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十一ヶ月後(その三)
しおりを挟むーー実はエミちゃん、人気が高い。
見た感じはスレンダー、黒髪ストレートのショート、はっきりとした黒い瞳。
キレイで近寄り難そうな見ために反し、性格は人懐っこく気さくで、とってもいい子だ。
私がこの署に来てから、上川課長に初めて紹介されたのもエミちゃんだった。
その後、交通課に行ったときや廊下で会うと、必ず声をかけてくれた。
そう、このエミちゃんが……どうやら成田課長のことを好きみたいなのである。
それはそういうことに疎い私がすぐにわかるほどにーー
「な、成田課長!」
デザートのプチレアチーズケーキに私が手を伸ばすと、エミちゃんが急に立ち上がってそう叫んだ。
後ろを振り返ると、出かけていたはずの成田課長の姿があった。どうやら帰署後、ここに食事に来たらしい。
空いている席があることはあるがーー私はレアチーズケーキを一気に口に入れると、成田課長に声をかける。
「かひょう(課長)! ここはいてまふよ(ここ空いてますよ)」
そう言って急いで席を立つと、エミちゃんに目配せをする。
「ろーぞごうっくり(どうぞごゆっくり)!」
一礼をして早々にその場を去った。
途中トイレに寄り、用を済ませると鏡の前でひとりニヤつく。
(成田課長とエミちゃんかあ。美男美女でお似合いだよなあ、うん。……それに、課長も満更でもなさそうなんだよねー。ふふ、うまくいくといいなあ)
そんなことを考えながら、ふと髪に手をやる。
(……早く、切りたいな)
外から近づいてくる大勢の話し声に、慌てて扉を開け、飛び出していった。
* 十一ヶ月後 終わり *
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