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1巻
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◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……よく寝たあ」
「ホー!」
目を覚ますと木の天井が見えた。そうだ、昨日はお腹いっぱい料理を食べながら村の人達と騒いで、最後にジーナと村の外へ出た。
誰もいないことを確認して、キャンピングカーを出してからいろんな検証をしつつ、借りている家に着いてすぐに寝てしまったんだ。
フー太はすでに起きていて、家の中を飛び回っていた。朝の運動かな? キャンピングカーの中は少し狭いからな。
さて、昨日いろいろとやることをやっておいたから、まずはジーナに伝えて村の外に出て、キャンピングカーを確認するとしよう。
「……う~ん、ポイントの増加はなしかあ。やっぱりディアクを倒した経験値とかでもないし、人にご飯を振る舞ったからポイントが増えたわけでもないか」
ジーナとフー太と一緒に村から少しだけ離れ、キャンピングカーを出して昨日の検証結果を確認していく。
残念ながら残りの拡張機能のポイントは1ポイントで、昨日から増えていなかった。そうなると、今の段階では、昨日考えたポイント増加の法則を絞る事はできないな。
これについてはそれぞれ順番に検証していくしかない。今日はこのままこの村でお世話になる予定だから、もしも明日ポイントが増加していれば、時間経過でポイントが増えることになる。次はキャンピングカーで距離を走ってみて、次の日にポイントが増えているかだな。
それで駄目なら、フー太やジーナと同じように誰かを助けた時にポイントが増えることとなる。さすがにそれを自発的にするのは難しいだろう……
「とりあえず補給機能のタイミングは、二十一時以降から翌朝八時くらいまでの間か。それがわかったのは大きな前進だな」
結局昨日の夜は、ジーナに頼んで村の外でキャンピングカーを出していろいろと確認をした。その結果、昨日の二十一時を過ぎたタイミングでは燃料や水が補給されておらず、今朝に補給を確認することができた。
そうなると、おそらくは日付が変わったタイミングだろうか? その辺りも今後検証していきたいところだ。
そして昨日新たに拡張した『調味料・香辛料補給機能』。
1ポイントで補給できた拡張機能だが、おそらくは燃料やタンクの水と同様に、自動的に醬油やアウトドアスパイスなどの調味料や香辛料を補給してくれる機能……だと思って拡張をした。
こちらの世界にはないであろう調味料や香辛料なんかを補給できるのはとても助かる。
どうやらこの世界では香辛料は高価らしいからな。資金を得たり物々交換したりするためにすぐに必要な機能だった。
そして調味料と香辛料の補給対象だが、これは俺の予想とは異なっていた。
「さすがにすべての調味料と香辛料が一夜で補給されることはなかったか」
確認してみた結果、補給されていた調味料はコショウ一つだけだった。
いったいどういう基準でコショウだけが補給されたのかを考えてみたのだが、ランダムに調味料か香辛料が一つだけ補給されるという予想がまず一つ。
そしてもう一つが、このキャンピングカー内にあり、一番減っている調味料か香辛料が補給されるという基準だ。昨日この条件を満たすものがコショウだったからな。
アウトドアスパイスが一番減っていたのだが、昨日はリュックに移して村で使っていた。そうなると、キャンピングカー内になければ補給の対象外なのかもしれない。
これについてもポイントの増加と合わせて要検証だな。贅沢を言っては罰が当たるかもしれないけれど、拡張機能の説明がほしいところである。
「ジーナ、お待たせ」
「ホー!」
一通り確認はできたので、俺はジーナに声を掛ける。
「ええ、全然構わないですよ。次はどこへ案内すればいいですか?」
「助かるよ。それじゃあ、村長さんの家までお願いするよ。昨日話していたように、いろいろと物々交換をしてもらいたいんだ」
「承知しました。その間私は心配を掛けた人達に改めて挨拶をしてきますから、また村の外に出たくなったら声を掛けてください」
「了解したよ」
さて、お次は村長さんと交渉をしなければならない。なんせ俺は今、この世界の服もお金も持っていないのだからな。他の街へ入るためにもそこは必須だ。
ちなみにこの村での食事は昼と夜の二食らしい。多少お腹はすいたが、そこはこの村に合わせるとしよう。
ジーナの案内に従い、村の中を歩いていると村のみんなが声を掛けてくれた。
「シゲトお兄ちゃん、おはよう!」
「エリナちゃん、おはよう」
「おう、シゲト。昨日はありがとよ、あんな旨い肉を食ったのは初めてだったぜ」
「それはよかった。こっちもおいしいお肉をご馳走さまでした」
昨日のアウトドアスパイスを掛けた肉はみんなに好評だったようだ。おかげで村の人達の大半とも仲良くなれた。とはいえ、さすがにまだ全員の名前は覚えられていない。この村には四十~五十人くらいが生活しているようだし、その三分の一くらいかな。
「おはようございます、村長さんいらっしゃいますか?」
村長さんの家に着き、扉越しに声を掛けると、すぐに返事があり中に招き入れてくれた。
「シゲト殿、おはようございます。昨日はとても良い日でした。ジーナも無事に村に戻ってこられましたし、シゲト殿のおかげで村の者もみな久しぶりに旨い肉を食べることができました」
「俺も昨日はとても楽しかったです」
「それでシゲト殿、何かありましたか?」
「はい、昨日お願いをしていた件なのですが、可能な分だけで大丈夫ですので、野菜や古着やお金を俺が持っている香辛料と換えてもらえないでしょうか?」
「ええ、もちろんですよ。それに香辛料はいりません。ジーナを助けていただきましたし、昨日は村人全員に香辛料を振る舞っていただきました。お金についてはこの村にもそれほどないのですが、古着や野菜についてはどうぞお持ちください」
