キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

1巻

1-1

　第一章　キャンピングカーと異世界転移


「ふんふんふん♪」

　普段は鼻歌はなうたなんか歌わないのに、今日だけは自然と口から漏もれてしまう。
　そりゃそうだ。長い間抱き続けていた俺の夢が叶ったのだ！
　暗い夜空に浮かぶ満月と煌きらめく星。静かな川のせせらぎ、目の前でユラユラと揺れている焚たき火びの炎。
　そして何より、俺の横にある大きな車体。そう、今日俺はついに念願であったキャンピングカーを手に入れたのだ！
　日中にディーラーから掛けられた「吉岡茂人よしおかしげと様、ご納車おめでとうございます！」という言葉を思い出す度、頬がゆるんでしまう。

「ふっふっふ、間違いなく今までの俺の人生の中で一番の買い物だな」

　そして聞いて驚け！
　なんとこいつは、キャンピングカーの中でもハイエンドとされているバスコンタイプだ！
　そもそもバスコンがわからない？
　まあ普通は知らなくて当然だ。実はキャンピングカーにもいろいろな種類がある。
　軽キャンパー、バンコン、キャブコンなどの車を改装したもの。他には、アメリカなどに多い寝泊まりできるトレーラー部分を自分の車で引っ張るキャンピングトレーラーなんてタイプもある。
　その中でも一番高価で人気のある種類がバスコンである。マイクロバスの内装を寝泊まりできるように改装したキャンピングカーで、その特徴は車内の広さと乗り心地のよさだ。
　人気の理由としては、その広さゆえに、様々な機能をオプションで付けられるところだ。
　俺が買ったこのキャンピングカーにはトイレどころかシャワー室まで付いており、最大で十人まで乗ることができる。
　これ以上の大きさになると中型免許が必要となってしまうギリギリのサイズだ。
　そしてそのお値段、オプション込みでなんと約二千五百万円！
　地方なら安いマンションくらいは買えてしまうとんでもない価格だ。

「ここまでお金を貯めるのには本当に苦労したなあ……」

　ブラック企業でこき使われながら、酒もタバコもやらず、彼女なんて作らずにただひたすらお金を貯めて、ようやく購入することができた俺の努力の結晶だ。
　……いやすまん。見栄みえを張っただけで、彼女は普通にできなかっただけです。
　まあ、投資をしたらビギナーズラックでたまたまうまくいって、その利益を全部ぶち込んだということもあるが。

「キャンピングカーのある生活、まだ初日なのに最高だぜ！」

　今日が記念すべきこのキャンピングカーで初めてのお出掛けというわけで、オートキャンプ場という自動車を乗り入れてキャンプができるキャンプ場へとやってきている。
　オートキャンプ場は、車のすぐ横にテントを張れるキャンプ場で、荷物を駐車場から運ぶ手間もない。日差しや雨を防ぐためのタープという布を自動車に連結して掛けることもできるので、とても便利だ。
　とはいえ、大型のキャンピングカーで泊まれるキャンプ場は日本では数少ないので、キャンプ場の下調べと予約は必須となる。
　今日は記念すべき日ということもあって、平日に有給休暇を取ってキャンプ場まで来ているため、俺の周囲にお客さんは一人もおらず、このすばらしい景色を独り占めしている。そして明日泊まる場所は決めていない。
　なんせキャンピングカーだからな。泊まろうと思えば、大型車停車可能などこかの駐車場にでも泊まれるから、下調べもあえてしない。
　こういうのも旅の醍醐味だいごみなんだよね。自由気ままにおいしいものを食べて、気になったところへ寄り道をするということも楽しいものなんだよ。

「さて、ぼちぼち寝るとするか」

　いよいよキャンピングカーで初めての夜を過ごすことになる。
　元々キャンプをすることが好きで、よくテントを張ってソロキャンプをしていた俺だが、ついにキャンピングカーデビューだぜ。
　後片付けもそこそこに、キャンピングカーの中にあるベッドへと潜り込む。
　キャンピングカーの利点の一つがこのベッドである。最近は暖かくて寝心地のよい寝袋もあるが、やはり安全な車の中とふかふかのベッドには敵わない。
　今夜はぐっすりと眠れそうだな。


