papillon

乙太郎

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chrysalis

3章

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「冴綺り~ん」

柔らかくそれでいてくどくない
耳触りのよい声がかけられる。
時刻は午前12時半、4限目の途中で
あまりにも目立つ登場をした私は、
教室で妙な注目を集めながら、
何とか平静を装い、教師に問い詰められる
こともなく昼休みを迎えていた。

「珠木さん、おはよう。心配させた?
遅くなってごめんなさい。」

そうよ、もうこんにちわの時間
なんだから。と微笑む彼女。

可愛げのあるボブカットで美形、それでもって
人がいいクラスのアイドル。珠木たまき可奈子かなこ
完全無欠で人々に愛されるために
生まれてきたような可奈子は
男子にも女子にも好かれている聖人君子だ。
なんでも彼女がマネージャーを務める
野球部は異様なまでの成長を遂げ、
区画内の高校では5本の指に入るレベルだとか。

「バスに乗り遅れたってこと?そんなのは
別に大丈夫!ってねぇねぇそれより…」

妙にソワソワした様子の彼女。まあこうして
クラスの視線が私たちに集まっている以上
これからされる質問には容易に想像がついた。

「ねぇあの…別にどうって事はないの。
あれは唯の、」
「ヒツジ!ヒツジが冴綺りんにはついてるのね!
それでいてあれはアラジン!車って今は
みんな超伝導で浮くでしょう?
リングで走るのなんて初めて見た!」

おっと。予想の方向とはかなり違う鋭角で
質問が飛んできた。

「ahh、もしかして執事?乗ってくるのは
リムジンね?生憎あれはきっと
リムジンなんて豪華なものじゃないわ。
乗り心地がサイアクだもの。」

アイツがバイトの雇用主であること、
今日のドライブはそもそも不本意であったことを
夢見がちな彼女の想像力を訂正しながら
順に説明した。

「え~てっきり冴綺りんが上位階層の
お嬢様なのかと思ったのに~」

肩を落とす可奈子。
しかしクラスの反応は彼女の様に暖かくはなかった。

雇用主ってなんだよ、うさんくせえ。
エンコーだよ、エンコー。
えぇ!だから放課後いつも付き合いわるいの?w
全く、金の為ならなんでもするってか?

いや全く否定する気も起きない。
アイツの仕事は探偵だ。なんていっても
邪な想像を捗らせるだけだろう。
大方身構えていたのはこんな勘ぐり。

ソレ自体が正しいかどうかなんてどうだっていい。
モラトリアムに甘んじる私たちにとって
「間違ってはいない」という不確定要素こそ
先行きの見えない不安感を紛らすドラックなのだ。

自らの背中がか細く小さくなっていくのを感じる。
ああ、この程度ならほんの一息で砂の様に
消し飛んでしまうだろう。
陰険なイメージに沈みこみそうになるその時、

右手に柔らかい感触があった。

「どうせ急いでてろくにご飯食べてないんでしょう?一緒に食堂でご飯にしよ!」

彼女に掴まれた右手から腕、胸、頭、胴、
脚…と全身の感覚を取り戻し、
浮遊していた意識を器に収める。

ほっと息をついたのも束の間、
彼女にそのまま手を引かれて教室を後にした。
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