「本当ですか! ありがとうございます。お金はここから一番近い街に入れる分をいただけますと、とても助かります」
この世界をのんびりと見て回りたいけれど、まずはお金や食料を確保することが大事だ。
この村を出たら、とりあえず近くの街へ向かい、多少のお金や食料を確保しておきたい。
「ええ、それくらいでしたら問題ありません。こちらの銀貨があれば隣の街へ入れます。二枚で入れるはずですが、念のため五枚ほどお持ちください」
ジャラジャラと村長さんから五枚の銀貨を受け取った。かなり昔に日本史で勉強した昔の古銭のような感じかな。あとでお金の価値についても教えてもらおう。
「ありがとうございます」
「ホー!」
俺の肩に止まっているフー太も両方の翼を広げて感謝の意を伝えている。村長さんの言葉はわからなくても、何かをもらったことはわかるらしい。
「そう言えば、今後街に向かうと聞きましたが、フー太様もご一緒なのですか?」
「はい。どうやらフー太も一人きりのようなので、ついてきてくれている間は一緒にいろんな場所へ行こうと思っていますよ」
「ホー♪」
フー太が俺の頬に頭を預けてくる。よしよし、ういやつめ。
「そうですか、そこまで森フクロウ様に懐かれているとは……ですが、お気を付けください。森フクロウ様は森の守り神であられますが、最近では数がだいぶ減ってきたこともあり、一部の愚かな貴族などが森フクロウ様を捕らえようとしているのです。街で誰かに襲われるという可能性もあるので、十分にご注意ください」
「そ、そうなんですね……」
「ホー?」
村長さんの言葉がわからないフー太が首を傾げる。その仕草はとても可愛らしいのだが、それって結構深刻なことなんだよな……
確かにこれだけ可愛らしく、体のサイズを変化させられる森フクロウは、ペットとしての需要がものすごくありそうだ。それでジーナは最初に俺を密猟者と間違えたんだな。
さすがに街の中の人目が多い場所で何かしてくるとは思わないけれど、万が一襲われたとして、俺はフー太を守る術を持っていない。となると、俺が街へ入っている間は、フー太には街の外で待っていてもらい、夜は俺も街の外に出てキャンピングカーで過ごすしかないか。
でも、それだとずっと街の外にいるフー太が可哀想だし、どうしたものかな……まあ、その辺りはあとで考えるとしよう。
「古着と食料についてはジーナに案内をさせますので」
「わかりました。ありがとうございます……あの、そう言えばジーナってエルフなんですよね? この村にエルフはジーナしかいないんですか?」
この街に来て一番気になっていたことを聞いてみた。ジーナにこの村に案内されるまでは、ここはエルフの集落かと思っていたのだが、どうやら違うようだ。
「……あの子がこの村に来たのは今から十五年以上も前になりますか。赤ん坊だったジーナを抱いた母親がこの村にやってきて、ここに住みたいと言ってきました。我々としても拒む理由もなかったので彼女達を受け入れたのです。彼女の母親はとても優秀な水魔法の使い手で、村の生活にとても貢献してくれました」
どうやらジーナはこの村で生まれた子ではなかったらしい。
「ですが、ジーナの母親は数年ほど前に病に倒れ、そのまま帰らぬ人となったのです。ジーナも深く悲しみましてね、それまで以上にこの村のために役に立とうと躍起になって、時間さえあれば森で狩りをするようになりました」
「そうだったのですか……」
医療も発達しておらず、衛生観念もしっかり定着していなさそうなこの世界だ、大きな病に罹ってしまえば助かることは稀なのだろう。
「すみません、辛いことを思い出させてしまいました」
「とんでもないです。ジーナはこの村の大切な家族です。ジーナを助けてくれたシゲト殿とフー太様には本当に感謝しております」
「いえ、ジーナを助けたのは偶然でしたから。それにこちらこそ、村に泊めていただき本当に感謝していますよ。それに服や野菜をいただけるのもありがたいです」
「シゲト殿は本当に欲のない方ですね……エルフという種族は我々人族よりもとても寿命が長いのです。ジーナがこの村を思ってくれるのはとても嬉しいのですが、本音を言えば、ジーナにはこの村の外に出て、いろいろな世界を見てきてほしいという気持ちもあるのですよ」
「なるほど……」
どうやらファンタジーの常識通りこの世界のエルフの寿命も長いらしい。とはいえ、赤ん坊のジーナがこの村に来たのが十五年前ということは、ジーナは見た目通りの年齢のようだ。
でもジーナはこの村のことが本当に好きみたいだったからな。俺がこの村は良い村だと褒めた時は本当に嬉しそうにしていた。たぶん誰が何を言ったところで、きっとこの村からは出ていかないだろう。
「ところで、村長さんは日本、またはアメリカという名前の国を知っていますか?」
「ニホン……アメリカ……申し訳ないですが、そのような名前の国は聞いたことがありません。シゲト殿の故郷の名前ですかな?」
「はい。実は故郷への帰り方がわからなくなってしまいまして……」
「そうでしたか。街には様々な場所から人が集まってくるので、シゲト殿の故郷の情報を集めるのなら、街で聞いた方が良いかもしれませんな」
「わかりました。それとまだこの国に来たばかりなので、この国のことについていろいろと教えてください」
「ええ、もちろんですよ」
そのあとは村長さんにこの国のことや、この村の付近について詳しく聞いてみた。
村長さんから聞いた話によると、ここから一番近い街までは歩いて五日ほど、そこそこ大きな街で冒険者ギルドや商業ギルドなどもあるらしい。
街に入るためには身分証が必要で、持っていない場合には、街へ入るための通行料と犯罪経歴がないかのチェックが入るらしい。
よし、今日はゆっくりさせてもらい、明日の朝にその街を目指すとするか。
この世界に来てからいろいろと考えたが、せっかく夢だったキャンピングカーと一緒に異世界へ来たんだ。どうせならキャンピングカーでこの異世界を回ってみようじゃないか。
元の世界の情報を集めつつ、この世界を見て回る。うん、当面はこれでいくとしよう!