　◆　◇　◆　◇　◆


　ガンッ、ガンッ。

「うわっ!?」

　な、なんだ!?
　いきなり外から大きな音がして目が覚めた。
　目を開けると、見慣れない光景が視界に映る。
　そうだ、昨日は初めてキャンピングカーの中で寝たんだった。それにしても今の音はなんだ、動物か？
　野生動物が寄ってこないように、食料や調味料なんかはすべてキャンピングカーの中にちゃんと入れておいたんだけれどな。

「………………はあ？」

　キャンピングカーの窓のカーテンをめくって外の様子を見てみると、そこには驚くべき光景が広がっていた。

「ゲギャゲギャ」

　外にいたのは野生のシカでもイノシシでもなく、背が低くて濃い緑色の肌にずんぐりとした体形の、身長一メートルほどの生物だ。鼻は平たくて耳は尖り、醜悪しゅうあくな顔立ちをしており、ボロい布を腰に巻いて、太い棒切れを持っている。
　そう、ファンタジー世界の存在であるゴブリンが、まるで生きているかのように動き回っていたのだ。

「………………」

　いくらなんでも夢だよな？
　有給休暇を取るため、最近はブラック企業でいつも以上に残業をしていたから、疲れているに違いない。いや、でもまさか……

「ゲギャ？」
「ゲギャゲギャ！」

　夢だとわかってはいるが、カーテンを少しだけめくって二匹のゴブリンの様子をこっそりと窺うかがう。二匹のゴブリンは、昨日俺が置いたままだった焚き火の残骸やテーブルを訝いぶかし気げに見ていた。
　どうやら俺の存在には気付いていないようだ。まったく意味のわからない状況だが、とりあえずこのままキャンピングカーの中に隠れて状況を窺おう。


　しばらくすると二匹のゴブリンは興味を失ったようで、キャンピングカーから立ち去っていった。

「……ふう。なんだったんだ、あれ？」

　用心のために薪割まきわり用のナタを武器として持ち、付近に何もいないことを確認して、ゆっくりとキャンピングカーのドアを開ける。

「どこだよ、ここは……」

　俺の目の前には一面の草原が広がっていた。
　遠くの方には大きな山や森が見える。昨日泊まっていたはずのオートキャンプ場は影も形もなく、キャンピングカーの横にあった大きな川もなくなっていて、草原の中にポツンと俺のキャンピングカーが取り残されている状態だった。

「いくらなんでも、これは夢だよな……？」

　風が頬を撫なで、草原の草木の香りが広がり、ここが現実であると告げてはいるが、あまりにも現実離れした光景がそれを否定している。

「落ち着け、慌てることはない！」

　無理やり心を落ち着かせて、一度キャンピングカーの中に戻り、冷蔵庫に入れておいたアイスコーヒーをコップに注そそぐ。キャンピングカーの利点の一つは、冷蔵庫や冷暖房などの家電製品を組み込めることだ。
　当然このキャンピングカーにも搭載とうさいされており、電力についてはキャンピングカーを走らせることによる発電と、キャンピングカーの上部にあるソーラーパネルによって賄まかなわれている。

「……苦いな。やっぱりこれは夢じゃないのか」

　普段は砂糖やミルクを入れて飲むのだが、そのままブラックで飲んだため、とても苦い。
　苦みなどの味覚もあるし、頬をつねってみたら痛みを感じた。信じたくはないが、ここは現実の世界なのだろうか？

「まさかとは思うが、異世界ってやつか？」

　ここがただの草原だったら、地球上のどこかに転移してしまったと考える。ただ先ほどのゴブリンのような未知の生物を見てしまった以上、ここは地球とは別の星、もしくは異世界ということになる。
　俺もいわゆる異世界ものと呼ばれる漫画や小説なんかを読んだことはあるが、まさにそれと同じような状況だ。

