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1章ー記憶の旋律ー
あの子との出会い
しおりを挟む私があの子と初めて会ったのは、中学一年のときだった。
あれは、吹奏楽部の体験に行った日のこと。
周りの子たちは友達同士で話しながら、「入ろうかな、どうしようかな」なんて相談していて──
でも私は、一人だった。
黙々と部活の様子を見ていたけど、正直、寂しかった。
先輩の話もうまく頭に入らず、ただただ自分の未熟さに打ちのめされていた。
ふと、隣を見ると──
私と同じように、一人で静かに部活を見ている子がいた。
誰とも話さず、でも真剣な眼差しで、部活……いや、今思えば、「楽器」を見ていたのかもしれない。
結局私は、習い事が忙しくなって部活には入れなかった。
でも後から聞いた噂では、「入部してからわずか半年で、すべての楽器をマスターして退部した人がいた」らしい。
特徴を聞いて、すぐに思った。──あの時、隣にいた子だ。
その話を聞いたとき、私は「話してみたい」と思った。
─────
私は小さい頃から、ピアノを習っていた。
母がプロのピアニストで、自然と音楽の道を目指すようになった。
物心がつく前から、練習は生活の一部だった。
母がつけたプログラム通りに毎日練習して、コンクールに出て、評価を得る──そんな日々をずっと過ごしていた。
母は常に私に期待していた。
「あなたは必ずプロになれる」
そう言って、まるでそれが当然かのように道を敷いてくれた。
でも、私は次第にその期待の重さに押しつぶされそうになっていった。
息をするようにピアノを弾いてきたのに、いつしかそれは義務になっていた。
楽しいという感情はいつの間にか消えていた。
中学三年のはじめ。
そんな日々に疲れた私は、ある日ぽつりと、言ってしまった。
「やめたい」
その瞬間、目の前の母の顔が真っ赤に染まった。
今まで見たこともないほど険しい表情で、私を睨みつけた。
すぐに、言ったことを後悔した。
すぐに「ごめんなさい」と謝ったけど、母は聞く耳を持ってくれなかった。
私は怖くなって、自分の部屋へ逃げ込んだ。
次の日も、母と顔を合わせたくなくて、いつもより早く家を出て学校に向かった。
でも、どこにも逃げ場なんてなかった。
家に帰りたくはない。でも、ピアノが嫌いになったわけじゃなかった。
家に帰りたくない。
だから私は、なんとなく誰にも使われていない第二音楽室に足を運んでみた。
第二音楽室は、本校舎から少し離れた場所にあって、誰でも自由に楽器を触っていいところだった。
だけどほとんど使われておらず、人も滅多に来ない、静かな場所だった。
その静けさの中で、ピアノに触れてみた。
すると──
今まで感じたことのない、開放感があった。
心が軽くなる。楽しいって思えた。
それ以来、放課後になると、私は毎日そこに通ってピアノを弾いた。
自分を取り戻せる、唯一の時間だった。
──そして、それから一週間ほど経った日のこと。
いつも通り、誰もいないはずの音楽室でピアノを弾いていたら。
不意に、背後から声がした。
「すごく上手!ピアノ、好き?」
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