「ジーナ、いる?」
「ホー」
「シゲト、フー太様、どうしました?」
「村長さんと話をして、使っていない古着をもらえることになったんだ。あとは野菜も少しもらえることになって、その案内をジーナに頼みたいんだ」
「そうですか、任せてください! そのままこの村の中も案内します。小さいながらも良い村なのですよ」
「ありがとう、助かるよ」
まずは古着や農作業の道具などがある小屋に案内された。どうやらこの村の財産的なものは全員の共同資産になっているらしい。使っていないものはこの小屋に集められており、使う時には誰かに告げて自由に使っているそうだ。
「どうだろ?」
俺はいくつか服を見繕って、試しに着用してみた。
「ええ、とっても似合っていますよ。でもいいのですか? さっきまでシゲトが着ていた服の方が立派でしたのに?」
「立派かもしれないけど、街へ行くと悪目立ちしちゃいそうだからね。こっちの方が一般人ぽくていいんだよ」
小屋には茶色や灰色の上着と、茶色や黒色のズボンが置いてあった。古着なので少し布がへたってはいるが、そのおかげで普通の人に見える。靴は何かの動物の皮でできており、シンプルに足首を紐で縛るようになっている。
「それじゃあ、ありがたくいただいていくよ」
古着は結局三着分をもらうこととなった。足りなかったら街で買えばいいだろう。
……下着については元の世界で使っていたものを使うとするかな。さすがに古着の下着というのは少し抵抗がある。街へ行ったら新品を探してみよう。
「そろそろお昼ですね。ご飯を食べに行きましょうか」
「そうだな、少しお腹がすいてきた」
「ホホー♪」
フー太もお腹がすいているようで、大きな鳴き声を上げた。
ジーナに案内されて村の真ん中にある大きめの建物に向かう。昨日の宴会もここの前で開かれていた。どうやら村の人達はみんなここで食べるらしい。
「朝からお昼までの間に各自でここに来て食べるのですよ」
なるほど、セルフで取りに行く小学校の給食みたいだ。基本的にはみんな同じメニューで、お皿を持っていくと給仕担当の人がお皿によそってくれる感じだな。
お昼のメニューはパンと茹でた野菜と少しの焼いた肉だ。どうやらこの村ではパンを作っているらしい。とはいえ、日本で食べるような白くて柔らかいパンなどではなく、黒くて硬いボソボソとした歯触りのパンである。
この世界ではまだ酵母というものが使われてないのかもしれない。街へ行った時に酵母を使ったパンが売ってないか見てみよう。なければ自分で作るしかないか。今まで酵母を自分で作ったことはないが、確か果物を水に浸しておけばできるんだっけな。
「シゲトお兄ちゃん、昨日のご飯がおいしくなる魔法の粉を掛けて!」
昨日と同様に、俺とフー太とジーナが野菜と肉にアウトドアスパイスを掛けて食べていると、エリナちゃんがこっちに近付いてきた。
エリナちゃんは小学校低学年くらいの女の子で、昨日の夜から俺に懐いてくれている。まあアウトドアスパイスでおいしくなったご飯狙いの可能性もあるが、可愛いからいいんだよ。
それに、俺をおじさんじゃなくてお兄ちゃんと呼んでくれているから、それだけですべてを許せてしまう。元の世界だと稀におっさんとかおじさんと呼ばれるからな。
「こらエリナ! 娘がすみません、本当に気にしないでください!」
エリナちゃんの母親がエリナちゃんを抱きあげて窘めている。
「まだたくさんあるから気にしなくていいですよ。はい、エリナちゃん。皆さんもどうぞ!」
実際のところ、このアウトドアスパイスはかなり減ってきたのだが、別のアウトドアスパイスをもう一種類持っているからまだ大丈夫だ。
こんなことになるのなら、もっといろいろな調味料をキャンピングカーに積んでおけばよかったと少しだけ後悔している。
「すみません! 本当にありがとうございます。ほらエリナ、ちゃんとお礼を言いなさい!」
「シゲトお兄ちゃん、ありがとう!」
うむ、幼女の笑顔はお金では買えないものである。子供の笑顔はどうしてこんなにも人を和やかな気持ちにさせるのだろう。
いや俺がロリコンってわけではないからな! 普通に誰に頼まれてもあげるつもりだったし!
