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1章 辺境伯編
18 学園の入学式と、「最強の母親」の弁当
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入学式の日。私たちは、家族総出で大陸中央の魔法学園へと向かいました。
学園の正門前には、各国の王族や貴族の馬車が並んでいましたが、漆黒の馬車に『氷の紋章』を掲げた私たちの到着に、周囲は騒然となりました。
「あれは……アースガルドの『氷の軍神』だ!」
「隣にいらっしゃるのは、『救国の聖女』エルナ様よ! なんてお美しいの……」
ジークフリート様は、周囲の視線を冷徹なオーラで牽制しながら、私をエスコートしてくれます。その腕の中には、末っ子のルカが抱かれています。
「リオン。いいか、舐められるなよ。お前はグロースハイム家の長男だ」
「分かってますよ、父上。……ああ、もう、恥ずかしいから睨まないでください」
リオンは、父親の過剰な威圧感に苦笑いしながらも、堂々と制服を着こなしていました。
入学式の後、私はリオンに、別れ際の手土産を渡しました。それは、私が夜なべして作った、特製の『保存魔法付きお弁当セット』と、『ホームシック対策のハーブティー』でした。
「リオン。寮の食事が口に合わなかったら、これを食べるのよ。私の特製ソースを使ったハンバーグと、あなたの好きな甘い卵焼きが入っているわ」
「母上……! ありがとうございます!」
リオンは、年頃の男の子らしく照れながらも、お弁当を大切そうに抱きしめました。
その様子を、遠くから見ていた数名の生徒たちが、クスクスと笑いました。
「おい見ろよ、辺境の貴族は、入学式に弁当持参かよ」
「田舎臭いな。ママに甘えてるのか?」
彼らは、隣国の大貴族の子息たちのようでした。 リオンの顔が、少し曇りました。
その瞬間。 私の隣にいたジークフリート様の魔力が、バチッと音を立てて跳ね上がりました。
「……ほう。私の妻が作った、世界で一番価値のある弁当を、田舎臭いと言ったか?」
公爵様が、その生徒たちに向かって一歩踏み出そうとした瞬間、リオンが動きました。 彼は、笑顔で生徒たちの方を振り向き、手に持ったお弁当の包みを、わざと少し開けました。
ふわり。 そこから漂ったのは、私の錬金術によって香りを極限まで高めた、食欲をそそる極上の香りでした。それは、高級レストランの料理すら霞むような、家庭的でありながら魔性的な匂いです。
「……な、なんだこの美味そうな匂いは!?」
「こ、これがお前の家の弁当なのか!?」
嘲笑していた生徒たちは、一瞬で唾を飲み込み、羨望の眼差しに変わりました。
リオンは、にっこりと笑って言いました。
「僕の母上は、世界一の料理人でもありますから。……残念ですが、これは僕専用なので、あげられませんよ?」
その堂々とした対応と、圧倒的な「母の愛(物理的な美味しさ)」の証明に、生徒たちは完敗しました。
「ふっ。……やるな、息子よ」 ジークフリート様は、満足げに魔力を収めました。
「母上、行ってきます。僕は、このお弁当を食べて、一番になります!」
リオンは大きく手を振り、学園の門をくぐっていきました。その背中は、いつの間にか、とても大きく見えました。
学園の正門前には、各国の王族や貴族の馬車が並んでいましたが、漆黒の馬車に『氷の紋章』を掲げた私たちの到着に、周囲は騒然となりました。
「あれは……アースガルドの『氷の軍神』だ!」
「隣にいらっしゃるのは、『救国の聖女』エルナ様よ! なんてお美しいの……」
ジークフリート様は、周囲の視線を冷徹なオーラで牽制しながら、私をエスコートしてくれます。その腕の中には、末っ子のルカが抱かれています。
「リオン。いいか、舐められるなよ。お前はグロースハイム家の長男だ」
「分かってますよ、父上。……ああ、もう、恥ずかしいから睨まないでください」
リオンは、父親の過剰な威圧感に苦笑いしながらも、堂々と制服を着こなしていました。
入学式の後、私はリオンに、別れ際の手土産を渡しました。それは、私が夜なべして作った、特製の『保存魔法付きお弁当セット』と、『ホームシック対策のハーブティー』でした。
「リオン。寮の食事が口に合わなかったら、これを食べるのよ。私の特製ソースを使ったハンバーグと、あなたの好きな甘い卵焼きが入っているわ」
「母上……! ありがとうございます!」
リオンは、年頃の男の子らしく照れながらも、お弁当を大切そうに抱きしめました。
その様子を、遠くから見ていた数名の生徒たちが、クスクスと笑いました。
「おい見ろよ、辺境の貴族は、入学式に弁当持参かよ」
「田舎臭いな。ママに甘えてるのか?」
彼らは、隣国の大貴族の子息たちのようでした。 リオンの顔が、少し曇りました。
その瞬間。 私の隣にいたジークフリート様の魔力が、バチッと音を立てて跳ね上がりました。
「……ほう。私の妻が作った、世界で一番価値のある弁当を、田舎臭いと言ったか?」
公爵様が、その生徒たちに向かって一歩踏み出そうとした瞬間、リオンが動きました。 彼は、笑顔で生徒たちの方を振り向き、手に持ったお弁当の包みを、わざと少し開けました。
ふわり。 そこから漂ったのは、私の錬金術によって香りを極限まで高めた、食欲をそそる極上の香りでした。それは、高級レストランの料理すら霞むような、家庭的でありながら魔性的な匂いです。
「……な、なんだこの美味そうな匂いは!?」
「こ、これがお前の家の弁当なのか!?」
嘲笑していた生徒たちは、一瞬で唾を飲み込み、羨望の眼差しに変わりました。
リオンは、にっこりと笑って言いました。
「僕の母上は、世界一の料理人でもありますから。……残念ですが、これは僕専用なので、あげられませんよ?」
その堂々とした対応と、圧倒的な「母の愛(物理的な美味しさ)」の証明に、生徒たちは完敗しました。
「ふっ。……やるな、息子よ」 ジークフリート様は、満足げに魔力を収めました。
「母上、行ってきます。僕は、このお弁当を食べて、一番になります!」
リオンは大きく手を振り、学園の門をくぐっていきました。その背中は、いつの間にか、とても大きく見えました。
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