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第89話 天災
しおりを挟む避難する人達の波に逆らってサーラさんの屋敷に進む。とりあえず天災とはなんなのかをダルガさんに確認しないとな。
「マサヨシ殿!」
「ダルガさん、いったい何が起きているんですか?」
今日はいつもより門番の人達も少ない。もしかしたら避難の準備を進めているのかもしれない。
「先日は大丈夫とお伝えしたのに申し訳ありません。まさか天災がこちらに向きを変えるとは……」
「いえ、それよりも天災とはなんなのですか?」
「そうですね、マサヨシ殿は遠い場所から来たのですから天災のことはご存知ありませんよね。この国のものなら誰でも知っている存在となります。マサヨシ殿は変異種という存在をご存知でしょうか?」
「あ、はい」
ちょうど少し前にブラッドリーの街で狼型の変異種を倒したばかりだ。なんだ、天災というのはただの変異種ってことか? それなら冒険者や騎士団を集めて倒せばいいだけじゃないか。
「ご存知でしたか。実はその天災なのですが、変異種の中でもかなり特殊な存在となります。変異種の中の変異種とでも言うべきですか……
記録によるとその変異種が発生してからすでに約300年の時が過ぎておりますが、誰ひとりとして天災を討伐することができておりません」
300年!? なにそれ、変異種に寿命とかないのか? いやまて、300年と言ったな。てことはまさか……
「そう、かの大魔導士であるハーディ様にも天災の討伐は成し得ることができなかったのです」
……あっ、これ無理ゲーだ。
そのあとは場所を移して詳しい話をダルガさんから聞いている。
なんでも変異種である天災が現れたのは300年ほど昔。当時別の国にブラッドリーの森のような魔力が溢れている場所があり、そこでその変異種は生まれたらしい。
当時の国はすぐに討伐部隊を組織して討伐に向かわせたのだが、その変異種を討伐することができなかったようだ。そのあとも何度も討伐部隊を送ったのだが、そのたびに討伐は失敗。
だが討伐による被害者も毎回ゼロだったという謎の現象が起きていた。というのも、普通の変異種という存在は周囲の魔物を凶暴化させ、自身も凶暴になるという特徴があるのだが、この変異種にはそれがないらしい。
攻撃を仕掛けてくる冒険者や騎士団にも反撃をせずに、ただひたすら餌である木の葉っぱを食べているだけだったようだ。
そしてその森の木の葉を食べ尽くした変異種はゆっくりとその歩みを進め、以降はこの大陸中を自由に動き回っているそうだ。そこに村や街があろうとも変異種はその歩みを止めることはなく、その巨体が通ったあとには無残なガレキが残るだけだ。
ゆえに天災、誰もその変異種の歩みを止めることはできず、その変異種の通り道にあるものは例外なく破壊される。対する生物ができることはその通り道から逃げ出すことだけである。
「それにしても大魔道士の力でも倒せないというのは正直に言って信じられないのですが……」
俺が引き継いだ大魔道士の魔法やスキル、レベル。今までその能力で倒せない敵はいなかった。あのドラゴンや破滅の森の魔物ですら上級魔法で一発だったが、その能力ですら倒せない生物など存在するのか?
「その天災は特殊な能力を持っており、その能力が大魔道士様との相性と最悪なのです」
「特殊な能力?」
そういえば、俺が倒した狼型の変異種も分裂するという特殊な能力を持っていたな。もしかしたら変異種はそれぞれが特殊な能力を持っていたりするのか?
「その能力は魔法の無力化。どんな強大な魔法も天災には届かないのです」
……それは厳しい。いくら大魔道士とはいえ魔法が効果はない変異種を相手にするのは難しいだろう。もちろん肉体強化の魔法とかは使えるのかもしれないが、それでも無理だったということだろう。
「でしたら剣に強い……例えば剣聖といった存在はいないんですか?」
「もちろん剣聖や腕に自信のある者も大勢が挑んだのですが、変異種の身体はとても巨大で硬く、傷を付けるのが精一杯だったようです」
剣聖でも傷をつける程度か。俺は大魔道士の力を継承しただけで、しかもそのすべてを使いこなせてなどいない。そんな俺が大魔道士も倒せなかった天災とやらを倒すのはまあ無理だな。
「とはいえ人を襲ったりはしないので一時的に避難し、天災が通り過ぎたあとに戻ってくるということができます。あとはまた天災が方向を変えることを祈るしかないでしょうな。
我々はサーラ様と共にしばらく隣の街に避難しております。何か御用がありましたら、お手数ですがそちらまでお願いします」
「う~ん、何かできそうなことはありませんか? 例えばこの街の前に大きな防壁を作るとか?」
「何度か防壁を築いたこともあったのですが、なぜかあの天災は方向転換をせずにそのまま防壁を突き破って進もうとするらしいのです」
……なんとも面倒なやつだな。
「あとは魔法が駄目なら大きな火を起こして火炙りにするとか?」
「山ひとつ丸ごと燃やしたのですがびくともしなかったとの記録も残っております」
どないせいっちゅうねん! いや、どうもできないから300年間も放置されているのか。
「この国では災害と思って諦めるしかないのですよ。今も天災を倒そうと、腕に自信のある者が挑んでおります。倒すことはできなくとも、反撃はされないので挑戦してみるのもよいかもしれませんな」
……まあ反撃してこないというなら挑戦してみようかな。
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