昼食を食べた後は引き続きジーナに村を案内してもらった。それぞれの家族の家はあるが、トイレも共用、食事も共用、畑も共用となっているらしい。そして残念ながら風呂はないようだ。
「シゲト、こちらがこの村の畑です」
「おお! これはなかなか壮観な景色だな」
「ホーホー!」
村の居住区を外れたところに広々とした畑が広がっていた。そこでは色とりどりの野菜や麦が育てられている。
「この辺りは土の質がよく、作物で困ることはほとんどありませんね。それに森も近いので、魔物もよく取れます」
そう言えば村長さんが言っていたな。この村はあまり食料には困っておらず、十分に自給自足ができているらしい。ただ余った分の食料を売ってお金に換えて、税金として国にお金を納めているから、現金はあまりないとのことだ。街へ入るためのお金はありがたく使わせてもらおう。
「こちらがこの村の野菜を保存している倉庫ですね。野菜の種類ごとに倉庫をいくつか分けておりますので、あとでそちらも見てみましょう」
この倉庫にはジャガイモやサツマイモのような芋類が保管されていた。
他の倉庫には挽いた小麦、キャベツや白菜、玉ねぎやにんじんなどがあった。
他の野菜は使う当日にその日の分を収穫するようだ。
大きなリュックを持ってきたつもりだったのだが、全然入らなかった。まあ街までキャンピングカーなら一日もかからないし、ディアクの肉はたくさんある。数日分あれば大丈夫だろう。
「食料をこんなにもらってしまって悪いね」
「とんでもない! 私は命を救ってもらいましたし、昨日も今日も高価な香辛料をみんなに振る舞っていただきました! むしろこちらの方があまりお返しできずに申し訳ないです」
「はは、それじゃあこれでお互い様ということで。それにしても本当に良い村だな」
「ホー♪」
文明レベルは低いかもしれないけれど、食料は十分にあり、何より村の者全員が楽しそうに暮らしている。子供達が笑いながら遊んでいるのが何よりの証拠だ。フー太も俺の意見には賛成みたいだな。
「ええ! 私も赤ん坊の頃から住んでいますが、本当にとても良い村なんですよ! もしよろしければシゲトもこの村でしばらく暮らしてみてはいかがでしょうか?」
「………………」
正直に言うと、それも選択肢としては十分にありだ。見たところ若い男手があまりいないから、体力のない俺でも多少は歓迎されるだろう。
……だけど、俺はせっかくならキャンピングカーでこの世界を回ってみたい。それにキャンピングカーのレベルアップには距離を走らないといけないみたいだしな。
「ありがたいお誘いなんだけれど、まだこの国に来たばかりだからね。もう少しいろいろとこの辺りを旅してみるよ」
「わかりました。いつでも歓迎しますので、ぜひまたこの村に寄ってくださいね!」
「ああ、その時は遠慮なく寄らせてもらうよ」
「はい!」
カーナビの機能もあることだし、またこの村に戻ってこようと思えばいつでも戻ってくることができる。この世界に来て初めてできた知り合いだし、ぜひまた寄らせてもらうとしよう。
……とはいえ、この異世界を旅してみて、危険が多すぎて一瞬でこの村に舞い戻ってくる可能性もゼロではないのが悲しいところである。
その後もジーナの案内で村を歩き、気付けば夕食の時間になっていた。
「シゲトもこの村に住めばいいのにな!」
「そうだな、若い男手ならいつでも大歓迎だ」
「エイベンもベルクもありがとう。もしかしたら、また戻ってきてこの村に住まわせてもらうかもしれないから、その時はよろしく頼むよ」
「おう、いつでも歓迎するぜ!」
「ああ、いつでも戻ってこいよ」
昨日の夜は俺とフー太の歓迎の宴となっていたが、今日の夜は昼と同じように一定の時間内に各自で食べるようだ。ジーナとフー太と一緒に晩ご飯を食べているところに、エイベンとベルクがやってきたので、一緒に食べている。
明日の朝には、俺はこの村を出発する。この二人とは特に仲良くなったし、いつか酒でも酌み交わしたいところである。
「シゲトお兄ちゃん、フー太様、これあげる!」
「もらっていいの?」
みんなで晩ご飯を食べていると、エリナちゃんがトコトコとやってきて、小さなお花の花束をもらった。フー太にはちょうど頭に載っかる大きさの花で編まれた冠を載せてくれた。
「うん! 魔法の粉のお礼だよ! またこの村に来てね!」
「エリナちゃん、ありがとう。また来るからね」
「ホーホー♪」
フー太もとても喜んでいるようだ。エリナちゃんは手を振りながら母親のいる場所へ戻っていった。
本当に良い子だったな。もらったお花はキャンピングカーのコップにでも生けて飾っておくとしよう。
「エリナも嬉しそうでしたし、本当にいつでも村に寄ってほしいです」
「そうだね、ジーナ。遠慮なくまたお邪魔させてもらうとするよ」
このキャンピングカーの燃費は燃料一リットルで五~六キロメートル。百リットル入るから、進もうと思えば一日五百キロメートルくらいは進めるはずだ。ギリギリまで燃料を使い切っても、燃料補給機能で一日経てば燃料が満タンになるなら、かなり遠くまで離れてもすぐに戻ってくることができる。
せっかくこの村の人達とも仲良くなれたんだ。またみんなの顔を見に来るとしよう。
「……よく寝たあ」
「ホー!」
目を覚ますと木の天井が見えた。そうだ、昨日はお腹いっぱい料理を食べながら村の人達と騒いで、最後にジーナと村の外へ出た。
誰もいないことを確認して、キャンピングカーを出してからいろんな検証をしつつ、借りている家に着いてすぐに寝てしまったんだ。
フー太はすでに起きていて、家の中を飛び回っていた。朝の運動かな? キャンピングカーの中は少し狭いからな。
