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1章 辺境伯編
9 王都の崩壊と、公爵夫妻の反撃
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公爵様の調査は迅速でした。
ハーブに異物を混入させた間者は、私の実家であるロアリエ伯爵家が、王都の貴族を通じて城に潜り込ませた者だと判明しました。目的は、私を無力化し、精霊の暴走をさらに悪化させて、私を「真の聖女」として王都に連れ戻すこと。
しかし、その計画は、公爵様の愛と守護の力によって、完全に失敗に終わりました。
「ロアリエ伯爵家は、妻を害しようとした。これは、戦争行為と見なす」
公爵様は、王都へ向けて、二度と撤回できない絶縁状を叩きつけました。そして、間者を容赦なく辺境の法に基づいて処罰し、私の安全を脅かす全ての芽を摘み取りました。公爵様の私への溺愛は、今や辺境伯領の軍事行動と化しているのです。
その頃、王都からの手紙は、日に日に悲惨なものになっていました。
結界が完全に崩壊したという知らせと共に、街には魔獣が侵入し、パニック状態に陥っていると報じられています。そして、聖女フィオナは、高熱による意識不明の状態が続き、「魔力の根源」である彼女の存在が、かえって王都の魔力をさらに乱しているというのです。
(フィオナ……私の妹は、幼い頃から魔力に頼りすぎて、精霊の心に寄り添うことができなかったのですわ)
私は、もはや王都を助ける義理はありません。しかし、私の耳には、精霊たちの悲痛な叫びが、遠い辺境にいても届いていました。
ハーブ研究室で、私は一人、深く息を吐きました。
「公爵様。わたくし、王都へ、行かなければなりません」
公爵様は、私の言葉に、静かに目線を上げました。
「あの場所は、君を蔑み、害そうとした者たちの巣窟だ。危険すぎる」
「存じております。しかし、わたくしを長年見守ってくれた、精霊たちの悲鳴が、もう耐えられません。彼らの悲しみを鎮めることこそが、わたくしの使命なのです。わたくし、公爵様の愛する妻として、この使命を果たしたいのです」
私が「愛する妻として」と告げると、公爵様の瞳に宿った迷いは、一瞬で消え去りました。彼は、私の使命を果たすことこそが、私にとっての安寧だと理解してくださったのです。
「わかった。王都へ行こう」 公爵様は、力強く立ち上がりました。
「だが、約束しろ、エルナ。君は、私と子供たちを守るという、最も重要な使命を最優先するのだ。私は、王都の連中を助けるためではない。君の心を安らかにするために、この軍を動かす」
公爵様は、子供たちを信頼できる副官の元に預け、辺境伯領の精鋭部隊を編成しました。
「王都へ向かうぞ。我々は、我が妻である真の聖女を守る辺境の守護者だ」
そして、私たちは、辺境伯軍の厳重な護衛の元、王都へ向けて出発しました。
三週間後。 私たちが王都の城門に到着したとき、王都は、すでに地獄と化していました。
結界の破れた城壁からは、低い魔獣の唸り声が聞こえ、街全体が、灰色の暗雲に覆われています。貴族たちはパニックに陥り、城の中は、恐怖と混乱で秩序を失っていました。
私たちの軍が城門を破って進むと、王都の貴族たちが、汚れた服と怯えた顔で、私たちを取り囲みました。彼らは、私たちを追放した時のような傲慢な態度など、微塵も残していませんでした。
「辺境伯様! 助けてくれ! 魔獣が、魔獣が襲ってくる!」
「そして、そちらは! エルナ嬢! 真の聖女は、貴方だったのですね! 貴方の力で、精霊を鎮めてください!」
彼らは、私を「穀潰し」と罵った過去を忘れ、一斉に私にひざまずき、泣きながら助けを請いました。
私は、公爵様の精鋭部隊に守られながら、彼らを見下ろしました。 そして、広間の奥。
そこには、高熱にうなされ、瀕死の状態に陥っている妹のフィオナと、彼女を抱きしめながら、絶望的な表情を浮かべる王太子殿下。そして、私の実家である両親の姿がありました。
私の父は、顔面蒼白になり、私に、今にも縋り付いてきそうな目で、叫びました。
「エルナ! 娘よ! 帰ってきてくれたのか! お前こそが、この国を救う希望だ! 頼む、フィオナを、この国を、救ってくれ!」
彼らは、私が去ったことで失われたものが、どれほど巨大であったか、今、初めて身をもって知ったのです。
公爵様は、私を抱き寄せ、冷たい声で王都の貴族たちに告げました。
「妻は、君たちの『道具』ではない。彼女は、我が愛する妻、エルナ・フォン・グロースハイム公爵夫人だ。君たちの傲慢さで、精霊たちを怒らせた罪は重い。だが、我が妻の慈愛をもって、私は君たちに、最後の機会を与える」