「とりあえずスマホはあるけれど……当然ネットはつながらないか」

　一応キャンピングカーに積んでいた物やスマホはそのまま残っているが、当然スマホは圏外だった。

「……とりあえず、目立たない場所に移動しよう。こんな草原の真っただ中にいつまでもいたら、さっきのゴブリンみたいなやつがまた現れてもおかしくないぞ！」

　さっきのゴブリンはキャンピングカーを気にしつつも立ち去ってくれたからいいが、攻撃を仕掛けてくる生物が他にいてもおかしくはない。
　このキャンピングカーが目立たないような場所に移動しなければならない。
　そうと決まれば、まずは外にある道具をしまって移動しよう。

「ぬわっ！　なんじゃこりゃ!?」

　表に出していたキャンプギアを収納しゅうのうして、キャンピングカーに異常がないかを確認していると、さっきは気付かなかったが、キャンピングカーの一部が凹へこんでいた。

「くそっ、さっきのゴブリンか！　ちくしょう、次に見つけたらただじゃおかないぞ！」

　いや、こんな状況で、キャンピングカーが凹んだことに対して憤いきどおりを感じている場合ではないことはわかっているのだが……昨日納車したばかりの新車のキャンピングカーに傷が付けられているのを見て、冷静ではいられなかった。
　二千五百万円もしたのに……
　ちくしょう！


　荷物をすべてしまい、場所を移動するためにキャンピングカーのエンジンを掛けたところ、無事にスタートしてくれた。さすがにこんな場所で立ち往生だけは勘弁である。

「とりあえずエンジンは掛かってくれて助かった。当然カーナビは動作しな――あれ、なんだこれ？」

　そしてエンジンが動いたことにより、キャンピングカーに内蔵されているカーナビが起動するが、当然周りの地図は表示されない。
　しかし、昨日までカーナビに表示されていなかった★のマークがあった。
　なんだろうと思いつつ、そのマークをタッチしてみた。

「『ナビゲーション機能１ポイント、自動修復機能２ポイント、車体収納機能２ポイント、燃料補給機能１ポイント』……おいおい、これって……」

　カーナビには、日本語でキャンピングカーに関する様々な機能が表示されており、その横には何ポイントと表示されている。これはもしかしてポイントを消費すれば、その機能が使えるようになるのではないだろうか。

「現在のポイントは10ポイントか。この画面をタッチすればいいのか？」

　画面の右下には『現在の保持ポイント：10』と表示されている。これが現在使用できるポイントということだろうか？
　画面をスクロールしつつ、一番上の『ナビゲーション機能１ポイント』を試しにタッチしてみる。


『１ポイントを消費して、ナビゲーション機能を拡張しますか？　【はい】or【いいえ】』


「おっと、ちょっとタイム！」

　ナビゲーションをタッチすると、画面が切り替わって、【はい】か【いいえ】を選べるようになったが、俺は慌てて【いいえ】をタッチする。
　すると、先ほどの画面に戻ってくれた。

「どうやってポイントを得られるかもわからないからな。もしかしたら、この10ポイントしか使えない可能性もあるし、ここは慎重に選ばなければ！」

　適当に使ってしまえば、簡単になくなってしまう。選ぶにしても、もっと慎重に決めなければならないだろう。

「……拡張できる機能の詳細まではわからないのか。細かい機能の説明が書いてあれば助かるのに、その辺りは不便だな」

　選べる機能は一覧になっているが、細かい情報などは書いていない。実際に拡張してみて機能を確認するしかないのかな？

「いろいろと気になる機能もあるけれど、まずはこのナビゲーション機能は必須か」

　ナビゲーションという機能はおそらくだが、カーナビ本来の機能だろう。
　とりあえず、まずは目立たない場所へ移動しなければならない。
　ポイントも１ポイントだけだし、この一覧の一番上にある。ゲームとかでも、こういうものは上の方が重要な場合も多いし、まずはこの機能を取ってみよう。


『１ポイントを消費して、ナビゲーション機能を拡張しますか？　【はい】or【いいえ】』


　先ほどと同様の表示がされたので、今度は【はい】をタッチする。


『ナビゲーション機能を拡張しました』


　そう表示され、右下の表示が『現在の保持ポイント：９』となった。

「おお、道が表示されるようになったぞ！」

　★のマークをもう一度押すとマップのような画面に戻り、先ほどは自分の位置以外表示されていなかったはずのカーナビに、周囲の地図が表示されるようになった。

「……さすがに検索機能なんかは使えないけれど、周囲の山や川が表示されているのはとても助かるぞ。おっ、小さな集落なんかも表示されているっぽい。というか、これって相当ヤバイ機能なんじゃ……あっ、でも見える範囲の限界はありそうだな」