さて、昨日いろいろとやることをやっておいたから、まずはジーナに伝えて村の外に出て、キャンピングカーを確認するとしよう。
「……う~ん、ポイントの増加はなしかあ。やっぱりディアクを倒した経験値とかでもないし、人にご飯を振る舞ったからポイントが増えたわけでもないか」
ジーナとフー太と一緒に村から少しだけ離れ、キャンピングカーを出して昨日の検証結果を確認していく。
残念ながら残りの拡張機能のポイントは1ポイントで、昨日から増えていなかった。そうなると、今の段階では、昨日考えたポイント増加の法則を絞る事はできないな。
これについてはそれぞれ順番に検証していくしかない。今日はこのままこの村でお世話になる予定だから、もしも明日ポイントが増加していれば、時間経過でポイントが増えることになる。次はキャンピングカーで距離を走ってみて、次の日にポイントが増えているかだな。
それで駄目なら、フー太やジーナと同じように誰かを助けた時にポイントが増えることとなる。さすがにそれを自発的にするのは難しいだろう……
「とりあえず補給機能のタイミングは、二十一時以降から翌朝八時くらいまでの間か。それがわかったのは大きな前進だな」
結局昨日の夜は、ジーナに頼んで村の外でキャンピングカーを出していろいろと確認をした。その結果、昨日の二十一時を過ぎたタイミングでは燃料や水が補給されておらず、今朝に補給を確認することができた。
そうなると、おそらくは日付が変わったタイミングだろうか? その辺りも今後検証していきたいところだ。
そして昨日新たに拡張した『調味料・香辛料補給機能』。
1ポイントで補給できた拡張機能だが、おそらくは燃料やタンクの水と同様に、自動的に醬油やアウトドアスパイスなどの調味料や香辛料を補給してくれる機能……だと思って拡張をした。
こちらの世界にはないであろう調味料や香辛料なんかを補給できるのはとても助かる。
どうやらこの世界では香辛料は高価らしいからな。資金を得たり物々交換したりするためにすぐに必要な機能だった。
そして調味料と香辛料の補給対象だが、これは俺の予想とは異なっていた。
「さすがにすべての調味料と香辛料が一夜で補給されることはなかったか」
確認してみた結果、補給されていた調味料はコショウ一つだけだった。
いったいどういう基準でコショウだけが補給されたのかを考えてみたのだが、ランダムに調味料か香辛料が一つだけ補給されるという予想がまず一つ。
そしてもう一つが、このキャンピングカー内にあり、一番減っている調味料か香辛料が補給されるという基準だ。昨日この条件を満たすものがコショウだったからな。
アウトドアスパイスが一番減っていたのだが、昨日はリュックに移して村で使っていた。そうなると、キャンピングカー内になければ補給の対象外なのかもしれない。
これについてもポイントの増加と合わせて要検証だな。贅沢を言っては罰が当たるかもしれないけれど、拡張機能の説明がほしいところである。
「ジーナ、お待たせ」
「ホー!」
一通り確認はできたので、俺はジーナに声を掛ける。
「ええ、全然構わないですよ。次はどこへ案内すればいいですか?」
「助かるよ。それじゃあ、村長さんの家までお願いするよ。昨日話していたように、いろいろと物々交換をしてもらいたいんだ」
「承知しました。その間私は心配を掛けた人達に改めて挨拶をしてきますから、また村の外に出たくなったら声を掛けてください」
「了解したよ」
さて、お次は村長さんと交渉をしなければならない。なんせ俺は今、この世界の服もお金も持っていないのだからな。他の街へ入るためにもそこは必須だ。
ちなみにこの村での食事は昼と夜の二食らしい。多少お腹はすいたが、そこはこの村に合わせるとしよう。
ジーナの案内に従い、村の中を歩いていると村のみんなが声を掛けてくれた。
「シゲトお兄ちゃん、おはよう!」
「エリナちゃん、おはよう」
「おう、シゲト。昨日はありがとよ、あんな旨い肉を食ったのは初めてだったぜ」
「それはよかった。こっちもおいしいお肉をご馳走さまでした」
昨日のアウトドアスパイスを掛けた肉はみんなに好評だったようだ。おかげで村の人達の大半とも仲良くなれた。とはいえ、さすがにまだ全員の名前は覚えられていない。この村には四十~五十人くらいが生活しているようだし、その三分の一くらいかな。
「おはようございます、村長さんいらっしゃいますか?」
村長さんの家に着き、扉越しに声を掛けると、すぐに返事があり中に招き入れてくれた。
「シゲト殿、おはようございます。昨日はとても良い日でした。ジーナも無事に村に戻ってこられましたし、シゲト殿のおかげで村の者もみな久しぶりに旨い肉を食べることができました」
「俺も昨日はとても楽しかったです」
「それでシゲト殿、何かありましたか?」
「はい、昨日お願いをしていた件なのですが、可能な分だけで大丈夫ですので、野菜や古着やお金を俺が持っている香辛料と換えてもらえないでしょうか?」
「ええ、もちろんですよ。それに香辛料はいりません。ジーナを助けていただきましたし、昨日は村人全員に香辛料を振る舞っていただきました。お金についてはこの村にもそれほどないのですが、古着や野菜についてはどうぞお持ちください」
「本当ですか! ありがとうございます。お金はここから一番近い街に入れる分をいただけますと、とても助かります」
この世界をのんびりと見て回りたいけれど、まずはお金や食料を確保することが大事だ。
この村を出たら、とりあえず近くの街へ向かい、多少のお金や食料を確保しておきたい。
「ええ、それくらいでしたら問題ありません。こちらの銀貨があれば隣の街へ入れます。二枚で入れるはずですが、念のため五枚ほどお持ちください」