ざまぁは、ついに、完成しました。
ハーブに異物を混入させた間者は、私の実家であるロアリエ伯爵家が、王都の貴族を通じて城に潜り込ませた者だと判明しました。目的は、私を無力化し、精霊の暴走をさらに悪化させて、私を「真の聖女」として王都に連れ戻すこと。
しかし、その計画は、公爵様の愛と守護の力によって、完全に失敗に終わりました。
「ロアリエ伯爵家は、妻を害しようとした。これは、戦争行為と見なす」
公爵様は、王都へ向けて、二度と撤回できない絶縁状を叩きつけました。そして、間者を容赦なく辺境の法に基づいて処罰し、私の安全を脅かす全ての芽を摘み取りました。公爵様の私への溺愛は、今や辺境伯領の軍事行動と化しているのです。
その頃、王都からの手紙は、日に日に悲惨なものになっていました。
結界が完全に崩壊したという知らせと共に、街には魔獣が侵入し、パニック状態に陥っていると報じられています。そして、聖女フィオナは、高熱による意識不明の状態が続き、「魔力の根源」である彼女の存在が、かえって王都の魔力をさらに乱しているというのです。
(フィオナ……私の妹は、幼い頃から魔力に頼りすぎて、精霊の心に寄り添うことができなかったのですわ)
私は、もはや王都を助ける義理はありません。しかし、私の耳には、精霊たちの悲痛な叫びが、遠い辺境にいても届いていました。
ハーブ研究室で、私は一人、深く息を吐きました。
「公爵様。わたくし、王都へ、行かなければなりません」
公爵様は、私の言葉に、静かに目線を上げました。
「あの場所は、君を蔑み、害そうとした者たちの巣窟だ。危険すぎる」
「存じております。しかし、わたくしを長年見守ってくれた、精霊たちの悲鳴が、もう耐えられません。彼らの悲しみを鎮めることこそが、わたくしの使命なのです。わたくし、公爵様の愛する妻として、この使命を果たしたいのです」
私が「愛する妻として」と告げると、公爵様の瞳に宿った迷いは、一瞬で消え去りました。彼は、私の使命を果たすことこそが、私にとっての安寧だと理解してくださったのです。
「わかった。王都へ行こう」 公爵様は、力強く立ち上がりました。
「だが、約束しろ、エルナ。君は、私と子供たちを守るという、最も重要な使命を最優先するのだ。私は、王都の連中を助けるためではない。君の心を安らかにするために、この軍を動かす」
公爵様は、子供たちを信頼できる副官の元に預け、辺境伯領の精鋭部隊を編成しました。
「王都へ向かうぞ。我々は、我が妻である真の聖女を守る辺境の守護者だ」
そして、私たちは、辺境伯軍の厳重な護衛の元、王都へ向けて出発しました。
三週間後。 私たちが王都の城門に到着したとき、王都は、すでに地獄と化していました。
結界の破れた城壁からは、低い魔獣の唸り声が聞こえ、街全体が、灰色の暗雲に覆われています。貴族たちはパニックに陥り、城の中は、恐怖と混乱で秩序を失っていました。
私たちの軍が城門を破って進むと、王都の貴族たちが、汚れた服と怯えた顔で、私たちを取り囲みました。彼らは、私たちを追放した時のような傲慢な態度など、微塵も残していませんでした。
「辺境伯様! 助けてくれ! 魔獣が、魔獣が襲ってくる!」
「そして、そちらは! エルナ嬢! 真の聖女は、貴方だったのですね! 貴方の力で、精霊を鎮めてください!」
彼らは、私を「穀潰し」と罵った過去を忘れ、一斉に私にひざまずき、泣きながら助けを請いました。
私は、公爵様の精鋭部隊に守られながら、彼らを見下ろしました。 そして、広間の奥。
そこには、高熱にうなされ、瀕死の状態に陥っている妹のフィオナと、彼女を抱きしめながら、絶望的な表情を浮かべる王太子殿下。そして、私の実家である両親の姿がありました。
私の父は、顔面蒼白になり、私に、今にも縋り付いてきそうな目で、叫びました。
「エルナ! 娘よ! 帰ってきてくれたのか! お前こそが、この国を救う希望だ! 頼む、フィオナを、この国を、救ってくれ!」
彼らは、私が去ったことで失われたものが、どれほど巨大であったか、今、初めて身をもって知ったのです。
公爵様は、私を抱き寄せ、冷たい声で王都の貴族たちに告げました。
「妻は、君たちの『道具』ではない。彼女は、我が愛する妻、エルナ・フォン・グロースハイム公爵夫人だ。君たちの傲慢さで、精霊たちを怒らせた罪は重い。だが、我が妻の慈愛をもって、私は君たちに、最後の機会を与える」
ざまぁは、ついに、完成しました。
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