papillon

乙太郎

文字の大きさ
3 / 19
chrysalis

2章

しおりを挟む
「ミサキチャンはだいったいコイツを
見ると顔をしかめるけどさぁ」

ハンドルを指で3度tap。機嫌が良さそうに
交差点をまがる。

「こうして乗るとコレはコレでまた
いいとこあるだろ?」

そう言って男、村岡むらおか辰二たつじは此方に視線をやる。

探偵。それも公的機関に認められた
正規のもんじゃない。
ハイエナの様に街に巣食うバンデッド。
まず「好み」の蒐集に日々熱心な女子高生は
こんな胡散臭い男とは面識を持たないだろう。

わざわざこんな男と連んでいるのは、
私とこの男が雇用主と従業員の関係だからだ。
まぁ、その事は未だ誰にも
公言していないのだけれど。

「…余所見なんてしてないで。こんなオンボロに
自動運転なんてついてないでしょう。」

ヒュウと口笛を吹いてみせて苦笑する村岡。

「ツレないねぇ。第一よぉミサキチャン、
居住区からバス乗って幹線道路で学校行こうと
してたんだろ?ははッ、面倒くせぇったら
ありゃしない。そんならこうやって!」

道路に飛び出してくる浮浪者を交わして
またハンドルをきる。

「廃棄区画突っ切って真っ直ぐ行った方が
よっぽど近いんだからさぁ。」

…冗談じゃない。

いつ死んでも誰も困らない自称探偵と違って
此方はいたいけな女子高生なのだ。
中央通りならまだしも、外れに点在するような
法の目をかいくぐった危険地帯に1人取り残されては
とても五体満足で此処を出られないだろう。

緋翅ひばね水冴綺みさき、18歳。
運動も学問もそつなくこなせるが、
人に誇れる長所なんて一つだってない。
カウンターカルチャー筆頭の音楽や演劇かき集めて
「ワタシだけのプレイリスト」を公開することが
模範的JKの流行りだなんてメディアが語っていたが
そんなのは他所様のセオリーだ。

「別にダンマリ決め込まなくたって
いいんじゃあないか。春も盛りの娘っ子が
愛想の一つもないんじゃ寂しいだろう?
俺の方は今日はちょっと違うことが
在ったなんてワクワクしてるんだぜ?」
「…そうね。私の方としては
なんて爽やかな期待は
今朝の内に裏切られてしまった訳なんだけど」

不安定な路面の揺れで酔いを感じ始めながら
そんなことを話している内に陰湿で
今にも崩れそうなビル街を抜けて
商業区域への整備された道が見えて来た。

おいおいもうついちまうよ。
せっかく若い娘とのドライブだったってのに。
なんてぼやきながら車は正門前で止まった。
重要文化財並みのアンティークだからだろう。
校舎の窓から段々視線が集まってきたので
早々に車を後にすることにした。

「あぁそれと!ミサキチャン!」

村岡が呼び止める。

「なんでしょう?
ああ、送迎ありがとうございます。」

振り返って仰々しく丁寧な挨拶。

「いやぁな、また依頼が立て込んできたもんで
明日辺り時間空けといてくれや。
「書類整理」よろしく頼むぜ。
いつもの「ライム」で集合な。」

「わかりました。」

踵を返す。

「そんでもって!そのやたらごていネェな挨拶!
やめとけ、キツくてしょうがねえ!」

今度は振り返らず、背中で隠して
余計なアドバイスに、思いつく一通りの
ハンドシグナルをお見舞いしてやる。

切り替え。
いつもの当たり障りのない一般生徒。
赤の他人の平静さで
そのまま足速に校舎に入っていった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...