギルバート、久しぶりだな!」
「ガルグも元気そうじゃないか!」

ウルフ族の一行が村にやってきた。
毛並みの美しい彼らは、一見すると威圧的にも見えるが、表情は穏やかで優しい。

「おっ、この子がギルか。初めまして、俺はギルバート。よろしくな!」
がっしりした手で握手を求めてきたその人
──いや、ウルフは、父に似た温かさを持っていた。

「俺の息子を紹介しよう。おーい、ガルフ! こっち来い!」

──ガルフ。
父さんの“ガルグ”が由来らしい。
 
どんだけ仲がいいんだ。

「こいつがガルフ。仲良くしてやってくれよな」

そう言って前に出てきたウルフ族の少年。
年齢も、背丈も、俺と同じ。

──目が、合った。

その瞬間。

バチン、と空気が弾けた。
頭の奥、心の底に触れられたような、説明できない感覚。

(なんだ──これ……)

胸が痛い。
懐かしいような、切ないような、でも確かに“知っていた”何かが暴れ出す。

──鈴と出会ったあの日
 
──音楽を作ってたこと
 
──バンドを組んだときの喜び
 
──ステージの上、4人で響かせた“音”


 
あの音が──胸に戻ってくる。

遠くで、笑い声がした。
涙がこぼれたような気がした。
暖かい風が吹いた。
知らないはずの風景が、瞼の裏で光っていた。

思い出した─────
 
(──俺は……怜央だった)

「…………」
「…………」

沈黙の中、向こうが声を発した。

「な、なあ……怜央……だよな?」
 
「あ、ああ……お前は……隼人か……」

「久しぶりだな!!!」
「まさか、こんな形で再会するとはな」

次の瞬間、抱き合って笑った。
ぎこちないけど、心はもう昔に戻っていた。

「い、今頭がグワーッてなったんだけど!」
「ああ、お前もか!」

懐かしさと再会の喜びで、目頭が熱くなる。

そんな俺たちを見てあまり細かいことを気にしない父さん達は「知り合いだったのか?」と不思議そうに俺たちを眺めたあと自分たちの話に夢中になっていた。

「他の2人は? 鈴と明里は……」
「分からねえ。でも多分俺の村には居ねえと思う」

「…………じゃあどこにいるんだよーー!!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

俺だけ“使えないスキル”を大量に入手できる世界

小林一咲
ファンタジー
戦う気なし。出世欲なし。 あるのは「まぁいっか」とゴミスキルだけ。 過労死した社畜ゲーマー・晴日 條(はるひ しょう)は、異世界でとんでもないユニークスキルを授かる。 ――使えないスキルしか出ないガチャ。 誰も欲しがらない。 単体では意味不明。 説明文を読んだだけで溜め息が出る。 だが、條は集める。 強くなりたいからじゃない。 ゴミを眺めるのが、ちょっと楽しいから。 逃げ回るうちに勘違いされ、過剰に評価され、なぜか世界は救われていく。 これは―― 「役に立たなかった人生」を否定しない物語。 ゴミスキル万歳。 俺は今日も、何もしない。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜

秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。 そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。 クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。 こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。 そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。 そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。 レベルは低いままだったが、あげればいい。 そう思っていたのに……。 一向に上がらない!? それどころか、見た目はどう見ても女の子? 果たして、この世界で生きていけるのだろうか?

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜

あいみ
ファンタジー
亡き祖母との約束を守るため、月影優里は誰にでも平等で優しかった。 困っている人がいればすぐに駆け付ける。 人が良すぎると周りからはよく怒られていた。 「人に優しくすれば自分も相手も、優しい気持ちになるでしょ?」 それは口癖。 最初こそ約束を守るためだったが、いつしか誰かのために何かをすることが大好きになっていく。 偽善でいい。他人にどう思われようと、ひ弱で非力な自分が手を差し出すことで一人でも多くの人が救われるのなら。 両親を亡くして邪魔者扱いされながらも親戚中をタライ回しに合っていた自分を、住みなれた田舎から出てきて引き取り育ててくれた祖父祖母のように。 優しく手を差し伸べられる存在になりたい。 変わらない生き方をして二十六歳を迎えた誕生日。 目の前で車に撥ねられそうな子供を庇い優はこの世を去った。 そのはずだった。 不思議なことに目が覚めると、埃まみれの床に倒れる幼女に転生していて……? 人や魔物。みんなに愛される幼女ライフが今、幕を開ける。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...