六畳半のフランケン

乙太郎

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つまるところボクら排他的社会人

過去の所在は人ありき その2

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滑らかなラインの洋風腰掛け、座して待つ。
テーブルには表面を覆う清潔な白いクロスと
同じく緑の瑞々しさを基調とした白い造花。

向き合うのでなく隣り合う。
視点の先は対岸の座席一つきり。
ドライブデートぐらいだったか。
お互いを見つめ合うのでなく
同じものを捉えて思うのは。

こちらのお部屋になります。と
個室席に店員さんの案内がわずかに入り込んでくる。

「あぁご丁寧にありがとう。
ーーー、待たせたね、
そして久しぶり。百合音。」

キコキコと音を鳴らしながら入室する叶芽夫妻。
御両親に用意されている座席が一つしかないのは
叶芽家夫人の叶芽咲希さきさんは
車椅子にて主人の和善かずよしさんの介助を受けていたからである。

「………………」

こてん、と首を傾げるユリネを
遮るように立ち上がり駆け寄るボク。

「はじめまして。蒼ヶ峰聡といいます。
もうご存知かと思いますが百合音さんと
同居生活をさせて頂いているものです。」

まずまずの挨拶。
もう少し奥行きのある自己紹介が
出来ないものなのか、蒼ヶ峰聡。

「えぇ、聞いていますとも。
良い御友人をお持ちのようですね。聡くん。
集合時間間近にはなってしまいましたが
彼のお陰で今日の会合をつつがなく
執り行うことができましたから。」

代わって愛想のある紳士的な応答。
愛娘を断りもなく連れ去った男に対しては
些か丁寧にすぎる物腰の柔らかさだ。

「それにしても、すみません。
外でお二人をお出迎えするべきでした。
車椅子でお越しなんて、ボクとしたことが………」
「いえいえ、再び治扇敷に下りてきたのは
最近の出来事なので知る由もありません。
それに、無理を言って遠方から来て
いただいているのはこちらのほうですし、
感謝しなくてはならないのは此方の方だ。
久方振りに娘の顔を見れるとは。
我々には過ぎた幸福だったのだと、
思い知らされたのちの今日日ですから。」
「………………」

上体を側方に傾けて裏手の彼女を
覗き込む和善さん。
ユリネは声の主を思いながら視線を送り続けていた。
遮蔽回り込んで交わされる感性ベクトル。

注視。
肉親にあたる男を捉えんとする。
愛慕。
娘の佇む幕間を慈しんでいる。


そして、堪らず目を背けるボクがアイマにいた。
ひどく、自らを卑しい俗物だといっそのこと
頸椎ごと挿げ替えてしまいたくなるような
嫌悪感で一歩後退する。


ーーー、そういうもんじゃ、ないだろう。

親なら。子供のことならば。
拐かした若造に一撃叩き込んで
会話もなしに奪い返してしまったり。

それがフツウのはずだ。
一歩、後退する。

かつてその身を割くような苦悩に苛んだ
愛娘の体を蝕む難病が跡形もなく完治している、
この目覚ましいほどの奇跡に感涙したり。

マットウな親はそうあるべきだ。
………一歩。

過ぎた幸せだの何だのと。
簡単に踏ん切りつけてそのまま諦めて
しまえるような代物じゃないだろう。

でなけりゃ。
此処でこんな邪な感情を抱いているオレは
いったいぜんたい、何者だっていうんだ。


ーーー、トルさん。

ーーー、サトルさん。

「………どうか、なさいましたか?サトルさん。」

初めて、声を上げる彼女。

彼女、端麗のキミ………
ユリネ、ユリネ。
アオガミネ、ユリネ。

「あ、あぁ。うん。」

こうべを垂れる。
そう、むずかしいことじゃない。
正面を向き直す。
そう、おかしなことでもない。

ほうっと。
いくばくかの数刻。
そんなに、長い間隔でもない。

2人がいる。
サトルとユリネ。
2人もいる。
ユリネの御両親、和善さんと咲希さん。

ただ、それだけの空間。
ただ、それだけの時間。
そんな中庸を以外そうに眺めている1人の男。

「そうか。キミは………」
「ーーー、?」

自重を感じるままに、
かろうじて応答に意識をむける。

「いや、然るべき。といったところか。
どうやら百合音とキミは
心底丁寧に祝福されているようだ。
コレなら我々が介入するような余地はないな。
下手に手を加えれば調律を崩しかねない。」
「はぁ、そうですか。」

はっきり言ってしまえば。
ボクはこの人が嫌いだ。
虚ろな瞳で黙している咲希さんを見やる。

「………………」

本当は知っていたんだ。
百合音の母が車椅子だってことも。
彼女たちを取り巻いている家庭環境も。
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