「魔力ゼロの穀潰し」と実家を追い出されましたが、冷徹公爵様と3人の義理の子に溺愛されているので、今さら「帰ってこい」と言われても困ります

メルファン

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1章 辺境伯編

22 公爵様の「育児休暇」と、初めてのオムツ替え

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 リオンたちが学園へ戻り、城に再び日常が戻ったある日。私は、ここ数日の寒暖差のせいか、少しだけ熱を出して寝込んでしまいました。

 「エルナ! 大丈夫か! 医者は! 治癒魔法使いは全員集めたか!」

 ただの風邪気味だというのに、ジークフリート様は大騒ぎです。彼は即座に全ての公務をキャンセルし(部下の騎士団長が泣いていました)、私の看病と、末っ子ルカのお世話を「私がやる」と宣言しました。

 「君は寝ていろ。ルカの面倒くらい、私一人で見られる。伊達に三人の子供を育ててきたわけではない」

 自信満々の公爵様ですが、私は知っています。上の三人の時は、彼は多忙と前妻との不和で、育児にほとんど参加できていなかったことを。そして、ルカに関しては、いつも「抱っこ係」専門であることを。

 「……分かりました。では、お願いしますね」

 私は不安を隠しつつ、ベッドに入りました。そして、隣の部屋からは、すぐに壮絶な戦いの音が聞こえてきました。

 「ルカ、待て! そっちは危ない! ……なぜそんなに速いんだ!」  

 「キャッキャッ!」 

 「うっ、なんだこの匂いは……まさか、オムツか? よし、交換だ。……ええと、このテープをどうするんだ? ……暴れるな! 頼むからじっとしていてくれ!」

 「氷の軍神」と呼ばれ、ドラゴンすら単騎で屠る最強の男が、一歳児のオムツ交換に脂汗を流して苦戦しているのです。

 数時間後。少し熱が下がった私がリビングに行くと、そこには、髪を振り乱し、服にミルクの染みをつけ、疲れ果ててソファに沈み込んでいるジークフリート様の姿がありました。そのお腹の上で、ルカが満足そうに眠っています。

 「……あ、エルナ……」  彼は、げっそりとした顔で私を見ました。

 「……育児とは、魔獣討伐よりも過酷な任務だな。君は、毎日こんな重労働を、笑顔でこなしていたのか」

 「ふふ。大変ですけれど、彼らの寝顔を見ると、疲れも吹き飛びますでしょう?」

 私は、彼の乱れた髪を優しく撫でました。

 「そうだな……。この重みは、悪くない」  彼は、ルカの背中を不器用な手つきでトントンと叩きながら、愛おしそうに呟きました。

 「すまなかった、エルナ。そして、ありがとう。君への尊敬が、今日また一つ深まったよ」

 その日以来、ジークフリート様は、公務の合間を縫って、積極的にルカのオムツ替えや食事の補助をするようになりました。  「最強の公爵」は、今や「最強のイクメン」へと進化しようとしています。
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