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1巻
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第四章 明日のために
「ふあ~あ」
今日も今日とてぐっすりとよく眠れた。やはり俺はだいぶ図太いらしいな。ベッドのような柔らかい寝具でもなく、薄い布団で普通に眠ることができた。
「ホ~」
大きくなって隣にいたフー太も目を覚ましたようだ。少しだけ肌寒かったから、持っていた寝袋を広げて毛布のようにフー太と一緒に掛けて寝ていたのだが、どうやら寝ている間にまた大きくなってしまったらしい。
この状態のフー太はもふもふしていて本当に温かいな。俺の方は寝袋がズレてしまったのだが、それでも快適に眠ることができた。
さて、今日はハーキム村を出て、街へと移動してみよう。まずはキャンピングカーに乗ってみて、ポイントが増えているかの確認と、昨日キャンピングカーの中に置いておいたアウトドアスパイスが補給されているか確認してみるか。
肉はディアクの肉がアイテムボックスに入っているし、リュックにはこの村でもらったたくさんの野菜もある。街に入るための最低限のお金ももらったし、この世界の服もいただいた。
まだたった数日の付き合いだが、ジーナやこの村の人達にはとてもお世話になった。カーナビによって、離れていてもすぐにこの村まで戻ってくることができるし、今はこれからの旅に気持ちを向けていこう。
「おい、ヨル婆! 早く診てくれよ!」
「誰か、水を持ってきてくれ!」
村を出発しようと、借りていた家を出ると、何やら村の中が騒がしい。
昨日の朝はこんなことはなかったはずだ。何かあったのか?
「ジーナ、何かあったの?」
ざわつく村の人達の中にジーナを見つけた。ジーナは青ざめた顔をして呆然としている。
「シゲト、フー太様……エリナが、エリナが!!」
「えっ!? エリナちゃんがどうした!?」
「ホー!?」
エリナちゃんに何かあったのか!?
ジーナと一緒にエリナちゃんとその家族が住んでいる家の前に行くと、そこには村のみんなが集まっている。しばらくすると、家の中から村長さんが出てきた。
「村長、エリナの具合はどうなんだ?」
「今朝いきなり倒れたけど無事なのか?」
「みな、落ち着いて聞いてくれ。エリナの全身には赤い発疹が出ていた。ヨル婆にも診てもらったが、間違いなくドルダ病だ。あとはもう言わなくてもわかるな……」
「そんな!? 嘘だろ!」
「エリナが!? あんないい子がどうしてだよ!」
「くそっ! ここ数年はドルダ病に罹った者は出なかったのに」
村のみんなの反応から、エリナちゃんがドルダ病という病に倒れたということはわかる。そしてその病がとてつもなく重いということもだ。
「ジーナ、ドルダ病というのは?」
「……この辺りの国で本当にごく稀に発症する病のことです。全身に赤い発疹が出るという特徴があり、発症してから数日の内に死に至る恐ろしい病です」
発症から数日で死に至る病……
くそっ、俺は病気の知識がほとんどないうえにここは異世界だ。救急セットに入っている応急薬程度じゃ対応などできるわけがない。
「どうにかできないの?」
「……この病の特効薬が一つだけあります」
「特効薬があるのか!? じゃあ早くそれをあげないと!」
「残念ですが、その特効薬はこの村にはありません。薬を売っている一番近くの街でも、ここから片道五日はかかります。そして、この村には特効薬を買えるようなお金もありません。この村でドルダ病に罹ることは死を意味します。せめて残された時間は、家族や村のみんなと一緒に安らかな時を過ごすことしかできないのです」
ジーナの白銀色の両の瞳からは涙が溢れていた。
「私の母もこの病で亡くなりました……」
「………………」
村長さんの話では、ジーナの母親は数年前に病に倒れたと言っていた。自分の母親が患った病か……エリナちゃんを自分の母親と重ねてしまっているのだろう。
すでに村にいる他のみんなも悲嘆に暮れている。
「シゲトとフー太様はどうか村を出発してください。こうなってしまっては我々にできることはありませんし、それに、これはこの村の問題です。お二人が気にする必要はありません」
「………………」
涙を流しながらそんなことを言うジーナ。こんな状況でも俺やフー太を気遣ってくれる本当に優しい子だ。
「……ジーナ、その特効薬というのはいくらするんだ?」
「金貨で二十枚ほどです。この村にあるお金をかき集めても半分にも満たないでしょうね。それにたとえお金があったとしても、間に合いません」
昨日村長さんに聞いたこの国でのお金の価値。食事や宿代、街へ入るための金額などから換算すると、日本円では銅貨が百円、銀貨が千円、金貨が一万円ほどになる。金貨二十枚ということは二十万円くらいか。
……もしかしたらエリナちゃんを助けることができるかもしれない。だが、数日前に出会ったばかりの女の子を助けるために、俺のキャンピングカーの秘密が漏れたり、俺が街の人に狙われたりするようなリスクを取るべきなのか?
