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chrysalis
4章
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かれこれあって放課後。
教室の喧騒もやみ、みな日常会話や勉学の
火照りを冷ましていくように散っていった。
「大丈夫?授業受けた可奈子のログ見せて
あげよっか。」
此方の顔を覗き込んでくる可奈子。
「心配しないで。自業自得だもの。
授業映像見ながら自分でやるわ。」
「そっか、なんだかんだ冴綺りん優秀だもんね。」
かと思えば腕を頭の後ろに組んで空を仰いでみせる。
落ち着きがないとも言えるが、それ以上に彼女の挙動の一つ一つは可愛らしい。
学業に熱心に取り組む程の優等生でない私にとって、
日々の暮らしを支えている存在の大部分は
彼女であると言っても過言ではない。
手放しで褒めそやせる自慢の幼馴染だ。
元はといえばこんなロングヘアだって
可奈子が、「絶対似合う!」なんて
言いきってくれなきゃやらないし、ー
「ーぇ、ねぇ!聞いてる?」
「ああ、今考え事してた。」
「冴綺りん、今日来た方向、廃棄区画の
方でしょ?」
どきり。流石の彼女も勘づいていたようだ。
「知らないわけじゃないでしょ?例の事件。」
当然だ。ここ最近巷を騒がす失踪事件。
18歳の少女を執拗に狙った誘拐で
ペースは1か月に8人と大胆すぎる犯行だ。
担任の私に対する言及が余りしつこくなかったのも
この対応に追われているせいなのだろう。
拡張生体視覚情報システム、通称AOVは
一般階級の市民の左のこめかみのあたり
に埋め込まれている電脳接続形象化生体端末により作動させる。
検索、入力、視覚情報のアップロードまで
可能でありこの情報社会を生きる人間にとって
心臓や、肺といった元来持ちうる内臓と
同レベルで、なくてはならないものだ。
先人らが蒐集、形成した膨大な情報ネットワークと
一生費やしても終わらないはずの演算を
領域の共有によって瞬時に終了させる処理能力。
これだけの越権的な能力を一個人が行使できるなど、
もはや神の御業の領域だった。
そこで先人らはORTICA(オルティカ)の運営方針を
プライベートを度外視した徹底した管理体制と
その情報を統制するAIに依拠することを選択。
互いに互いを見張りあう監視社会を
その超常的な力の枷としたのである。
反社会的な行動やその予兆があればそれは
すぐにそのAIによって出自や足取り、心拍、
開示こそしないが噂ではその思考さえ
明らかにされ、事の解決に当たられるのだ。
「でも…犯人グループの足取りは掴めていない。」
「そう!だからORTICAを所持していない
廃棄区画生まれの人間の犯行だってニュースでも
断定してるじゃない!」
なにかあってからじゃ遅いんだよ?
と目に涙を溜めてまで私を心配して
本気で叱ってくれている可奈子。
「話したくないみたいだから問い詰めないけど、
やっぱり冴綺りんのやってるバイトも
公には言えない様なものなんでしょ?
放課後出歩くぐらいだったらさ
せめて事件が終わってからでも…」
…正直そこまで気を止めていなかったんだけれど。
唯一の親友の見た事のない必死さを目の当たりにして
普段は自分に無関心なこの緋翅水冴綺も
あの野良犬野郎と取り決めた久方ぶりのシフトは
バックれかましてやろうと心に決めた。
「当然よ。ありがとうカナちゃん。
今までの私たちの友情に誓って言うわ。
貴女を心配させる様な真似はしない。」
「…その呼び方いつ振りだっけな。」
少し顔を赤らめたあと顔をブンブン横に振って
彼女らしく満開の笑顔を咲かせる。
余りにも大きく振りすぎたのかフラフラした
可奈子の足取りをみて思わず笑ってしまった。
「…それじゃあゼッタイゼッタイ、
ゼーッタイ約束なんだから!
