27 / 75
貴方のいない部屋で
4.
しおりを挟む
「若月」
「……うん?」
「泣きそうな顔してる」
「な、泣いてない」
「でも、泣きそうだ」
「……っ」
奥瀬くんの手が伸びてきて……私は触れられるのかと身構えてしまって、びっくりしてギュッと目を閉じてしまった。
だけどどこにも触れられることはなくて、そろりと開けると、困ったように眉尻を下げて笑う奥瀬くんの瞳に出会う。
奥瀬くんの手は、私に触れることは無く既に彼の身体の横へと下ろされていた。
「ごめん。驚かせたかな。でも、涙は引っ込んだみたいだ」
「……最初から、泣いてない、」
「うん、そうだな」
「もう……」
緩く笑う奥瀬くん。
私に触れなかったのは、彼の優しさなのかも知れない。
「ちょっと酔った?」
「……うん、そうかも。飲むの、すごく久しぶりだったから」
「ちゃんと歩ける?」
「大丈夫。さすがにそんなには酔ってないよ」
「うん、でも酔っった子を放置して帰れないから、家まで送る」
結局、奥瀬くんに言いくるめられて、送って貰うことになった。
会社の最寄り駅から、電車で3駅、そこから徒歩5分。
「便利なところに住んでるなぁ」
思わず奥瀬くんも呟いてしまうほどの好立地。
そりゃ、篠宮家の御曹司ですからね、と私は思わず苦笑いする。
マンションのエントランス前で立ち止まり、奥瀬くんに頭を下げた。
「送ってくれてありがとう」
「どういたしまして。専務の出張中に若月に何かあったら、マジで俺の出世に響くからな」
「だから、そんな関係じゃないってば」
「ほら、早く中に入れよ」
「……うん。ありがとう」
エントランスの自動扉をくぐり、オートロックの扉にカードキーをかざす。
振り返ると、奥瀬くんはまだその場に立ったままだった。
私が小さく手を振ると、ふ、と笑って、手を振り替えしてくれる。
施錠されてしまう前に、私はオートロックの扉をくぐった――。
ひとりきりの伊吹さんの部屋は広すぎて、あまりにも寂しいと感じてしまう。
まだたった、1ヶ月と少ししか、一緒にいないのに。
――伊吹さんは今頃、どうしているだろうか。
少し酔いが回った頭で、伊吹さんのことをぼんやりと考える。
お帰りは、明後日の夕方か夜だと言っていた。
シンガポールは東京よりずっと南だし、暖かい夜なのかな。
外国へ行ったことがないどころか、生まれ育った地元と東京しか知らない私は、北半球は赤道へ近づくほど暖かくて北は寒い、と言う小学生レベルの机上の知識しか知らない。
シンガポールの今日の気温を調べようとスマホを手に取ったところで、スマホが急にバイブレーションを始めた。
びっくりして、スマホが手から滑り落る。
ポスッと可愛い音を立ててふかふかの柔らかいソファの座面へと落下したスマホは、その画面に煌々とした光をたたえていた。
表示を確認した私はそれを大慌てで拾い上げ、通話ボタンをタップする。
「はい、」
慌てすぎて、緊張しすぎて、声が上ずってしまう。
それとも、酔っているからなのか……。
「……うん?」
「泣きそうな顔してる」
「な、泣いてない」
「でも、泣きそうだ」
「……っ」
奥瀬くんの手が伸びてきて……私は触れられるのかと身構えてしまって、びっくりしてギュッと目を閉じてしまった。
だけどどこにも触れられることはなくて、そろりと開けると、困ったように眉尻を下げて笑う奥瀬くんの瞳に出会う。
奥瀬くんの手は、私に触れることは無く既に彼の身体の横へと下ろされていた。
「ごめん。驚かせたかな。でも、涙は引っ込んだみたいだ」
「……最初から、泣いてない、」
「うん、そうだな」
「もう……」
緩く笑う奥瀬くん。
私に触れなかったのは、彼の優しさなのかも知れない。
「ちょっと酔った?」
「……うん、そうかも。飲むの、すごく久しぶりだったから」
「ちゃんと歩ける?」
「大丈夫。さすがにそんなには酔ってないよ」
「うん、でも酔っった子を放置して帰れないから、家まで送る」
結局、奥瀬くんに言いくるめられて、送って貰うことになった。
会社の最寄り駅から、電車で3駅、そこから徒歩5分。
「便利なところに住んでるなぁ」
思わず奥瀬くんも呟いてしまうほどの好立地。
そりゃ、篠宮家の御曹司ですからね、と私は思わず苦笑いする。
マンションのエントランス前で立ち止まり、奥瀬くんに頭を下げた。
「送ってくれてありがとう」
「どういたしまして。専務の出張中に若月に何かあったら、マジで俺の出世に響くからな」
「だから、そんな関係じゃないってば」
「ほら、早く中に入れよ」
「……うん。ありがとう」