「………………」
俺は聖人君子なんかじゃない。
自分の命を捨ててまで悪人と戦うようなヒーローでもない。ジーナにこの村を案内してもらった時も、何かあればキャンピングカーを出してすぐに逃げようと、いつも保身ばかり考えていた人間だ。
今もこうして苦しんでいる女の子を目の前にして、反射的に人を助けるために動ける人とは違い、自分の立場のことを考えてしまうくらいちっぽけな男だ。
だけどな、そんなちっぽけな男で、自分のことを何よりも考える男だからこそ、俺はエリナちゃんを助けたい!
ここでエリナちゃんを見捨てて、明日見る景色が綺麗だと感じることができるか? 明日食う飯が旨く感じるか?
そんなわけがないだろ!
偽善だろうと自己満足だろうと知ったことか! 俺は俺が明日の生活を楽しむため、俺自身のためにエリナちゃんを助けるんだよ!
「ジーナ、なんとかなるかもしれない」
「っ!! ドルダ病の特効薬を持っているのですか?」
「いや、特効薬は持っていない。だが、一日で街まで行って帰ってくることは可能だ。あとは特効薬を買うお金だが、それもなんとかなるかもしれない」
「本当ですか!? シゲト、私にできることならなんでもします! お願いします、どうかエリナを助けてください!」
俺に向かって深く頭を下げるジーナ。
「まずは村長さんと話をしたい。ジーナ、フー太、一緒に来てくれ」
「はい!」
「ホー!」
エリナちゃんの家の前にいる村長さんを呼び出し、村の人達から少し離れたところに来てもらった。
「シゲト殿、こんな状況になってしまい申し訳ありません。シゲト殿はどうか気になさらず村を出てください。旅の無事をお祈りしております」
こんな状況になっても、ジーナと同じで俺のことを気遣ってくれている。
「村長さん、落ち着いて聞いてください。もしかしたらですが、エリナちゃんを助けられるかもしれません」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、そのためにいくつか確認をしたいんです。まずは街でドルダ病の特効薬を売っている場所を知っている人は誰がいますか?」
驚いている村長さんに、俺は冷静に必要なことを聞いていく。
「私とヨル婆、それと護衛として街までついてきたことのあるベルクが知っております。ですが、あの街までは歩いて五日はかかります。仮に馬がいたとしても数日はかかってしまいます」
「距離については問題ないと思います。どちらかと言えば特効薬を買うための資金の方が問題ですね。俺が昨日使った香辛料なんですけど、高く売れると思いますか?」
俺はこのプランの一番肝心なところを村長さんに聞いた。
「……ええ。しかるべき場所に持っていけば、高い金額で引き取ってくれると思われます」
「それならいけるかもしれませんね。誰か一人、俺と一緒に街まで行ってくれませんか? あとは香辛料を買い取ってくれる商店を知っている人も必要ですね」
「でしたらどちらも知っている私が行きます! 村にいても医学の知識のない私にできることは何もありません。エリナのことはヨル婆に任せております」
「わかりました。確実に助けられるという保証はないので、この件はみんなにはまだ話さないでください。ジーナ、護衛として街まで一緒についてきてほしいんだけれど頼めるか?」
「もちろんです!」
よし。香辛料の金額次第ではあるが、これならエリナちゃんを救える可能性は高い。
「村長さん、俺達が街に入るためのお金だけ用意してもらって、急いで村の入口を出て少し歩いたところまで来てください」
「わかりました」
「お待たせしました。みんなには話をして明日までには戻ると伝えてきました。ですが、いったいどうやって……」
そう言いながら村長さんがこちらに歩いてくる。
村の入口を出て少し歩いた場所。ここなら門番の人からも見えない。キャンピングカーを見せるのはいいが、できる限りは秘密にしておきたいからな。
「それでは、今から起こることはみんなには秘密でお願いします」
村長さんの目の前でキャンピングカーを出す。何もない空間から突然現れた巨大なキャンピングカーに驚き、村長さんは文字通り腰を抜かした。
「なっ、なな、なんですか、これは!?」
「これはキャンピングカーというシゲトが召喚した魔物です」
「ホー!」
ジーナが説明をしてくれるが、実際にはちょっと違うんだよな。とはいえ、今はそんな説明をしている暇はない。
「細かい説明は走りながらしますが、このキャンピングカーなら、五日歩く距離を半日もかからずに進むことができます」
「なっ、なんと!?」
「この魔物はそれほど速く走ることができるのですね……」
村長さんもジーナも、俺が話したあまりの速さにとても驚いている。
「ジーナ、今更魔物の腹の中が怖いなんて言うのはなしだぞ」
「もちろんです、シゲト! エリナを救うためならば、どんなことでも覚悟しております!」
「は、腹の中……」
ジーナの方はエリナちゃんを助けるための覚悟ができているようだが、村長さんの方は少し顔を青くしている。そりゃいきなり魔物の腹の中とか言われたら、怖くなるのも当然だろう。
「村長さん、腹の中というのはたとえです。ほら、こんな感じでこのキャンピングカーの中に入って、中からこいつを動かすだけです。こんな感じで簡単に出入りもできますよ」
「ホー♪」
俺はキャンピングカー後部のドアを開けて、中に乗り込んだり、出てきたりしてみせる。フー太も俺と同じようにキャンピングカーの中に入ったり出たりしてくれている。
「な、なるほど……」
俺だけじゃなくフー太もキャンピングカーの中に入っていくのを見て、村長さんも少し安心してくれたみたいだ。
「そっ、それでは失礼します」
まずはジーナが恐る恐るキャンピングカーの中に足を踏み入れる。
う~ん、本来ならばキャンピングカーはもっとウキウキして入るものなんだけれど、こちらの世界の人にそれを求めるのは酷というものか。
「み、見たことないものがいっぱいありますね……それにしても中はとても広いです。本当にこれが魔物の体の中なのですか?」
ジーナはまだ魔物と信じているようで、見当外れなことを言ってくる。
「そもそもこれは車といって、実際には魔物とは違うんだよ。中には危険な物もあるから、あんまり触らないでね」
「き、気を付けます!」
「こ、これはすごいですな」
とりあえずジーナも村長さんも無事にキャンピングカーに乗り込んだ。
さあ、街まで急ぐとしよう!
「街はあっちの方角でいいんですよね?」
「え、ええ。この道をひたすら道なりに進んでいけば、オドリオの街へ行けます」
「わかりました。念のために村長さんかジーナのどちらかは道案内のため前に来てください」
「私が前に行きます」
「わかった。ジーナ、シートベルト――ええっと、この安全用の紐みたいなものをこう付けてね。村長さんも後ろのソファ……イスに座って、ジーナと同じようにこの紐を付けてください」
「わかりました。すごい、この紐は伸び縮みするのですね。ええっと、これを……」
「な、なかなか難しいのう……」
ジーナが助手席に座り、後ろのイスに村長さんが座るが、二人ともシートベルトをうまく付けられないようだ。確かに初めてシートベルトを付けるのは難しいのかもしれないので、二人を手伝ってあげた。
「フー太はどうしようかな、俺の席だと少し邪魔になっちゃうかもしれないし……」
「ホー……」
さすがに運転席の俺の上にいると少し運転の邪魔になってしまう。それにたぶんフー太も危ないだろう。
後ろにいてもらうのもいいのだが、ジーナと出会った時に、フー太は俺よりも早くジーナに気付いたし、目がとても良いようだ。できれば前にいてもらい、何かあればすぐに教えてほしい。
「フー太様、よろしければこちらに」
「ホー♪」
シートベルトを締めたジーナの上にフー太が飛び乗り、ジーナがフー太を抱きかかえた。確かにこれならフー太もジーナも前を見ることができる。ジーナも森で狩りをしているらしいから、きっと目はいいだろう。
……少しだけジーナに抱きかかえられているフー太が羨ましかったりもするが、今はそんなことを考えている場合ではない。
「それでは出発しますね。スピードが出るので気を付けてください」
「は、はい」
「わ、わかりました」
幸いオドリオの街らしき場所まではカーナビの範囲内だったようだ。
カーナビを操作し、手動でピンを留めてセットする。
地図を見てオドリオの街までの道を確認したところ、村長さんの言う通り、このままこの道沿いにまっすぐ進めば街へ着くようだ。
『目的地が設定されました。目的地まで案内を開始します』
「きゃっ!?」
「ぬおっ!?」
「この声に害はないので気にしないでください」
カーナビの音声が流れるが、オドリオの街までは基本的に道なりに進むだけなので、案内はそれほど必要ないだろう。
アクセルを踏んで徐々にスピードを上げていく。
「きゃあああ!」
「こ、これはなかなか揺れるようじゃな」
二人とも初めての車だからしょうがない。しばらくすれば慣れるだろう。ジーナも可愛らしい悲鳴を上げるのだなという、どうでもいい情報がわかった。
時速五十キロメートル以上のスピードで街までの道のりを飛ばす。もちろんこのキャンピングカーの最高時速は倍以上出せるのだが、舗装されておらず、人や魔物が突然現れるかもしれないこの道ではこれが限界だ。
徒歩で五日ということは、多く見積もって一日三十キロメートル進むと考えても、街までは約百五十キロメートル。三時間あれば到着できる予定だ。
「よ、ようやく慣れてきましたね。こ、こんなにも速く動ける魔物が存在するとは思いませんでした……」
「う、うむ。世界は広いのう……」
走り始めて約十分、ジーナも村長さんもようやく車のスピードに慣れてきたみたいだ。初めは一言もしゃべらずに青い顔をして無言だった。初めて車に乗る人はこういう反応になるんだな。
この道は舗装なんてされていないし、人もそれほど通らないせいか、キャンピングカーはだいぶ揺れる。以前に車体強化機能を拡張したけれど、振動までは軽減されないようだな。
ちなみに、昨日の夜に村の外までジーナについてきてもらい、連日使用してほとんどなくなってしまったアウトドアスパイスをキャンピングカーの中に置いておいたが、満タンに補給されていた。
予想通り例の調味料・香辛料補給機能は、このキャンピングカー内にある一番少ない調味料か香辛料を補給する機能で正解のようだ。
よし、これなら街へ行ってアウトドアスパイスを売っても次の日には補給されそうだな。
この世界で香辛料が高価ならば、アウトドアスパイスやコショウを売ってお金を稼ぐことなんかもできそうだ。
「……というわけで、これはキャンピングカーと言って、速く動かすことができる馬車のようなものなんだよ」
「な、なるほど……」
道中、キャンピングカーのことをジーナと村長さんに説明する。
「ふむ、つまりは己の魔力を使って動かす魔道具のようなものなのですね」
「ええ、そんなところです」
ジーナの方はまったくわからないといった様子だったが、村長さんの方は多少理解してくれた。とはいえ、俺も車の詳しい仕組みなんて知らないので、魔力を使って走ることができる魔道具のようなもの、という村長の話に合わせた。
どうやらこの世界には、魔道具という魔力を使って様々な効果を得ることのできる道具があるらしい。俺のキャンピングカーもその魔道具ということにしておけばいいだろう。魔物使いと説明するよりもこちらの方がわかりやすい。
そして走りながら確認したところ、拡張機能のためのポイントが昨日の夜から1ポイント増えて2ポイントになっていた。昨日はまったく走っていないので、二日に1ポイント増える可能性が今のところ一番高い。もう二日経ってポイントが増えているかを確認したいところだ。
キャンピングカーで走らなくとも、二日に一回ポイントが増えてくれるのは本当にありがたい。とはいえ、キャンピングカーで走らなければレベルアップの方はできないから、どちらにせよ走らなければならない。
「ホー!」
「シゲト、前方右斜めに魔物がおります!」
「了解!」
ブロロロロロ。
キャンピングカーのハンドルを少し左に回し、少しだけ道を逸れて魔物をかわしてから元の道へと進路を戻す。先ほどから、魔物がちらほらと姿を現している。
どうやらジーナもかなり目が良いらしく、キャンピングカーを走らせている間はフー太と同様、前方に魔物や障害物などが見えた時にはすぐに教えてくれる。二人のおかげである程度スピードを出しても、早めに危険な魔物や障害物を察知して回避できていた。
「……よし、予定通り行きそうだ」
走り始めてもうすぐ三時間が経とうとした頃。
「おっ、もしかしてあれが目的の街か?」
「は、はい、あれがオドリオの街です。し、信じられない……まさか本当にこんな短い時間で街まで来られるなんて!」
「ま、間違いないぞ! 歩いたら五日もかかる距離をたった数時間で走ることができるとは……」
ジーナと村長さんがほとんど同時に驚いている。
道の先に大きな壁が見えた。あれが街の外壁なのだろう。これだけ大きな壁ということは街もかなりの大きさで間違いない。
村からここまでの道のりはあまり人が通らないようで、大きな荷物を背負った商人のような人と、ファンタジーのアニメで見たような冒険者の格好をした三人組を追い抜いただけだった。
二組ともこの街に向かっていたようだが、きっと俺達が通り過ぎた後はポカンとしていたに違いない。
俺は街の入口から少し離れた場所にキャンピングカーを停めた。そして街の中に持っていくものをリュックに詰めていく。商店に売る予定である香辛料、もし香辛料だけでは足りなかった場合に高値で売れそうなキャンプギア、自分達の身を守るための護身用具を持っていくことにした。
ジーナ達とキャンピングカーを降りて、車体に触れて車体収納機能を発動させると、それまでそこにあったキャンピングカーの車体が一瞬で消える。
「や、やはり何度見てもすごいですね。あれだけ大きな魔道具が一瞬で消えてしまいました」
「……ふ~む、これほどすごい魔道具は初めて見たのう」
「さあ、街の中に入りましょう。あっ、でもフー太は街へ入らない方がいいのかな? 確か森フクロウは狙われる可能性があるんだっけ?」
「ホー……」
フー太がとても残念そうな顔をしている。だが、そっちの方がフー太にとっては安全だし、この小さな林がある場所で待ち合わせをした方が良いのかもしれない。
フー太は体を大きくすることはできるけれど、これ以上小さくすることはできないらしい。
「いえ、薬を売っている店も、物を買い取ってくれる商店も大きな通りにあるので、大丈夫だと思います。それにいざとなればジーナがおりますから」
「ジーナが?」
「ええ。ジーナの実力は、この街にいる腕利きの者にも引けを取らないと思いますよ」
「今度こそシゲトとフー太様を守ってみせます!」
「ああ。お願いするよ」
ジーナが強いとは聞いていたけれど、そんなに強かったのか……
言われてみると、確かに風魔法を使えていたし、あの巨体のディアクを正面から相手していた。
昨日村長さんに聞いたところ、この世界では魔法を使える適性のある人はとても珍しいようだ。元の世界で見たファンタジー作品のように、すべての人が魔法を使用できるというわけではないらしい。
……出会った時から森で迷って空腹で倒れたり、お腹がすいている状態で更にお腹がすく魔法を使ったりしたジーナ。どこか抜けているところしか見ていなかったから、ジーナがそんなに強いだなんて正直想像できない。
「それとフー太様はシゲト殿の肩から離れないようにお願いします。空を飛んでいると、街にいる他の者に捕らえられてしまうかもしれません」
なるほど、空を飛んでいると、野生の森フクロウと思われてしまうのかもしれない。
「ホー?」
「街にいる間は俺の肩から離れないようにな」
「ホー!」
やはりフー太は村長さんの話も理解することができないので、村長さんに代わって俺がフー太に伝えた。
さあ、いよいよ街の中に入るぞ。
「ふあ~あ」
今日も今日とてぐっすりとよく眠れた。やはり俺はだいぶ図太いらしいな。ベッドのような柔らかい寝具でもなく、薄い布団で普通に眠ることができた。
「ホ~」
大きくなって隣にいたフー太も目を覚ましたようだ。少しだけ肌寒かったから、持っていた寝袋を広げて毛布のようにフー太と一緒に掛けて寝ていたのだが、どうやら寝ている間にまた大きくなってしまったらしい。
この状態のフー太はもふもふしていて本当に温かいな。俺の方は寝袋がズレてしまったのだが、それでも快適に眠ることができた。
さて、今日はハーキム村を出て、街へと移動してみよう。まずはキャンピングカーに乗ってみて、ポイントが増えているかの確認と、昨日キャンピングカーの中に置いておいたアウトドアスパイスが補給されているか確認してみるか。
肉はディアクの肉がアイテムボックスに入っているし、リュックにはこの村でもらったたくさんの野菜もある。街に入るための最低限のお金ももらったし、この世界の服もいただいた。
まだたった数日の付き合いだが、ジーナやこの村の人達にはとてもお世話になった。カーナビによって、離れていてもすぐにこの村まで戻ってくることができるし、今はこれからの旅に気持ちを向けていこう。
「おい、ヨル婆! 早く診てくれよ!」
「誰か、水を持ってきてくれ!」
村を出発しようと、借りていた家を出ると、何やら村の中が騒がしい。
昨日の朝はこんなことはなかったはずだ。何かあったのか?
「ジーナ、何かあったの?」
ざわつく村の人達の中にジーナを見つけた。ジーナは青ざめた顔をして呆然としている。
「シゲト、フー太様……エリナが、エリナが!!」
「えっ!? エリナちゃんがどうした!?」
「ホー!?」
エリナちゃんに何かあったのか!?
ジーナと一緒にエリナちゃんとその家族が住んでいる家の前に行くと、そこには村のみんなが集まっている。しばらくすると、家の中から村長さんが出てきた。
「村長、エリナの具合はどうなんだ?」
「今朝いきなり倒れたけど無事なのか?」
「みな、落ち着いて聞いてくれ。エリナの全身には赤い発疹が出ていた。ヨル婆にも診てもらったが、間違いなくドルダ病だ。あとはもう言わなくてもわかるな……」
「そんな!? 嘘だろ!」
「エリナが!? あんないい子がどうしてだよ!」
「くそっ! ここ数年はドルダ病に罹った者は出なかったのに」
村のみんなの反応から、エリナちゃんがドルダ病という病に倒れたということはわかる。そしてその病がとてつもなく重いということもだ。
「ジーナ、ドルダ病というのは?」
「……この辺りの国で本当にごく稀に発症する病のことです。全身に赤い発疹が出るという特徴があり、発症してから数日の内に死に至る恐ろしい病です」
発症から数日で死に至る病……
くそっ、俺は病気の知識がほとんどないうえにここは異世界だ。救急セットに入っている応急薬程度じゃ対応などできるわけがない。
「どうにかできないの?」
「……この病の特効薬が一つだけあります」
「特効薬があるのか!? じゃあ早くそれをあげないと!」
「残念ですが、その特効薬はこの村にはありません。薬を売っている一番近くの街でも、ここから片道五日はかかります。そして、この村には特効薬を買えるようなお金もありません。この村でドルダ病に罹ることは死を意味します。せめて残された時間は、家族や村のみんなと一緒に安らかな時を過ごすことしかできないのです」
ジーナの白銀色の両の瞳からは涙が溢れていた。
「私の母もこの病で亡くなりました……」
「………………」
村長さんの話では、ジーナの母親は数年前に病に倒れたと言っていた。自分の母親が患った病か……エリナちゃんを自分の母親と重ねてしまっているのだろう。
すでに村にいる他のみんなも悲嘆に暮れている。
「シゲトとフー太様はどうか村を出発してください。こうなってしまっては我々にできることはありませんし、それに、これはこの村の問題です。お二人が気にする必要はありません」
「………………」
涙を流しながらそんなことを言うジーナ。こんな状況でも俺やフー太を気遣ってくれる本当に優しい子だ。
「……ジーナ、その特効薬というのはいくらするんだ?」
「金貨で二十枚ほどです。この村にあるお金をかき集めても半分にも満たないでしょうね。それにたとえお金があったとしても、間に合いません」
昨日村長さんに聞いたこの国でのお金の価値。食事や宿代、街へ入るための金額などから換算すると、日本円では銅貨が百円、銀貨が千円、金貨が一万円ほどになる。金貨二十枚ということは二十万円くらいか。
……もしかしたらエリナちゃんを助けることができるかもしれない。だが、数日前に出会ったばかりの女の子を助けるために、俺のキャンピングカーの秘密が漏れたり、俺が街の人に狙われたりするようなリスクを取るべきなのか?
「………………」
俺は聖人君子なんかじゃない。
自分の命を捨ててまで悪人と戦うようなヒーローでもない。ジーナにこの村を案内してもらった時も、何かあればキャンピングカーを出してすぐに逃げようと、いつも保身ばかり考えていた人間だ。
今もこうして苦しんでいる女の子を目の前にして、反射的に人を助けるために動ける人とは違い、自分の立場のことを考えてしまうくらいちっぽけな男だ。
だけどな、そんなちっぽけな男で、自分のことを何よりも考える男だからこそ、俺はエリナちゃんを助けたい!
ここでエリナちゃんを見捨てて、明日見る景色が綺麗だと感じることができるか? 明日食う飯が旨く感じるか?
そんなわけがないだろ!
偽善だろうと自己満足だろうと知ったことか! 俺は俺が明日の生活を楽しむため、俺自身のためにエリナちゃんを助けるんだよ!
「ジーナ、なんとかなるかもしれない」
「っ!! ドルダ病の特効薬を持っているのですか?」
「いや、特効薬は持っていない。だが、一日で街まで行って帰ってくることは可能だ。あとは特効薬を買うお金だが、それもなんとかなるかもしれない」
「本当ですか!? シゲト、私にできることならなんでもします! お願いします、どうかエリナを助けてください!」
俺に向かって深く頭を下げるジーナ。
「まずは村長さんと話をしたい。ジーナ、フー太、一緒に来てくれ」
「はい!」
「ホー!」
エリナちゃんの家の前にいる村長さんを呼び出し、村の人達から少し離れたところに来てもらった。
「シゲト殿、こんな状況になってしまい申し訳ありません。シゲト殿はどうか気になさらず村を出てください。旅の無事をお祈りしております」
こんな状況になっても、ジーナと同じで俺のことを気遣ってくれている。
「村長さん、落ち着いて聞いてください。もしかしたらですが、エリナちゃんを助けられるかもしれません」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、そのためにいくつか確認をしたいんです。まずは街でドルダ病の特効薬を売っている場所を知っている人は誰がいますか?」
驚いている村長さんに、俺は冷静に必要なことを聞いていく。
「私とヨル婆、それと護衛として街までついてきたことのあるベルクが知っております。ですが、あの街までは歩いて五日はかかります。仮に馬がいたとしても数日はかかってしまいます」
「距離については問題ないと思います。どちらかと言えば特効薬を買うための資金の方が問題ですね。俺が昨日使った香辛料なんですけど、高く売れると思いますか?」
俺はこのプランの一番肝心なところを村長さんに聞いた。
「……ええ。しかるべき場所に持っていけば、高い金額で引き取ってくれると思われます」
「それならいけるかもしれませんね。誰か一人、俺と一緒に街まで行ってくれませんか? あとは香辛料を買い取ってくれる商店を知っている人も必要ですね」
「でしたらどちらも知っている私が行きます! 村にいても医学の知識のない私にできることは何もありません。エリナのことはヨル婆に任せております」
「わかりました。確実に助けられるという保証はないので、この件はみんなにはまだ話さないでください。ジーナ、護衛として街まで一緒についてきてほしいんだけれど頼めるか?」
「もちろんです!」
よし。香辛料の金額次第ではあるが、これならエリナちゃんを救える可能性は高い。
「村長さん、俺達が街に入るためのお金だけ用意してもらって、急いで村の入口を出て少し歩いたところまで来てください」
「わかりました」
「お待たせしました。みんなには話をして明日までには戻ると伝えてきました。ですが、いったいどうやって……」
そう言いながら村長さんがこちらに歩いてくる。
村の入口を出て少し歩いた場所。ここなら門番の人からも見えない。キャンピングカーを見せるのはいいが、できる限りは秘密にしておきたいからな。
「それでは、今から起こることはみんなには秘密でお願いします」
村長さんの目の前でキャンピングカーを出す。何もない空間から突然現れた巨大なキャンピングカーに驚き、村長さんは文字通り腰を抜かした。
「なっ、なな、なんですか、これは!?」
「これはキャンピングカーというシゲトが召喚した魔物です」
「ホー!」
ジーナが説明をしてくれるが、実際にはちょっと違うんだよな。とはいえ、今はそんな説明をしている暇はない。
「細かい説明は走りながらしますが、このキャンピングカーなら、五日歩く距離を半日もかからずに進むことができます」
「なっ、なんと!?」
「この魔物はそれほど速く走ることができるのですね……」
村長さんもジーナも、俺が話したあまりの速さにとても驚いている。
「ジーナ、今更魔物の腹の中が怖いなんて言うのはなしだぞ」
「もちろんです、シゲト! エリナを救うためならば、どんなことでも覚悟しております!」
「は、腹の中……」
ジーナの方はエリナちゃんを助けるための覚悟ができているようだが、村長さんの方は少し顔を青くしている。そりゃいきなり魔物の腹の中とか言われたら、怖くなるのも当然だろう。
「村長さん、腹の中というのはたとえです。ほら、こんな感じでこのキャンピングカーの中に入って、中からこいつを動かすだけです。こんな感じで簡単に出入りもできますよ」
「ホー♪」
俺はキャンピングカー後部のドアを開けて、中に乗り込んだり、出てきたりしてみせる。フー太も俺と同じようにキャンピングカーの中に入ったり出たりしてくれている。
「な、なるほど……」
俺だけじゃなくフー太もキャンピングカーの中に入っていくのを見て、村長さんも少し安心してくれたみたいだ。
「そっ、それでは失礼します」
まずはジーナが恐る恐るキャンピングカーの中に足を踏み入れる。
う~ん、本来ならばキャンピングカーはもっとウキウキして入るものなんだけれど、こちらの世界の人にそれを求めるのは酷というものか。
「み、見たことないものがいっぱいありますね……それにしても中はとても広いです。本当にこれが魔物の体の中なのですか?」
ジーナはまだ魔物と信じているようで、見当外れなことを言ってくる。
「そもそもこれは車といって、実際には魔物とは違うんだよ。中には危険な物もあるから、あんまり触らないでね」
「き、気を付けます!」
「こ、これはすごいですな」
とりあえずジーナも村長さんも無事にキャンピングカーに乗り込んだ。
さあ、街まで急ぐとしよう!
「街はあっちの方角でいいんですよね?」
「え、ええ。この道をひたすら道なりに進んでいけば、オドリオの街へ行けます」
「わかりました。念のために村長さんかジーナのどちらかは道案内のため前に来てください」
「私が前に行きます」
「わかった。ジーナ、シートベルト――ええっと、この安全用の紐みたいなものをこう付けてね。村長さんも後ろのソファ……イスに座って、ジーナと同じようにこの紐を付けてください」
「わかりました。すごい、この紐は伸び縮みするのですね。ええっと、これを……」
「な、なかなか難しいのう……」
ジーナが助手席に座り、後ろのイスに村長さんが座るが、二人ともシートベルトをうまく付けられないようだ。確かに初めてシートベルトを付けるのは難しいのかもしれないので、二人を手伝ってあげた。
「フー太はどうしようかな、俺の席だと少し邪魔になっちゃうかもしれないし……」
「ホー……」
さすがに運転席の俺の上にいると少し運転の邪魔になってしまう。それにたぶんフー太も危ないだろう。
後ろにいてもらうのもいいのだが、ジーナと出会った時に、フー太は俺よりも早くジーナに気付いたし、目がとても良いようだ。できれば前にいてもらい、何かあればすぐに教えてほしい。
「フー太様、よろしければこちらに」
「ホー♪」
シートベルトを締めたジーナの上にフー太が飛び乗り、ジーナがフー太を抱きかかえた。確かにこれならフー太もジーナも前を見ることができる。ジーナも森で狩りをしているらしいから、きっと目はいいだろう。
……少しだけジーナに抱きかかえられているフー太が羨ましかったりもするが、今はそんなことを考えている場合ではない。
「それでは出発しますね。スピードが出るので気を付けてください」
「は、はい」
「わ、わかりました」
幸いオドリオの街らしき場所まではカーナビの範囲内だったようだ。
カーナビを操作し、手動でピンを留めてセットする。
地図を見てオドリオの街までの道を確認したところ、村長さんの言う通り、このままこの道沿いにまっすぐ進めば街へ着くようだ。
『目的地が設定されました。目的地まで案内を開始します』
「きゃっ!?」
「ぬおっ!?」
「この声に害はないので気にしないでください」
カーナビの音声が流れるが、オドリオの街までは基本的に道なりに進むだけなので、案内はそれほど必要ないだろう。
アクセルを踏んで徐々にスピードを上げていく。
「きゃあああ!」
「こ、これはなかなか揺れるようじゃな」
二人とも初めての車だからしょうがない。しばらくすれば慣れるだろう。ジーナも可愛らしい悲鳴を上げるのだなという、どうでもいい情報がわかった。
時速五十キロメートル以上のスピードで街までの道のりを飛ばす。もちろんこのキャンピングカーの最高時速は倍以上出せるのだが、舗装されておらず、人や魔物が突然現れるかもしれないこの道ではこれが限界だ。
徒歩で五日ということは、多く見積もって一日三十キロメートル進むと考えても、街までは約百五十キロメートル。三時間あれば到着できる予定だ。
「よ、ようやく慣れてきましたね。こ、こんなにも速く動ける魔物が存在するとは思いませんでした……」
「う、うむ。世界は広いのう……」
走り始めて約十分、ジーナも村長さんもようやく車のスピードに慣れてきたみたいだ。初めは一言もしゃべらずに青い顔をして無言だった。初めて車に乗る人はこういう反応になるんだな。
この道は舗装なんてされていないし、人もそれほど通らないせいか、キャンピングカーはだいぶ揺れる。以前に車体強化機能を拡張したけれど、振動までは軽減されないようだな。
ちなみに、昨日の夜に村の外までジーナについてきてもらい、連日使用してほとんどなくなってしまったアウトドアスパイスをキャンピングカーの中に置いておいたが、満タンに補給されていた。
予想通り例の調味料・香辛料補給機能は、このキャンピングカー内にある一番少ない調味料か香辛料を補給する機能で正解のようだ。
よし、これなら街へ行ってアウトドアスパイスを売っても次の日には補給されそうだな。
この世界で香辛料が高価ならば、アウトドアスパイスやコショウを売ってお金を稼ぐことなんかもできそうだ。
「……というわけで、これはキャンピングカーと言って、速く動かすことができる馬車のようなものなんだよ」
「な、なるほど……」
道中、キャンピングカーのことをジーナと村長さんに説明する。
「ふむ、つまりは己の魔力を使って動かす魔道具のようなものなのですね」
「ええ、そんなところです」
ジーナの方はまったくわからないといった様子だったが、村長さんの方は多少理解してくれた。とはいえ、俺も車の詳しい仕組みなんて知らないので、魔力を使って走ることができる魔道具のようなもの、という村長の話に合わせた。