それじゃあまた休み明けね!」
夕焼けの三叉路、互いに手をふって
2人の少女はその足をそれぞれの帰るべき家へと向けたのだった。
教室の喧騒もやみ、みな日常会話や勉学の
火照りを冷ましていくように散っていった。
「大丈夫?授業受けた可奈子のログ見せて
あげよっか。」
此方の顔を覗き込んでくる可奈子。
「心配しないで。自業自得だもの。
授業映像見ながら自分でやるわ。」
「そっか、なんだかんだ冴綺りん優秀だもんね。」
かと思えば腕を頭の後ろに組んで空を仰いでみせる。
落ち着きがないとも言えるが、それ以上に彼女の挙動の一つ一つは可愛らしい。
学業に熱心に取り組む程の優等生でない私にとって、
日々の暮らしを支えている存在の大部分は
彼女であると言っても過言ではない。
手放しで褒めそやせる自慢の幼馴染だ。
元はといえばこんなロングヘアだって
可奈子が、「絶対似合う!」なんて
言いきってくれなきゃやらないし、ー
「ーぇ、ねぇ!聞いてる?」
「ああ、今考え事してた。」
「冴綺りん、今日来た方向、廃棄区画の
方でしょ?」
どきり。流石の彼女も勘づいていたようだ。
「知らないわけじゃないでしょ?例の事件。」
当然だ。ここ最近巷を騒がす失踪事件。
18歳の少女を執拗に狙った誘拐で
ペースは1か月に8人と大胆すぎる犯行だ。
担任の私に対する言及が余りしつこくなかったのも
この対応に追われているせいなのだろう。
拡張生体視覚情報システム、通称AOVは
一般階級の市民の左のこめかみのあたり
に埋め込まれている電脳接続形象化生体端末により作動させる。
検索、入力、視覚情報のアップロードまで
可能でありこの情報社会を生きる人間にとって
心臓や、肺といった元来持ちうる内臓と
同レベルで、なくてはならないものだ。
先人らが蒐集、形成した膨大な情報ネットワークと
一生費やしても終わらないはずの演算を
領域の共有によって瞬時に終了させる処理能力。
これだけの越権的な能力を一個人が行使できるなど、
もはや神の御業の領域だった。
そこで先人らはORTICA(オルティカ)の運営方針を
プライベートを度外視した徹底した管理体制と
その情報を統制するAIに依拠することを選択。
互いに互いを見張りあう監視社会を
その超常的な力の枷としたのである。
反社会的な行動やその予兆があればそれは
すぐにそのAIによって出自や足取り、心拍、
開示こそしないが噂ではその思考さえ
明らかにされ、事の解決に当たられるのだ。
「でも…犯人グループの足取りは掴めていない。」
「そう!だからORTICAを所持していない
廃棄区画生まれの人間の犯行だってニュースでも
断定してるじゃない!」
なにかあってからじゃ遅いんだよ?
と目に涙を溜めてまで私を心配して
本気で叱ってくれている可奈子。
「話したくないみたいだから問い詰めないけど、
やっぱり冴綺りんのやってるバイトも
公には言えない様なものなんでしょ?
放課後出歩くぐらいだったらさ
せめて事件が終わってからでも…」
…正直そこまで気を止めていなかったんだけれど。
唯一の親友の見た事のない必死さを目の当たりにして
普段は自分に無関心なこの緋翅水冴綺も
あの野良犬野郎と取り決めた久方ぶりのシフトは
バックれかましてやろうと心に決めた。
「当然よ。ありがとうカナちゃん。
今までの私たちの友情に誓って言うわ。
貴女を心配させる様な真似はしない。」
「…その呼び方いつ振りだっけな。」
少し顔を赤らめたあと顔をブンブン横に振って
彼女らしく満開の笑顔を咲かせる。
余りにも大きく振りすぎたのかフラフラした
可奈子の足取りをみて思わず笑ってしまった。
「…それじゃあゼッタイゼッタイ、
ゼーッタイ約束なんだから!
それじゃあまた休み明けね!」
夕焼けの三叉路、互いに手をふって
2人の少女はその足をそれぞれの帰るべき家へと向けたのだった。
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