いじめられて死のうとしていた俺が大魔導士の力を継承し、異世界と日本を行き来する

タジリユウ

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第167話 こちらの世界へ

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「……なるほど、そういうことか」

 大魔導士のお墓参りを終えて、大魔導士の家の中に移動してきた。俺がこの世界に来た時に机の上に置いてあった大魔導士からの手紙をアンデに見せ、この世界に来た経緯や大魔導士の力を継承したことを話した。

「だから俺は大魔導士ハーディの弟子というわけじゃない。大魔導士と話したこともないし、たまたま俺の部屋に異世界の扉が繋がっただけなんだ」

「………………」

 アンデの沈黙が少し怖い……アンデは長い年月をかけて自らを鍛え上げたのに対して、俺は大魔導士の力を継承しただけだ。それこそチートだろ、ふざけるなと怒っても不思議はない。

「……やっぱり怒っているのか?」

「怒る? ……ああ、師匠の力を受け継いだからか? そんなことは気にしていない。師匠が研究し続けた異なる世界、その扉を開いた者にすべての力を継承するというのは師匠の遺志だ。

 むしろ、師匠の力を大切な者を守るために使い、我を最後まで殺そうとしなかったマサヨシのような者に、師匠の力が継承されたのは、我も良かったと思っているぞ」

 ……そこまでストレートに言われるとさすがに恥ずかしいのだが。というか途中からは無我夢中でアンデを殺すつもりで戦っていたとは言い難い。

「それよりも異世界とこの世界を繋ぐという、この魔法の仕組みが気になってな」

 なんだそっちのほうか。マジックイレイザーも自分で作った魔法と言っていたし、魔法の知識も相当なものなんだろう。

「確かそのあたりに異世界の扉について大魔導士が書いた本があるはずだ」

「ほう……あとでぜひ読ませてもらうとしよう」

 俺も読んでみたことはあるのだが、何が書いてあるのかさっぱりわからなかった。この世界の文字自体は言語理解スキルで理解できるのだが、魔法のことについて何を書いてあるのかさっぱりだった。

「マサヨシの事情については理解した。さて、それでは行くとしようか」

「……へっ?」





「これが異なる世界か……我の住む世界とはまったく違うのだな……」

「ホー!」

「………………」

 なぜか俺はアンデとフー助と共に日本の道を歩いている。大魔導士の家で俺の事情を話し終えたあと、扉を通って元の世界に戻ってきている。

 そりゃまあ目の前に異世界へ行き来できる扉があるなら、異世界へ行ってみたいという気持ちもよくわかる。ひとりで勝手に行動されるよりは、俺が一緒にいたほうがまだマシだ。

 少なくともアンデは今更俺をどうこうする気はないように思える。俺を殺そうと思えばいつでもできた。……というより俺も気を抜き過ぎていたな。今まで脅威と感じられることはほとんどなかったから当然と言えば当然なんだが。

「さっきも言ったけれど、基本的に魔法は使ったら駄目だからな」

 アンデが日本を歩く際の注意点を説明をした。こちらの世界はアンデ達の世界と違って魔法というものが存在しない。その代わり科学が発達しており、電気という力を使っていると教えた。

 アンデは魔法のない世界が存在することに本気で驚いていたが、俺達からしたら魔法がある世界が存在することに驚いた。

「しかし本当に魔力を帯びた物が存在せんとはな。なんだか不思議な世界だ」

「俺達からしたら魔法がある世界のほうが不思議なんだけどな。……おっと前から人が来る」

 道を歩いていると前から人がやってくる。だがその人はツッコミどころ満載のアンデの格好をスルーして過ぎていく。

「……やはり人がいる場で会話ができんのは不便であるな。それにこの世界は人が本当に多い」

 今アンデは隠密スキルを使っている。俺は意識できるのだが、他の人にはアンデという存在は気付かれていない。しかし、アンデと俺が会話をすると隠密スキルが解けてしまう。

「今のアンデの格好は目立ち過ぎるから、もう少し我慢してくれ。まずはこちらの世界の服を買いに行かないと」

 今のアンデの格好は中世時代の服に黒いロングコートとひたすらに目立つ。しかも綺麗な金髪に赤い瞳、さらには尖った耳と、むしろ目立たない要素がない。逆にここまで振り切っていたら、コスプレイヤーにしか見えないだろうけど、目立たないに越したことはない。



「ふむ、着心地は悪くない。それにだいぶ涼しくなったな」

 安めの服が売っているとあるチェーン店。とりあえずアンデの服を揃えに来た。Tシャツにズボンにスニーカーと一通りはこちらの世界の格好に馴染んだ姿になったな。その長い耳はニット帽で隠している。これで普通の外国人にしか見えなくなったから、隠密スキルを切って歩いても大丈夫だ。

 しかし、まさか向こうの異世界から日本に初めて来る人がアンデになるとは思ってもいなかったな。これで異世界の住人もこちらの世界に来られることが分かったし、サーラさんやリリスさん達をこちらの世界に連れてきてもいいかもしれないな。

 ……というかサーラさんには求婚されたばかりだった。さすがに今この状況で会いに行くことはできない。どんな答えを出すにせよ、しっかりと考えないといけない。

「服も着替えられたし、そろそろ何か食べないか? 朝から何も食べていなかったから、お腹が空いてきた」

「うむ、構わんぞ」
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