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三日目(その二十三)
しおりを挟む「違うってば……」
ふたりに両腕を掴まれ、身動きできない。
「じゃあやっぱり、成田春輝のことなのか⁉︎」
錬は腕を離すと、私の頬に手を当て、顔を自分のほうに向けてそう言った。
「えっ? ……違う、それは……違うよ?」
「だったらそのキスマーク、なんだよ! さっきまで一緒にいたんだろ?」
ビクッとする。言葉が出てこない。
「あの……これは……」
「あー、悪かった。言い方キツかったな。ごめん。その……キスマークついてたし、アイツと、ヨリ戻したのかなって」
「違うの、そうじゃないの。これはそうじゃなくて……あの、……その」
言い淀んでいると、環くんが鋭くきいてくる。
「ユリちゃん、……もしかして、アイツに襲われたんじゃないよね?」
環くんは錬の手を外すと、私の顔を自分のほうへと向かせて言った。
「……あー、うん。あ、でもね、もう大丈夫なの。もう、解決したの。だから、なんでもないから」
一瞬沈黙があったかと思うと、ふたりは怒った様子で一気にまくしたてる。
「ユリちゃん! 襲われて、キスマークつけられてなにが大丈夫なの? なんでもないことないでしょ? 一体どういうこと?」
「ーーあの野郎! クールなふりして結局手ぇ出しやがって……。ユリ! お前もお前だ! 大丈夫なわけないだろう! なんでそうなるんだ!」
しまった。余計なことを言ったかもしれない。
私の頭の上からすごい剣幕で怒ってくるふたりに、どう説明をすればいいだろう。
「あの、だから、それは……いろいろ思うところがあって。……とにかくもう、平気なの。ケリは、ついてるのよ?」
「ケリがついてるってなんだよ! そうやってアイツを庇うのかよ」
「そうだよユリちゃん。全然平気じゃないよ! やっぱり、成田春輝のことが好きなんじゃないの?」
あー、どうしよう。怒ってる……ふたりとも、すごく怒ってる。
「違うっ! 違うの。……うー、もう終わった話なの! 信じてよ! 私が好きなのは、錬と環くんなんだからっ!」
あっ……
「あー、違うの……。今の……違うから、ね?」
* * * * * *
錬と環くんが、私の頭の上で顔を見合わせている。
錬が環くんに言う。
「環、ご飯、冷めちゃうけどいいよな?」
環くんが答える。
「いいよー、また後で温め直すから」
そう言ってふたりが私を見つめると、錬がいきなり私を荷物のようにヒョイと肩に担いだ。
「きゃあっ! やだっ、なに? 錬、下ろして!」
「やだね! また逃げられると困るし。それに、このほうが早い」
そう言って私を担いだまま、階段を上っていく。
「待って! やだやだ、階段怖いっ」
背の高い錬に担がれているのだ。それは結構な高さになっていて、落ちそうで怖い。
「大丈夫だよ、ユリちゃん。錬は落としたりしないから」
後ろから付いてきている環くんが、錬の背中にある私の顔の正面でにっこりと笑顔で言う。
私の部屋の前に来ると、錬は私を担いだまま、勝手に扉を開けて中へと入っていく。
「ちょ、ちょっと! 一応今は私の部屋なんだから、勝手にズケズケと入ってこないでよ」
「わかった。じゃあ、入るぞ。これでいいか?」
「いやいや、今言ったからっていいわけないでしょ?」
「ははっ、そうか」
錬はそう笑うと、私をベッドの上に手荒く放り投げる。
「きゃっ!」
そして、私の上に馬乗りになるとニヤリと笑う。
「ふっ、やっと元のユリに戻ったな」
「うっ、なに……するのよ」
「ユーリちゃん♡」
環くんがベッドに膝をつき、顔を近づけて優しく名前を呼ぶ。
「さっき僕たちのこと、好きって言ったよね?」
「言ってない、言ってないよ……ひゃあ!」
錬が首筋にキスをした。
「これ、どういう状況でつけられたの?」
人差し指でトントンと首筋を叩く。
「あ、あの……」
「ユリ、怒ってるんじゃない。ただーー事実が知りたい」
錬が真剣な目で見てくる。
横を見ると、環くんも同じ目をしている。
「あー、……あのね」
私は観念して話を始めた。
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