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第90話 極大魔法
しおりを挟むというわけでダルガさんに教えてもらって、その天災とやらを実際に見にきた。というかダルガさんに聞くまでもなかった。天災と呼ばれる変異種、その大きな亀型の魔物は街を出てすぐに見えるほどの大きさだった。
巨大と聞いていたが前に倒したドラゴンよりもはるかに大きい。比喩ではなく本当に山のようだ。300年生きてきたということを証明するかのように、大きな甲羅にはビッシリと苔やツタなどが生い茂っていた。
うん、こんな巨大な魔物を魔法は使わずに倒すのは無理ゲーだな。実物を見るまでは正直に言って、反撃してこないならひたすら攻撃を続ければいけんじゃねとか思っていた。だが、これは無理だ。
なんだろうな……気分的にはゾウに挑む犬とか、犬に挑むネズミとかの気分だ。サイズ的にもそんなものかそれ以上だ。やはり身体の大きさというのはそれだけで大きな武器となる。そしてその理不尽を覆せるはずの魔法が効かないのはチートすぎるだろ!
「ちくしょう、俺の力じゃ歯が立たねえ!」
「くそ、武器の方が欠けちまった! なんて硬さだ!」
天災の足元までやってくると10人近くの人がいた。格好から察するに冒険者や騎士団の人達だろう。反撃しないというのは本当らしく、何度も剣や斧で顔や目を斬りつけているというのに完全に無反応だ。
そしてようやく天災の顔の全貌が見えたが、まさしく亀だな。そもそも頭の大きさだけで30m以上あると言えば、全体の大きさが少しくらいはわかるか。
しかしその歩みだけは巨体の割にあまりに遅い。普通の人が歩くよりもさらに遅いのかもしれない。これならルクセリアの街に着くまでにまだかなり時間がありそうだな。
「お前らじゃ無理だ、どいてな。俺がやってやる!」
「あ、あんたはまさか! オーガ殺しのドレインじゃねえか!」
「なに! まさかあのA級冒険者のドレインか!?」
……あれ、なんだか見覚えのある人がひとりいる。確か前回の変異種の時に一緒に戦ったドレインさんだ。
あの時は小型の魔物だったから、ドレインさん自慢の大剣との相性が悪かった。だが今回は大剣と相性の良い大型モンスターだ。もしかしたら……
「見せてやるぜ! これが現役A級冒険者の力だああああああ!」
オーガ殺しのドレイン、その二つ名はとある街に突然現れ……以下略。
ギィィンッ
「んなっ!」
力強く振り下ろされたその大剣、しかしその大剣は変異種の肉を切り裂くことなく、変異種の表皮に弾かれてしまった。
「相棒ううううう!」
そしてドレインさんの大剣の剣先が折れて宙を舞った。まじか、あんなに頑丈そうな大剣でも折れてしまうほどの硬さなのか。
「うう……」
ドレインさんは折れた大剣を抱えて蹲っている。よっぽど愛着があったのだろう、あまりに悲惨すぎて誰も声をかけられないようだ。さすがに俺も声をかけられない……
さて、どうするかな。あの巨体で魔法が使えないとなるとお手上げなんだがな。とはいえ反撃をしてこないなら、攻撃を試してみない理由はない。
しかしあそこには知り合いのドレインさんがいる。とりあえず正体は隠しておきたい。となるといつものこの仮面か……一応鎧もいつも使っている物とは違うのにしておこう。
「おい……なんだあいつ?」
「ぷっ、おかしな仮面をかぶってやがるぜ」
「しかも魔法は効かねえってのに杖持ってやがるな」
上等な鎧に黒い仮面に魔法の杖、うん確かこの格好は王城に忍び込んで第一王子と第二王子を脅して以来だな。
「少し離れてください」
「うおっ、変な声!?」
「いろいろとヤバいやつだな。おい、ちょっと離れようぜ!」
「ああ」
……うん、理由はどうあれ離れてくれたのなら、それでいいや。ドレインさんも蹲ったまま十分離れているし問題なさそうだ。
「さて、遠慮はいらなそうな相手だな」
天災の前に対峙するとものすごい大きさと迫力だ。とりあえず効果のありそうな魔法をひたすらぶち込んでみるとするか。
「サンダーストーム、ウインドストーム、アイシクルストーム!」
「うお、あの野郎! なんて規模の魔法を撃ちやがるんだ!」
「やべ、もっと離れるぞ!」
くそっ、ダメージ無しか。さすがに中級魔法三連発ではまったくダメージを与えられていない。
魔法を無効化するという能力は本物のようで、雷や風、氷の嵐が天災に当たる直前に消滅したように見えたな。魔法自体は発動しているところをみると、天災の周りの魔法だけを消滅させる能力といったところか。
今の魔法でさっきまでいた冒険者や騎士達がさらに距離を取ってくれた。ドレインさんもようやく立ち上がって離れてくれたみたいだな。さて、さらに威力を上げた魔法を試してみるか。
「ライトニングキャリバー!」
バリバリバリバリ
破滅の森にいた魔物すらもケシズミにしてしまうほどの威力がある雷上級魔法、さすがにこれなら……
「駄目か……」
そこには先ほどまでと変わらない姿で、平然と歩みを進める天災の姿があった。上級魔法でも駄目か。確かにこれは大魔導士と相性が最悪だ。大魔導士とは魔法を極めた者の称号、だがその魔法が効かないとなると厄介すぎる。
魔法を無効化する能力に限界があるか、300年もかけてその能力が弱まっていることを祈るしかない。
ならば今まで一度も撃ったことのない最大火力の魔法を撃ってみるとしよう。
「極大火魔法、インフェルノ!」
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