ジャラジャラと村長さんから五枚の銀貨を受け取った。かなり昔に日本史で勉強した昔の古銭のような感じかな。あとでお金の価値についても教えてもらおう。
「ありがとうございます」
「ホー!」
俺の肩に止まっているフー太も両方の翼を広げて感謝の意を伝えている。村長さんの言葉はわからなくても、何かをもらったことはわかるらしい。
「そう言えば、今後街に向かうと聞きましたが、フー太様もご一緒なのですか?」
「はい。どうやらフー太も一人きりのようなので、ついてきてくれている間は一緒にいろんな場所へ行こうと思っていますよ」
「ホー♪」
フー太が俺の頬に頭を預けてくる。よしよし、ういやつめ。
「そうですか、そこまで森フクロウ様に懐かれているとは……ですが、お気を付けください。森フクロウ様は森の守り神であられますが、最近では数がだいぶ減ってきたこともあり、一部の愚かな貴族などが森フクロウ様を捕らえようとしているのです。街で誰かに襲われるという可能性もあるので、十分にご注意ください」
「そ、そうなんですね……」
「ホー?」
村長さんの言葉がわからないフー太が首を傾げる。その仕草はとても可愛らしいのだが、それって結構深刻なことなんだよな……
確かにこれだけ可愛らしく、体のサイズを変化させられる森フクロウは、ペットとしての需要がものすごくありそうだ。それでジーナは最初に俺を密猟者と間違えたんだな。
さすがに街の中の人目が多い場所で何かしてくるとは思わないけれど、万が一襲われたとして、俺はフー太を守る術を持っていない。となると、俺が街へ入っている間は、フー太には街の外で待っていてもらい、夜は俺も街の外に出てキャンピングカーで過ごすしかないか。
でも、それだとずっと街の外にいるフー太が可哀想だし、どうしたものかな……まあ、その辺りはあとで考えるとしよう。
「古着と食料についてはジーナに案内をさせますので」
「わかりました。ありがとうございます……あの、そう言えばジーナってエルフなんですよね? この村にエルフはジーナしかいないんですか?」
この街に来て一番気になっていたことを聞いてみた。ジーナにこの村に案内されるまでは、ここはエルフの集落かと思っていたのだが、どうやら違うようだ。
「……あの子がこの村に来たのは今から十五年以上も前になりますか。赤ん坊だったジーナを抱いた母親がこの村にやってきて、ここに住みたいと言ってきました。我々としても拒む理由もなかったので彼女達を受け入れたのです。彼女の母親はとても優秀な水魔法の使い手で、村の生活にとても貢献してくれました」
どうやらジーナはこの村で生まれた子ではなかったらしい。
「ですが、ジーナの母親は数年ほど前に病に倒れ、そのまま帰らぬ人となったのです。ジーナも深く悲しみましてね、それまで以上にこの村のために役に立とうと躍起になって、時間さえあれば森で狩りをするようになりました」
「そうだったのですか……」
医療も発達しておらず、衛生観念もしっかり定着していなさそうなこの世界だ、大きな病に罹ってしまえば助かることは稀なのだろう。
「すみません、辛いことを思い出させてしまいました」
「とんでもないです。ジーナはこの村の大切な家族です。ジーナを助けてくれたシゲト殿とフー太様には本当に感謝しております」
「いえ、ジーナを助けたのは偶然でしたから。それにこちらこそ、村に泊めていただき本当に感謝していますよ。それに服や野菜をいただけるのもありがたいです」
「シゲト殿は本当に欲のない方ですね……エルフという種族は我々人族よりもとても寿命が長いのです。ジーナがこの村を思ってくれるのはとても嬉しいのですが、本音を言えば、ジーナにはこの村の外に出て、いろいろな世界を見てきてほしいという気持ちもあるのですよ」
「なるほど……」
どうやらファンタジーの常識通りこの世界のエルフの寿命も長いらしい。とはいえ、赤ん坊のジーナがこの村に来たのが十五年前ということは、ジーナは見た目通りの年齢のようだ。
でもジーナはこの村のことが本当に好きみたいだったからな。俺がこの村は良い村だと褒めた時は本当に嬉しそうにしていた。たぶん誰が何を言ったところで、きっとこの村からは出ていかないだろう。
「ところで、村長さんは日本、またはアメリカという名前の国を知っていますか?」
「ニホン……アメリカ……申し訳ないですが、そのような名前の国は聞いたことがありません。シゲト殿の故郷の名前ですかな?」
「はい。実は故郷への帰り方がわからなくなってしまいまして……」
「そうでしたか。街には様々な場所から人が集まってくるので、シゲト殿の故郷の情報を集めるのなら、街で聞いた方が良いかもしれませんな」
「わかりました。それとまだこの国に来たばかりなので、この国のことについていろいろと教えてください」
「ええ、もちろんですよ」
そのあとは村長さんにこの国のことや、この村の付近について詳しく聞いてみた。
村長さんから聞いた話によると、ここから一番近い街までは歩いて五日ほど、そこそこ大きな街で冒険者ギルドや商業ギルドなどもあるらしい。
街に入るためには身分証が必要で、持っていない場合には、街へ入るための通行料と犯罪経歴がないかのチェックが入るらしい。
よし、今日はゆっくりさせてもらい、明日の朝にその街を目指すとするか。
この世界に来てからいろいろと考えたが、せっかく夢だったキャンピングカーと一緒に異世界へ来たんだ。どうせならキャンピングカーでこの異世界を回ってみようじゃないか。
元の世界の情報を集めつつ、この世界を見て回る。うん、当面はこれでいくとしよう!
