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三日目(その一)
しおりを挟む朝起きて、私は今、部屋の扉の前にいる。
なんだ、この張り紙。
『ユリちゃんへ
声をかけるまで下りてこないでね
僕の選んだ洋服を着て、出かける準備をして部屋で待っているように 環』
昨日の午後、お茶をいただいている途中で眠ってしまい、その後起きてからなにやらふたりの様子がおかしかったのだが……それがまだ、続いているのだろうか?
* * * * * *
「んっ……」
なんか、体が少し重い。
「起きたか?」
「……錬?」
目が覚めると、そこには錬がいた。
「……おかえり。……あれ、私どうしたんだっけ?」
起き上がって尋ねる。
「ーーお茶を飲んでて……気づいたら寝てたって、環が言ってた」
「お茶を飲んでて? ……寝てた?」
いつの間にか場所を移動して三人掛けソファにいる。
環くんが運んでくれたのだろうか。
(そうだ。私、環くんが淹れてくれたお茶がおいしくて……そのうち眠くなって。でもなんで寝ちゃったんだろ? 体があったまったのかな?)
「なんで寝ちゃったんだろう」
「……」
錬は黙っている。
「あれ、環くんは?」
「二階の部屋に行ってる」
「そう、すぐに下りてくるかなあ」
「……」
また、錬は黙っている。
「あっ、そういえば錬はいつ帰ってきたの? 予定よりも早かったね」
リビングの時計を見るとまだ夕刻前だ。
「あー、三十分くらい前かな」
「えっ! じゃあ私、三十分以上も爆睡してたんだ」
「……」
またまた、錬は黙っている。
「あっ、そうだ! 私ね、今日蒸しケーキを作ったの、環くんと。うまくできたのかなあ」
そう言ってソファから立ちあがろうとすると、よろけて錬にぶつかり、抱き止めてもらう形になる。
錬に触れると昨夜の記憶がよみがえり、顔が一気に熱くなる。
(そうだった。あれから錬と会うのは今が初めてだ)
「ご、ごめん」
「……」
反応がないのを変に思い錬を見ると、少し戸惑ったような、困った表情をしている。
「?」
(あれ、なんでだろう。昨日仕掛けてきたのは錬と環くんのほうなのに……この表情?)
訝しげに錬を見ていると、それを感じとったのか「あー、俺、環を呼んでくるわ」そう言っていそいそとニ階へと上がっていった。
(……なにか、変だったよね。『なんて顔してんだよ』とか『なに照れてんだよ』とか、そんなリアクションじゃないの? なんであんな困った顔を? ……なんで? 錬……)
しばらくすると、錬と環くんが一緒にニ階から下りてくる。
「あっ、環くん。私、寝ちゃったみたいでごめんね」
ソファから立ち上がり、そう声をかけると、環くんはゴニョゴニョと口の中でなにかを言っている。
「……どうしたの? なに?」
変に思っていると、錬が環くんに肘鉄を食らわす。
「うっ! けほ……。や、やあ、ユリちゃん。いいんだよ、そんなこと。気にしないでくれたまえ。元気そうでよかった、うん」
なに? そのよくわからない受け答えは。
「あの、環くんも錬も、なにか変じゃない……? どうかした?」
「あー! そうだ僕、お風呂の掃除をしようと思ってたんだー」
「え? 風呂掃除は俺だろ? お前はキッチンをやるってさっきーー」
錬の頭を環くんがバシッと叩く。
「痛てーっ!」
「あーはは、じゃあ、僕たちその辺掃除してくるから、ユリちゃんはそこでゆっくりしててねー」
そう言うと、ふたりは一緒に一階の浴室へと入っていったのだった。
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