嘘は溺愛のはじまり

海棠桔梗

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嘘の恋人

4.

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「結麻さん、提案があります」
「はい、何でしょう?」
「プライベートの間は恋人らしく過ごしませんか? そうすればきっと短時間で恋人同士の演技が身につくと思うんだけどな。……どう?」

 ふわりと微笑んで、私の目をじっと見つめる伊吹さん。
 どこまでも美しく、ただ微笑むだけでもなぜか妖艶で、私は思わずボーッと見惚れてしまう。
 気がついたら私は無意識にコクリと首を縦に振っていた。

「……よかった。じゃあ早速明日、デートしよう」
「え、っと、」
「取引先の方からテーマパークの招待券をもらっていて。デートと言いながら、実際半分は仕事なのが少し申し訳ないんだけど……」

 なるほど。半分仕事なのか。
 伊吹さんは会社の専務という立場なわけだし、取引先の方に招待された以上は行かないわけにはいかないんだろう。

「分かりました、私で良ければお供させて下さい」
「良かった。あ、結麻さんは仕事だなんて思わずに、存分に楽しんでくれれば良いからね?」

 そう言って優しく微笑む伊吹さんに、胸がキュンとなる。
 デートなのか、仕事なのか……、私にとっても、半々……?
 ……いや、半々なんかじゃダメだ。
 だって、伊吹さんのお母様を安心させるための嘘彼女を演じるための、言わばこれは私にとっても、“仕事”だ。
 明日は私も、気持ちは仕事モードで頑張ろう。
 決して、断じて、絶対に、伊吹さんにキュンとしたりしないように。

 そう、決して――。



「はい、どうぞ」


 ……きゅんっ――。


 招待券をいただいた郊外のテーマパークへ伊吹さんの運転する車でやって来たのだけれど……。
 昨日の“決してキュンとしたりしない宣言”は、早くも破られました……。

 目的地であるテーマパークに着くなり、車から降りようとすると「あ、降りるのはちょっと待って下さい」と言われ、 何事かと思えば……。
 車から降りた伊吹さんが助手席のドアを開けてくれて手をスッと差し出し、先ほどの台詞……。

「ありがとうございます……」

 差し出された伊吹さんの手に恐る恐る自分の手を乗せると、優しく手を取った伊吹さんがスマートにエスコートしてくれた。

 伊吹さんが完全に王子様にしか見えなくて、だったら私は灰かぶり姫かな、なんて考えたりする。
 だけどおとぎ話のお姫様と決定的に違うのは、私は決してに王子様とハッピーエンドになんかにはなれない、ってこと。
 でも、いまこの瞬間だけはほんのちょっとだけ、お姫様気分でも、いいよね……?
 なんて、そんな風に思ってしまう……。
 本当はそんなこと、ダメに決まってるのに……。

 ――違う違う、これは、“仕事”だ。

 伊吹さんにとって仕事なら、私にとっても仕事でなければならない。
 私は伊吹さん――いや、篠宮専務の部下なんだから……。
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