「ジーナ、いる?」
「ホー」
「シゲト、フー太様、どうしました?」
「村長さんと話をして、使っていない古着をもらえることになったんだ。あとは野菜も少しもらえることになって、その案内をジーナに頼みたいんだ」
「そうですか、任せてください! そのままこの村の中も案内します。小さいながらも良い村なのですよ」
「ありがとう、助かるよ」
まずは古着や農作業の道具などがある小屋に案内された。どうやらこの村の財産的なものは全員の共同資産になっているらしい。使っていないものはこの小屋に集められており、使う時には誰かに告げて自由に使っているそうだ。
「どうだろ?」
俺はいくつか服を見繕って、試しに着用してみた。
「ええ、とっても似合っていますよ。でもいいのですか? さっきまでシゲトが着ていた服の方が立派でしたのに?」
「立派かもしれないけど、街へ行くと悪目立ちしちゃいそうだからね。こっちの方が一般人ぽくていいんだよ」
小屋には茶色や灰色の上着と、茶色や黒色のズボンが置いてあった。古着なので少し布がへたってはいるが、そのおかげで普通の人に見える。靴は何かの動物の皮でできており、シンプルに足首を紐で縛るようになっている。
「それじゃあ、ありがたくいただいていくよ」
古着は結局三着分をもらうこととなった。足りなかったら街で買えばいいだろう。
……下着については元の世界で使っていたものを使うとするかな。さすがに古着の下着というのは少し抵抗がある。街へ行ったら新品を探してみよう。
「そろそろお昼ですね。ご飯を食べに行きましょうか」
「そうだな、少しお腹がすいてきた」
「ホホー♪」
フー太もお腹がすいているようで、大きな鳴き声を上げた。
ジーナに案内されて村の真ん中にある大きめの建物に向かう。昨日の宴会もここの前で開かれていた。どうやら村の人達はみんなここで食べるらしい。
「朝からお昼までの間に各自でここに来て食べるのですよ」
なるほど、セルフで取りに行く小学校の給食みたいだ。基本的にはみんな同じメニューで、お皿を持っていくと給仕担当の人がお皿によそってくれる感じだな。
お昼のメニューはパンと茹でた野菜と少しの焼いた肉だ。どうやらこの村ではパンを作っているらしい。とはいえ、日本で食べるような白くて柔らかいパンなどではなく、黒くて硬いボソボソとした歯触りのパンである。
この世界ではまだ酵母というものが使われてないのかもしれない。街へ行った時に酵母を使ったパンが売ってないか見てみよう。なければ自分で作るしかないか。今まで酵母を自分で作ったことはないが、確か果物を水に浸しておけばできるんだっけな。
「シゲトお兄ちゃん、昨日のご飯がおいしくなる魔法の粉を掛けて!」
昨日と同様に、俺とフー太とジーナが野菜と肉にアウトドアスパイスを掛けて食べていると、エリナちゃんがこっちに近付いてきた。
エリナちゃんは小学校低学年くらいの女の子で、昨日の夜から俺に懐いてくれている。まあアウトドアスパイスでおいしくなったご飯狙いの可能性もあるが、可愛いからいいんだよ。
それに、俺をおじさんじゃなくてお兄ちゃんと呼んでくれているから、それだけですべてを許せてしまう。元の世界だと稀におっさんとかおじさんと呼ばれるからな。
「こらエリナ! 娘がすみません、本当に気にしないでください!」
エリナちゃんの母親がエリナちゃんを抱きあげて窘めている。
「まだたくさんあるから気にしなくていいですよ。はい、エリナちゃん。皆さんもどうぞ!」
実際のところ、このアウトドアスパイスはかなり減ってきたのだが、別のアウトドアスパイスをもう一種類持っているからまだ大丈夫だ。
こんなことになるのなら、もっといろいろな調味料をキャンピングカーに積んでおけばよかったと少しだけ後悔している。
「すみません! 本当にありがとうございます。ほらエリナ、ちゃんとお礼を言いなさい!」
「シゲトお兄ちゃん、ありがとう!」
うむ、幼女の笑顔はお金では買えないものである。子供の笑顔はどうしてこんなにも人を和やかな気持ちにさせるのだろう。
いや俺がロリコンってわけではないからな! 普通に誰に頼まれてもあげるつもりだったし!
