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第1章
表情
しおりを挟む教室は嫌に騒音で溢れかえっている。
休み時間ともなると多くの人が雑音を奏で始める。
私はそれがたまらなく嫌だった。
亜鸞先輩は資料を持った手で器用に扉を開けると
にこりと笑って「お先にどうぞ」と言った。
私は「失礼します」と軽く会釈して教室に入る。
ピタッ、っと教室が静まり返った。
次に聞こえるのは密やかな声。
(亜鸞先輩だ)
(かっこいい)
(何であのブスと一緒なの)
(亜鸞先輩と並ぶなよ)
(ってか無表情過ぎて怖いんだけど)
密やかな声は陰口へと変わり対象は私に変わる。
当たり前か、
地毛で癖っ毛に整った顔は多くの女子から人気を集めた。
女性への執着を見せない割に女子に優しくそれを
素でやっているのだから嫌味なことも無い。
男子からも疎まれることは無かった。
「香明…。」
「気にしてませんよ、慣れました。」
悔しそうに唇を噛む亜鸞先輩に私は表情一つ
変えずに言う。
気にしていない、
という言葉には語弊があるかもしれない。
気にする、気にしない、そんな感情私は
持ち合わせていないから。
教卓に資料を見置くと私は亜鸞先輩に深々とお辞儀した。
「資料、運んでいただきありがとうございます。」
「ご褒美に笑顔の一つでも見たいね。」
亜鸞先輩は悪戯っぽく笑うも私は無表情を貫く。
やがて観念したように白い歯を見せて笑うと
ヒラヒラと手を振って教室を出た。
「またね、香明。」
私はもう一度先輩にお辞儀をすると席に戻る。
視線が痛い。
本を開くと視線から逃げるようにのめり込んだ。
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