嘘は溺愛のはじまり

海棠桔梗

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“そう言う女”

6.

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「結麻ちゃんはどんな食べ物が好き?」
「え、っと、そうですね、シンプルな味付けが好き、かな」
「あー、じゃあ、イタリアンとか? 塩とコショウとオリーブオイルが基本だもんね?」
「そうですね、イタリアンは好きです」
「うんうん、良いね。他は? トマト大丈夫?」
「好きですよ」
「セロリは?」
「あぁ、好き嫌い別れますよね。私は好きですけど」

 楓さんは手を動かしながら、どんどん質問を投げかけてくる。

「結麻ちゃんは、料理するのは好き?」
「はい、好きなほうです」
「そっかぁ。で、何があったの?」
「……ええ?」

 突然脈略のない質問が飛んできたけど意味がすぐには理解できず、見ていた楓さんの手元から、思わず私は視線を上げる。
 すると、楓さんは調理の手を止めて、私をじっと見つめた。

「……あ、の、」
「だってあの荷物。普通じゃないでしょ? 一緒に住んでる人に、何かされた?」
「えっ……、あの、なにも……」
「じゃあ、なんで?」
「……」

 言い方や声は優しくて、でも、やっぱりどこか有無を言わさない、誤魔化せない、確かな圧力が楓さんにはある。
 これはもしかすると、観念しなきゃいけない感じだろうか。

「まさか、ネカフェで寝泊まりする気だった?」
「……」
「だめだよ、女の子があんなところで寝泊まりなんか。危ないから」
「……でも、」
「はい、でもはナシ」

 利用したことがないから、危ないかどうかは分からない。
 でも、寝泊まりしてる人もいるって聞くし……大丈夫なんじゃないかと思うんだけど……。

「……ねえ結麻ちゃん。何があったの? 僕には言えない?」
「……あの、……すみません……」

 さすがに『会社で上司に襲われかけた』とは言えなかった。
 言えば、また高校の時みたいに変な目で見られるかも知れない、そんな心配をしてしまって。
 楓さんはそんな人じゃないと思うけど、でも……。

 楓さんは独り言のように「うーん困ったな」と呟いて、料理を再開した。

「僕の所に泊めてあげたいけど、そんなことしたら僕が殺されるから、ねえ?」
「……ええ? 誰に、ですか?」
「んー、マスター、とか……?」
「……?」

 とか、って?
 他にも誰かいるってこと?
 楓さんとの会話は、どこか核心に触れないように気遣う感じだから、真実に辿り着けない。

 手際よく料理を仕上げていく楓さんを眺めていると、急に携帯の着信音が鳴り響いた。
 私は電源を切っているから、おそらく楓さんの携帯だ。

「あー、電話だ。結麻ちゃんごめん、ちょっと待っててね。……はーい、楓です」

 私が頷いたのを見た楓さんは、電話で話しながら奥の部屋へ行ってしまった。

 数分すると、楓さんは電話を終えて戻ってきた。

「ごめんお待たせ。もうちょっとで出来るし、食べたら感想ちょうだいね?」
「……はい」

 今夜はどこに泊まるにしても、腹ごしらえはしておいた方が良さそうだ。
 私は楓さんの料理風景を眺めながら、今夜の宿の思案をした――。
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