昼食を食べた後は引き続きジーナに村を案内してもらった。それぞれの家族の家はあるが、トイレも共用、食事も共用、畑も共用となっているらしい。そして残念ながら風呂はないようだ。
「シゲト、こちらがこの村の畑です」
「おお! これはなかなか壮観な景色だな」
「ホーホー!」
村の居住区を外れたところに広々とした畑が広がっていた。そこでは色とりどりの野菜や麦が育てられている。
「この辺りは土の質がよく、作物で困ることはほとんどありませんね。それに森も近いので、魔物もよく取れます」
そう言えば村長さんが言っていたな。この村はあまり食料には困っておらず、十分に自給自足ができているらしい。ただ余った分の食料を売ってお金に換えて、税金として国にお金を納めているから、現金はあまりないとのことだ。街へ入るためのお金はありがたく使わせてもらおう。
「こちらがこの村の野菜を保存している倉庫ですね。野菜の種類ごとに倉庫をいくつか分けておりますので、あとでそちらも見てみましょう」
この倉庫にはジャガイモやサツマイモのような芋類が保管されていた。
他の倉庫には挽いた小麦、キャベツや白菜、玉ねぎやにんじんなどがあった。
他の野菜は使う当日にその日の分を収穫するようだ。
大きなリュックを持ってきたつもりだったのだが、全然入らなかった。まあ街までキャンピングカーなら一日もかからないし、ディアクの肉はたくさんある。数日分あれば大丈夫だろう。
「食料をこんなにもらってしまって悪いね」
「とんでもない! 私は命を救ってもらいましたし、昨日も今日も高価な香辛料をみんなに振る舞っていただきました! むしろこちらの方があまりお返しできずに申し訳ないです」
「はは、それじゃあこれでお互い様ということで。それにしても本当に良い村だな」
「ホー♪」
文明レベルは低いかもしれないけれど、食料は十分にあり、何より村の者全員が楽しそうに暮らしている。子供達が笑いながら遊んでいるのが何よりの証拠だ。フー太も俺の意見には賛成みたいだな。
「ええ! 私も赤ん坊の頃から住んでいますが、本当にとても良い村なんですよ! もしよろしければシゲトもこの村でしばらく暮らしてみてはいかがでしょうか?」
「………………」
正直に言うと、それも選択肢としては十分にありだ。見たところ若い男手があまりいないから、体力のない俺でも多少は歓迎されるだろう。
……だけど、俺はせっかくならキャンピングカーでこの世界を回ってみたい。それにキャンピングカーのレベルアップには距離を走らないといけないみたいだしな。
「ありがたいお誘いなんだけれど、まだこの国に来たばかりだからね。もう少しいろいろとこの辺りを旅してみるよ」
「わかりました。いつでも歓迎しますので、ぜひまたこの村に寄ってくださいね!」
「ああ、その時は遠慮なく寄らせてもらうよ」
「はい!」
カーナビの機能もあることだし、またこの村に戻ってこようと思えばいつでも戻ってくることができる。この世界に来て初めてできた知り合いだし、ぜひまた寄らせてもらうとしよう。
……とはいえ、この異世界を旅してみて、危険が多すぎて一瞬でこの村に舞い戻ってくる可能性もゼロではないのが悲しいところである。
その後もジーナの案内で村を歩き、気付けば夕食の時間になっていた。
「シゲトもこの村に住めばいいのにな!」
「そうだな、若い男手ならいつでも大歓迎だ」
「エイベンもベルクもありがとう。もしかしたら、また戻ってきてこの村に住まわせてもらうかもしれないから、その時はよろしく頼むよ」
「おう、いつでも歓迎するぜ!」
「ああ、いつでも戻ってこいよ」
昨日の夜は俺とフー太の歓迎の宴となっていたが、今日の夜は昼と同じように一定の時間内に各自で食べるようだ。ジーナとフー太と一緒に晩ご飯を食べているところに、エイベンとベルクがやってきたので、一緒に食べている。
明日の朝には、俺はこの村を出発する。この二人とは特に仲良くなったし、いつか酒でも酌み交わしたいところである。
「シゲトお兄ちゃん、フー太様、これあげる!」
「もらっていいの?」
みんなで晩ご飯を食べていると、エリナちゃんがトコトコとやってきて、小さなお花の花束をもらった。フー太にはちょうど頭に載っかる大きさの花で編まれた冠を載せてくれた。
「うん! 魔法の粉のお礼だよ! またこの村に来てね!」
「エリナちゃん、ありがとう。また来るからね」
「ホーホー♪」
フー太もとても喜んでいるようだ。エリナちゃんは手を振りながら母親のいる場所へ戻っていった。
本当に良い子だったな。もらったお花はキャンピングカーのコップにでも生けて飾っておくとしよう。
「エリナも嬉しそうでしたし、本当にいつでも村に寄ってほしいです」
「そうだね、ジーナ。遠慮なくまたお邪魔させてもらうとするよ」
このキャンピングカーの燃費は燃料一リットルで五~六キロメートル。百リットル入るから、進もうと思えば一日五百キロメートルくらいは進めるはずだ。ギリギリまで燃料を使い切っても、燃料補給機能で一日経てば燃料が満タンになるなら、かなり遠くまで離れてもすぐに戻ってくることができる。
せっかくこの村の人達とも仲良くなれたんだ。またみんなの顔を見に来るとしよう。
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