エントランスの自動扉をくぐり、オートロックの扉にカードキーをかざす。
振り返ると、奥瀬くんはまだその場に立ったままだった。
私が小さく手を振ると、ふ、と笑って、手を振り替えしてくれる。
施錠されてしまう前に、私はオートロックの扉をくぐった――。
ひとりきりの伊吹さんの部屋は広すぎて、あまりにも寂しいと感じてしまう。
まだたった、1ヶ月と少ししか、一緒にいないのに。
――伊吹さんは今頃、どうしているだろうか。
少し酔いが回った頭で、伊吹さんのことをぼんやりと考える。
お帰りは、明後日の夕方か夜だと言っていた。
シンガポールは東京よりずっと南だし、暖かい夜なのかな。
外国へ行ったことがないどころか、生まれ育った地元と東京しか知らない私は、北半球は赤道へ近づくほど暖かくて北は寒い、と言う小学生レベルの机上の知識しか知らない。
シンガポールの今日の気温を調べようとスマホを手に取ったところで、スマホが急にバイブレーションを始めた。
びっくりして、スマホが手から滑り落る。
ポスッと可愛い音を立ててふかふかの柔らかいソファの座面へと落下したスマホは、その画面に煌々とした光をたたえていた。
表示を確認した私はそれを大慌てで拾い上げ、通話ボタンをタップする。
「はい、」
慌てすぎて、緊張しすぎて、声が上ずってしまう。
それとも、酔っているからなのか……。
3
あなたにおすすめの小説
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
思い出のチョコレートエッグ
ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。
慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。
秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。
主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。
* ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。
* 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。
* 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。
ホウセンカ
えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー!
誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。
そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。
目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。
「明確な理由がないと、不安?」
桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは――
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※イラストは自作です。転載禁止。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
2月31日 ~少しずれている世界~
希花 紀歩
恋愛
プロポーズ予定日に彼氏と親友に裏切られた・・・はずだった
4年に一度やってくる2月29日の誕生日。
日付が変わる瞬間大好きな王子様系彼氏にプロポーズされるはずだった私。
でも彼に告げられたのは結婚の申し込みではなく、別れの言葉だった。
私の親友と結婚するという彼を泊まっていた高級ホテルに置いて自宅に帰り、お酒を浴びるように飲んだ最悪の誕生日。
翌朝。仕事に行こうと目を覚ました私の隣に寝ていたのは別れたはずの彼氏だった。
契約結婚!一発逆転マニュアル♡
伊吹美香
恋愛
『愛妻家になりたい男』と『今の状況から抜け出したい女』が利害一致の契約結婚⁉
全てを失い現実の中で藻掻く女
緒方 依舞稀(24)
✖
なんとしてでも愛妻家にならねばならない男
桐ケ谷 遥翔(30)
『一発逆転』と『打算』のために
二人の契約結婚生活が始まる……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる