いじめられて死のうとしていた俺が大魔導士の力を継承し、異世界と日本を行き来する

タジリユウ

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第25話 ただのチンピラじゃねえか!

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「それじゃあそっちの男と勝負して勝った方がゆかりの護衛をするってことでどうだい?」

 茂木さんがいきなり訳の分からないことを言い始める。

「いえ、困ります! 彼は友達の大切な友人なんです!」

「大丈夫、大丈夫! 俺ちょうど練習用のグローブ持ってるから怪我させないし。ほら、そこの君。君もどっちが強いかはっきりさせた方がいいっしょ?」

 すごいなこの人、佐山さんの話をまったく聞いていない。

「ほら君の分のグローブだ。このグローブは結構厚めの綿が入っていて、思いっきり打っても全然痛くないから安心してくれ。さすがに蹴りは危ないからなしにしよう。ルールはシンプルに五発相手に打ち込んだ方の勝ちでいこうぜ」

 左右のグローブをこっちに投げてくる。ここまで自分勝手な人は初めて見たな。こっちの話も聞かずにルールまで勝手に総合格闘技にされてしまったぞ。一応俺は柔道を習っていることになっているんだけど。

「茂木さん、困ります! やめてください!」

「いいですよ、茂木さん。ルールはそれでいきましょう」

「立原くん!」

「大丈夫。あっ、ひとつだけお願いがあるんだけど……」

 川端さんが止めようとしてくれるがまあ問題ないだろう。一応念には念を入れて川端さんにひとつお願いをしておく。

「茂木さん、もし俺が負けても俺が佐山さんの護衛を降りるだけで、茂木さんが護衛をするのが決定じゃないですからね。そもそも俺が護衛をすることだってまだ決まってませんでしたから」

「おっと、そうだね。俺としたことがゆかりの意思を聞かずに話を進めてしまうところだった。君の言う通りどっちが勝っても護衛を頼むかはゆかりの意思に任せようぜ。まあ俺の活躍を見ればゆかりも俺を護衛に選ぶことは間違いないしな」

 今まさに現在進行形で佐山さんの意思を何ひとつ聞いてないんだけどね。

「あの立原さん、本当に大丈夫ですから! 茂木さんのことは社長に頼んでなんとかしてもらいますから!」

「いえ大丈夫ですよ、もし茂木さんが勝ってもこんな場所で問題を起こしたと言って2人とも護衛にしなければいいだけですから」

「いえ、そうじゃなくてあの人総合格闘技の大会にも出てたんですよ! いくら綿の入ったグローブだからって怪我しちゃいますから、危ないことはやめて下さい!」

「立原くん、ゆかりには悪いけどやっぱり護衛はもういいから帰ろう!」

「ああ、ここからは俺の意思なんで怪我をしても自己責任ですから安心してください。それにもし断ったら多分あの人ずっと付いてきますよ。むしろあの人がストーカー以上に面倒になるかもしれませんし」

「準備はいいかい? それじゃあ早速始めようか?」

「はい、グローブもつけました。それじゃあ外に行きましょう」

 2人が止めるのを抑えて茂木さんの方へ進む。

「別にすぐに終わるしここでもいいじゃん。ゆかり、ちょっとだけ離れていてね。それじゃあ行くぜ!」

 っておい、正気かよ! いくらこの控室が広いといっても4~5m四方くらいしかスペースがないし、物や荷物も散乱している。それにこんなところでグローブ持って喧嘩してたら問題になるに違いない。

 そしてまたこちらの了承が取れていないのにもう襲いかかってきたし、頭おかしいんじゃねえのかこの人!もういいや、この人の体面を考えて誰も見てないところで僅差で勝とうと思ってたがもう無理だ。



 ダダダダダ

「……はあ!?」

 見切りスキルでゆっくりと動いて見える茂木さんの攻撃をかわしながら軽~く5発左右のグローブで攻撃を当てる。

「はい、こちらの攻撃が5発当たったのでこれで俺の勝ちですね。ではこれで失礼します」

 ちゃんと向こうの言うルールで戦ったしこれで文句はないはずだ。

「なにあれ!? 速すぎっ!」

「えっ、茂木さん弱すぎない?」

「なにあれ、めっちゃ格好いい!」

 当たり前だがこんな騒ぎを起こしているのでたとえ控室の隅でやっているとはいえ、すでに全員の注目を浴びている。だから外に行きたかったのにこの人は。

「ちょっ、ちょっと待て! そっ、そうだね確かに君の攻撃は当たったけどまだたったの2発だ。まだあと3発当たるまでは終わりじゃないさ。まさか君がこんなに強いとは思わず油断していたよ! さあこれからはこっちもマジで行くぜ!」

「……ちゃんと5発当てましたけど」

「うっ、うるせえ! いいからさっさと構えろ! おら、行くぞ!」

 さっきからだんだんと凶暴になってくるな、もはやただのチンピラじゃねえか!

 確かに本気というだけあって、さっきよりも早い左で俺の顔面を狙ってきた。だが、それでも俺にとっては遅すぎる。さっきと同じように攻撃を交わしながらもう一度軽く5発攻撃を当てる。

「くっ、くそ! あっ、あと一発当てられたら俺の負けだな! だがここから逆転してやる! おらあ!」

 いやもうとっくにオーバーキルしてるんだよ! めんどくせえ!

 それにこの人周りもまったく見えていない。2人で一緒に護衛とかもありかと思っていたけどもう無理だなこれは。

 パン

 茂木さんの左拳が俺の顔面に当たる。うん、特に痛みはないな。レベルを継承して肉体が強くなっているからか綿が入っているおかげか分からないが、まったく痛みはない。

「よし、これでこっちの一発だな! 勝負はまだこれからだぜ」

 少し距離を取り一発攻撃が当たったことにより喜びをあらわにする茂木さん。もうさっさと終わらそう。

「……それじゃあ今度はこっちから行きますね」

「はっ、はや!?」

 パン
 
 軽く茂木さんの頭を叩く。いくらなんでもこれでもう言い訳もできないはずだ。

「……俺の負けだ」

 よかったようやく負けを認めてくれたようだ。

「「「おおおおお!!」」」

「「「きゃあああ!!」」」

 ……もういろいろと手遅れな気がしないようでもない。
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