どうやらこの世界には、魔道具という魔力を使って様々な効果を得ることのできる道具があるらしい。俺のキャンピングカーもその魔道具ということにしておけばいいだろう。魔物使いと説明するよりもこちらの方がわかりやすい。
そして走りながら確認したところ、拡張機能のためのポイントが昨日の夜から1ポイント増えて2ポイントになっていた。昨日はまったく走っていないので、二日に1ポイント増える可能性が今のところ一番高い。もう二日経ってポイントが増えているかを確認したいところだ。
キャンピングカーで走らなくとも、二日に一回ポイントが増えてくれるのは本当にありがたい。とはいえ、キャンピングカーで走らなければレベルアップの方はできないから、どちらにせよ走らなければならない。
「ホー!」
「シゲト、前方右斜めに魔物がおります!」
「了解!」
ブロロロロロ。
キャンピングカーのハンドルを少し左に回し、少しだけ道を逸れて魔物をかわしてから元の道へと進路を戻す。先ほどから、魔物がちらほらと姿を現している。
どうやらジーナもかなり目が良いらしく、キャンピングカーを走らせている間はフー太と同様、前方に魔物や障害物などが見えた時にはすぐに教えてくれる。二人のおかげである程度スピードを出しても、早めに危険な魔物や障害物を察知して回避できていた。
「……よし、予定通り行きそうだ」
走り始めてもうすぐ三時間が経とうとした頃。
「おっ、もしかしてあれが目的の街か?」
「は、はい、あれがオドリオの街です。し、信じられない……まさか本当にこんな短い時間で街まで来られるなんて!」
「ま、間違いないぞ! 歩いたら五日もかかる距離をたった数時間で走ることができるとは……」
ジーナと村長さんがほとんど同時に驚いている。
道の先に大きな壁が見えた。あれが街の外壁なのだろう。これだけ大きな壁ということは街もかなりの大きさで間違いない。
村からここまでの道のりはあまり人が通らないようで、大きな荷物を背負った商人のような人と、ファンタジーのアニメで見たような冒険者の格好をした三人組を追い抜いただけだった。
二組ともこの街に向かっていたようだが、きっと俺達が通り過ぎた後はポカンとしていたに違いない。
俺は街の入口から少し離れた場所にキャンピングカーを停めた。そして街の中に持っていくものをリュックに詰めていく。商店に売る予定である香辛料、もし香辛料だけでは足りなかった場合に高値で売れそうなキャンプギア、自分達の身を守るための護身用具を持っていくことにした。
ジーナ達とキャンピングカーを降りて、車体に触れて車体収納機能を発動させると、それまでそこにあったキャンピングカーの車体が一瞬で消える。
「や、やはり何度見てもすごいですね。あれだけ大きな魔道具が一瞬で消えてしまいました」
「……ふ~む、これほどすごい魔道具は初めて見たのう」
「さあ、街の中に入りましょう。あっ、でもフー太は街へ入らない方がいいのかな? 確か森フクロウは狙われる可能性があるんだっけ?」
「ホー……」
フー太がとても残念そうな顔をしている。だが、そっちの方がフー太にとっては安全だし、この小さな林がある場所で待ち合わせをした方が良いのかもしれない。
フー太は体を大きくすることはできるけれど、これ以上小さくすることはできないらしい。
「いえ、薬を売っている店も、物を買い取ってくれる商店も大きな通りにあるので、大丈夫だと思います。それにいざとなればジーナがおりますから」
「ジーナが?」
「ええ。ジーナの実力は、この街にいる腕利きの者にも引けを取らないと思いますよ」
「今度こそシゲトとフー太様を守ってみせます!」
「ああ。お願いするよ」
ジーナが強いとは聞いていたけれど、そんなに強かったのか……
言われてみると、確かに風魔法を使えていたし、あの巨体のディアクを正面から相手していた。
昨日村長さんに聞いたところ、この世界では魔法を使える適性のある人はとても珍しいようだ。元の世界で見たファンタジー作品のように、すべての人が魔法を使用できるというわけではないらしい。
……出会った時から森で迷って空腹で倒れたり、お腹がすいている状態で更にお腹がすく魔法を使ったりしたジーナ。どこか抜けているところしか見ていなかったから、ジーナがそんなに強いだなんて正直想像できない。
「それとフー太様はシゲト殿の肩から離れないようにお願いします。空を飛んでいると、街にいる他の者に捕らえられてしまうかもしれません」
なるほど、空を飛んでいると、野生の森フクロウと思われてしまうのかもしれない。
「ホー?」
「街にいる間は俺の肩から離れないようにな」
「ホー!」
やはりフー太は村長さんの話も理解することができないので、村長さんに代わって俺がフー太に伝えた。
さあ、いよいよ街の中に入るぞ。
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