　基本的な使い方は元のカーナビと同じらしい。
　表示されている範囲を縮小し、周囲の大まかな地図を確認することもできた。そしてここから離れているが、村や街のような表示もある。
　このカーナビに表示されているデフォルメされた絵から推測するに、たぶん現代の家やビルなんかではなく、古い木造やレンガ造りのような建物ではないだろうか。
　そうなると、この地図を表示できるカーナビの機能や、このキャンピングカーというか車自体オーバーテクノロジーな可能性が非常に高い。

「とりあえず、現状を把握はあくするまで村や街に行ってみるのはやめておこう。川と森があるこの辺りに移動するか。森の木々があれば、このキャンピングカーもそこまで目立たないだろう」

　幸いなことに、昨日納車されたばかりで張り切っていろいろと準備をしていたこともあり、燃料や水は満タンで、何かあった時のために携帯食料なんかは十分に積んである。
　いったん落ち着く場所で現状を把握しよう。


『目的地が設定されました。目的地まで案内を開始します』


　目的地にピンを留めて、案内を開始するボタンをタッチすると、音声と同時に画面に青い道筋が出てナビが始まってくれた。この辺りは元の世界のカーナビと同じみたいだ。キャンピングカーが入れなさそうな森や山なんかはしっかりと避けてくれている。
　俺はキャンピングカーのアクセルを踏んで、移動を開始した。

「……当たり前だけれど、振動が酷ひどい。この分だと、いろいろとすぐにガタがきてしまいそうだ。『自動修復機能』が２ポイントってことだから、次に取る機能の優先度は高いな」

　しばらく草原を走っているのだが、運転しながらかなりの振動が伝わってくる。ここは元の日本とは違って、整備された道ではないから、石なんかがそこら中に転がっているようだ。
　草むらで視界もよくないし、速度を抑えてかなり慎重に進んでいる。背の高い草はないから、突然大きな動物がいたら、すぐにわかるはずだ。


『目的地に到着しました』


「よし、ここならさっきの草原よりは目立たないだろ」

　案内が終了して、無事に目的地の河原へと到着した。
　ここなら高い木々のある森に接しているからそこまでは目立たないし、反対側には小さな川があるから何か来たらすぐに警戒できる。
　カーナビによると前も後ろも行き止まりではないし、小さな川だからキャンピングカーで無理やり渡って逃げることもできそうだ。

「とりあえず地図や拡張できる機能を確認しながら、今日はここで一夜を過ごすか」

　先ほどよりは比較的落ち着く場所に来られたから、まずはナビを見てこの世界の状況や拡張できる機能をいろいろと検討するとしよう。
　いや、その前にまずは飯だな。さすがに朝からこんな昼時まで何も食べてないし、何か食べるとしよう。

「うわっ、なんだ!?」

　運転席を離れて、キャンピングカー内にあるキッチンで簡単な食事を作ろうとしたところで、窓の外に何かがゆっくりと落下してきたのが見えた。

「あれはなんだろう、白い鳥……いや、フクロウか」

　地面にゆっくりと落下してきたのは、大きな翼に傷を負った白いフクロウだった。

「この世界にもフクロウはいるのか。というか、さっきのゴブリンは見間違いで、ここは地球上のどこかだったらまだ救いはあるんだけれどな」

　白色のもふもふとした毛並みに覆おおわれたフクロウは、体の割に大きな黒い目をぱちくりさせてとても可愛らしい。

「……翼を怪我けがしていてうまく飛べないのか。治療してあげたいところだけれど、危険な生物という可能性もあるんだよな」

　どうやら右の翼に一本の大きな枝のようなものが刺さっており、赤い血が流れている。こちらに気付いた様子もなく、左の翼でそれを抜こうとしているが、うまく抜けないようだ。
　可哀想だから助けてあげたいところだけれど、近付いたらいきなり襲ってくる可能性もある。確かフクロウは見かけによらず、かなり獰猛どうもうなんだよな。
　だけど……

