六畳半のフランケン

乙太郎

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つまるところボクら排他的社会人

3#応対、公園にて

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「ーーー、ったく…
しっかりしろってのは、さぁ?
そういうのを言うんじゃあないでしょうが…」

コンビニエンスストアから530m。
所狭しと敷き詰められた住宅群。
閑静なはずの正午過ぎを
反響しながら広がってゆく児童のはしゃぎ声。

こてん。

「なるほ、ど?」

彼らの躍動を見渡せる2つのベンチの1つを貸し切って。
アオガミネサトル帰宅までの4時間をアイドリング。

「あ、た、し、が!言いたかったのは
自立しろってのはモチのロンだけんど。
地に足つけて物事を考えろっ!ってえ意味で、ね?
問題を抱えてこむなんてのは、ーーー
おおい!そこのボウズ!
鬼ごっこなら公園の中でやんな!」

義務教育課程、小学部の児童が二人。
車避けのポールを挟んで
グルグル追いかけ回している。

………?

「分かってるよぉ…オバハン!」

いぃー!と歯を見せてジェスチャー。
強い拒否感を表現するパフォーマンスと推測。

オバさんって言いな!

と強く言い返してみせる彼女、トウヤマチ。

かと思えば。

「それでぇ、ーーー
あら!檜山ひやまさんじゃあない…!
今日はお散歩?最近見かけないから心配しちゃったぁ。
まだまだお元気なようで!」

隣接する歩道を散歩する老人にわざわざ
公園中央から声をかける。
こんな忙しなさで、かれこれ小一時間。
なので、当然。
投げかけられる雑談が先程から一向に進まない。

「………疑問。」
「だから、ーーー へ?」
「当行為に、に寄与される
メリットが有りません。何故この様な活動を?」

ゆ、ゆりちゃんは呼ばんでいいのよ…と一言呟いて。

「………あたしはね、いつか聖母になりたいの。」

ゴッホの自画像の印刷された
Tシャツを反らせながら答えてみせた。

聖母。イエスの母であるマリア。
もしくは人徳の深い女性に対する尊称。
前者は単一の概念であるために
彼女の思う聖母は後者であると思われる。

「まあでも、そんな大それたもんじゃないけど!
あたし、マザーって呼ばれたいだけ。
なんかかっこいいじゃない?
宙羽ヶ丘にこの人アリって感じで。」

地位、名声。
社会活動に身を置く一般市民であれば。
突出したアイデンティティを欲するのは理解できる。

だが、尚のこと。
アオガミネサトルとアオガミネユリネの二人は。
そんな普遍的な行動原理とは対極にあるのだろう。

「ね、だからさ?世話ぐらい焼かせなよ。
あのアパートは駆け込み寺として用意したんだもの。
あの青瓢箪には後でガツンと言っとく必要があるけどね。」

………対極に、あるのだろう。
気力、体力を消耗しながら
どこか追いすがるように日々を繰り返すような
排他的で。不安定で。自虐的な生き方とは。

………いつからに、なるのだろう。
自らの損耗を顧みないライフワーク。
生まれ持った素質、アーキタイプとの乱数的偏差によるものか。
認識が定着する生後3年より積み上げ
育まれる人生経験が意思決定を促すのか。


………それとも。
彼女が。叶芽百合音が。

未確定の将来性。相互扶助のコミュニティ。
それら社会における個人財産の殆どを投げ打つなどという蛮勇。

ただの1人の青年に、そうまでさせるのか。


「………それでは、先ず。
ごみの分別、軽い社交辞令。
そして。彼女のやっていた、園芸を。
思い出せる範囲でわたしにも教えて、ください。」

対象、トウヤマチの表情筋の硬直を確認。
………考慮。要求棄却後の早急な想定尋問作成。

「ーーー、ああ、いいよ。
とは言っても、あたしだってゆりちゃんの
見よう見まねだったんだかんね?
………一緒に、ひとつづつやろうじゃないか。」

かと思えば。
顔に浮かべた微笑みとは別の感情をたたえた瞳。
双極的なソレを向けながら容認する彼女。

「………ありがとう、ございます。」

分からない。
解からない。
判からない。

ーーー、それでも。
彼がそれでもよいと言ったのだから。
彼女が持ち去ってしまったものを。

分からないなりに。
今ここにいる私は。
一つづつ拾い集めなければならないだろう。
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