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一ヶ月後(その四)
しおりを挟む「木花刑事、皆さんが探していますよー」
店員さんが扉を開け、声をかけてくれる。
「ありがとうございます。行きまーす」
「あっ、ユリ、そういえばーー」
「うん?」
「……いや、なんでもない。戻るか」
「うん」
(あの錬って奴、あれからどうしたのか。ユリのところに行ったのか? ……まあ、今は聞かなくていいか。焦って聞いてどうなるものでもないし)
「遅くなりましたー」
席に戻ると、すっかり酔いが回った陽介くんが絡んでくる。
「あー、やっと戻ってきたー。ふたりでどこにしけ込んでたんすかー! やっぱヨリ戻ったんすかー」
「ちょっ、ちょっと陽介さん。なに言ってんですか、もう。すみません、成田警視正、ユリさんも」
「いいよー、岡田くん。陽介くん、ごめんね。遅くなって」
「陽介くん、か? 悪かったよ。俺が話し込んでたんだ」
「いーやっ! 俺は許しませんよー。この後、もう一軒俺に付き合ってくれるんなら、許しますけどね!」
「はは、それは勘弁だな。明日は朝から署に行かないといけないし。また今度ゆっくりな」
「やーくそーくでーすよー」
「ああ、陽介さん、呑み過ぎなんですよ……」
「コイツ……後で今日のこと知ったら大変だなあ、オイ」
セイさんがボソッと呟くと、みんなで笑った。
* * * * * *
(楽しいけれど、そろそろお開きかなあ)
そう思っていると、肩をつつかれる。
振り向くと、課長が襖の向こうへと私を促した。
そして襖を閉めたとたん、神妙な面持ちでいきなり私に謝ってきた。
「ユリ、すまなかった! 成田が桜南署に来ることになって……。今日まで言えなかったんだ。本当にすまん!」
そう言って胸の前で両手を合わせると、頭を下げる。
「課長、そんなのいいんですよ! 本決まりじゃなかったんですよね? それに、こういう話ができないのは私だってわかってますから。大丈夫ですよ?」
そして、少し間を置いて話しかける。
「……そんなことより、課長」
課長が顔を上げると、ひと呼吸置いて言った。
「向こうに行っても、そんないい人だとやっていけませんよ? きっと周りはみんな課長より歳下で……所轄のオッサンがその歳になってなにしに来た、なんて……ひどいこと言われても、負けないでくださいね? ……どんどん手柄を立てて……もっと出世して……私たちのこと……忘れないで……うえーん、ひくっ、今まで……ありが……ござ……ひぐっ、うう」
「おいユリ……、ひどいことを言ってるのは、お前だろう……? ふっ、全く、お前は……」
課長は私の頭に手を置くと、子どもをあやすように、もう片方の手で背中をポンポンと軽く叩いた。
もう、今までのようには会えないのだ。
安心できる大きな胸に、しばらく顔を埋めていた。
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