「さすがに可哀想だな」

　フクロウがふわふわの翼で必死に枝を抜こうとしている姿は、見ていてとても痛々しい。せめて、あの枝だけでも抜いてあげたい。

「確か救急セットがあったな」

　キャンピングカーに積んであった救急セットとペットボトルに入れた水、そして何かあった時のための薪割り用のナタを持って、最大限に警戒をしながらゆっくりとキャンピングカーの外に出る。

「……ホー!!」

　ゆっくりと近付いていくと、フクロウがこちらに気付いて、翼を広げて威嚇いかくをしてきた。

「落ち着け、俺は敵じゃない！　ほらみろ、何もしないぞ！」

　持っていたナタと水や救急セットを地面に置き、両手を目の前に広げて、敵意がないことをアピールする。

「………………」

　当然フクロウはまだこちらを警戒している。
　そりゃ言葉が通じていないんだから当然だ。

「枝を抜くだけで何もしないぞ！　わかるか、こうやって枝を抜くだけだ！」

　通じないとわかりつつも、必死に翼から枝を抜くジェスチャーをする。
　なんとか敵意がないことをわかってもらえるといいんだけれど……

「ホー……」

　フクロウはひと鳴きすると、ゆっくりと広げていた翼を戻して威嚇をやめた。
　こちらに敵意がないことを感じてくれたのだろうか？

「今からゆっくりと近付いていくぞ。これは水と怪我を治すものだからな」

　ナタは置いたままで、俺は水と救急セットだけを持って、慎重に近付いていく。

「よし、今から枝を抜くからな。少し痛むけれど、ちょっとだけ我慢してくれ」
「………………」

　手を伸ばせばフクロウに手が届くところまでやってきた。フクロウはこちらを警戒しつつも、逃げ出さずにじっと俺を見ている。
　俺はゆっくりとフクロウの右の翼に刺さっている木の枝に手を掛けた。

「良い子だぞ。そのまま動かないようにな」
「………………」

　フクロウの翼を傷付けないようにゆっくりと枝を引き抜いていく。かなり痛みそうなものだが、フクロウはじっと我慢をしてくれているようだ。

「よし、取れた！」

　傷口を水で洗い流すと、フクロウは少しだけ痛がっているようだが、暴れずに我慢してくれた。そしてそのまま包帯を巻いていく。
　救急セットの中には消毒液もあるのだが、人以外に使っていいものなのかわからないからやめておいた。

「……よし、これで大丈夫だ。しばらくしたら、包帯を外してやるからな」
「ホー♪」

　フクロウがとても喜んでいるように見える。
　それにしても本当に可愛らしいな。
　どうやら怪我を治療したことで、こちらに気を許してくれたらしい。ゆっくりと頭を撫でて首すじを触ると、くすぐったそうにしている。そしてもふもふとした毛並みはとても触り心地がいい。

「ちゃんと我慢して偉かったぞ。本当に可愛いな、お前」
「ホー！」

　何やらとても人懐っこい。もしかして人に飼われたことでもあるのだろうか？
　ぐううううう～。

「おっと、安心したらお腹がすいてきたな。とりあえず飯にするか。お前も食べるか？」
「ホー！」

　まるでこちらの言葉がわかっているかのように頷うなずくフクロウ。

「よし、俺も外で食べるか」

　一度キャンピングカーへ戻って、キッチンで簡単に調理をしつつ、アウトドアチェアとテーブルを外に持ってくる。もちろん何か起こった時のため、いつでも逃げ出せるようにキャンピングカーのすぐ横にだ。

「ほら、お前の分だぞ」
「ホー♪」

　冷蔵庫に入れてあった生の豚こま肉を小皿へ取り分けてやる。
　貴重な食料だが、これは昨日スーパーで購入してきたおつとめ品だから、どちらにせよ明日中に食べないと消費期限しょうひきげんが切れる。
　確かフクロウは肉食で、基本的にはいろんな肉を食べられるはずだ。うん、ちゃんとおいしそうに生肉を食べているな。