13 / 17
過去と現実の重なるところ
第1話
しおりを挟む
いつもと変わらない水の中。この川は今日も平和だ。
長年この川を見守っていた先代の女王は、川を浄化するためにその命を終えた。この川で一番素質があるからと、あれよあれよと次の女王に私は選ばれてしまった。
今の女王の次はと昔からいわれていたものの、そんな番がこないうちにまた新たに力の強い子が生まれてくるんじゃないかと腹をくくっていた私は、自分の運命にあらがう暇もなく今の座について、引き継いだ仕事を淡々とこなす日々を送っている。
ここは平和な川だ。他の川なんて知らないけれど、問題なんて起こったためしがない。近くに人間が住んで、この川の水を汚すまでは。
でもそれも昔の話しとなりつつある。先代が川を一度浄化する少し前から、汚染されることは減って、今では自然の力で充分に綺麗な水を保てている。
だから私は、このままここでつまらない日々を平穏に過ごしていくんだろうな。
いつかこの世界の外を見てみたいと夢見ていたのはいつの頃だったかな。女王になる前は夢見ていたけれど、女王になってしまっては、ここから外に行くことは余計に叶わなくなってしまった。
何度も考えていることを頭の中でぐるぐる回しながら、私は目的の場所へと向かっている。単調なこんな生活だけれど密かな楽しみがその場所にはある。
違う世界の男の人。その彼の瞳の力強さにいつも胸がときめいた。
水を汚す人間。先代が命を終えることになってしまった元凶。そんな人間の男に私は恋をしてしまった。悪い人間もいい人間もいることは知っているし、この男の人はいい人間だと信じている。
今日も彼は来るかしら。いつも同じような時間にくるから急がなきゃ。
心を弾ませながら泳いでいると、見覚えのない精霊が漂っているのが目に入る。
のんびり昼寝でもしているといった雰囲気でもなさそうで、慌てて近寄ると生きているのか怪しいくらいに息が細い。よく見ると顔がげっそりこけていてかなり衰弱しているようだった。
「ねぇ、あなた一体どうしたの? こんなにぼろぼろで」
声をかけてみるが反応がない。
何か自分たちとは違う雰囲気を感じながらも家に連れ帰って手当をすることにした。
この川では見たことがない。新しく生まれてきたところだとしてもこんなに弱っているのはおかしい。
川の外から来た? 手当の最中に頭をよぎった考えにそんなことがあるはずがないと、頭を振る。
私は綺麗な水が染みだす場所と家を何度も往復して、見知らぬ精霊の看病に努めた。
三日三晩経った頃、ようやく精霊は目を開ける。
「えっと、ここは? あなたは?」
呟くようにいった細い声。私は刺激を与えないように小さくなるべく優しい声になるように気をつけて答えた。
「ここは私の家。私はコモチといいます。あなたは?」
「私はミソカ。あなたが看病してくれたのね。ありがとう」
それだけいえとミソカはまた目を閉じてしまう。
回復していっていることに安心したものの、まだ弱っていることには変わりない。
ただ、もう付きっきりの看病ではなくてもいいだろうと、女王としての務めを再開しつつ、ミソカの看病をする日々を私は送ることにした。
一週間もすればミソカはそこら辺を自由に泳ぎ回るくらいに元気になった。
よくしゃべり、よく笑うミソカがいる生活は、それだけで明るく張りがある。
「ねぇ、ミソカはどこから来たの」
この川に馴染み帰ろうとする素振りを見せないミソカのことは、ここにいて欲しいからこそ余計に気になってしまう。
「いってなかったっけ? 私は海から来たのよ」
「海!?」
外から来たのではと思ってはいたが、いざ本人の口から聞く衝撃は大きい。
「そう。この特別なピアスがそれを可能にしてくれてる」
そういいながら耳のピアスにミソカは触れる。今まで気づかなかったわけではないが、改めて見てみると海の力がギュッと凝縮されたような深い藍色をした丸い石が付いていた。
「私ね、海から逃げてきたんだ。ただ広いだけで、自由なんてない海から、決められた運命が嫌でさ。だからさ、ここにずっといてもいい?」
見たことのない沈んだ顔で語った後、ミソカはにこやかに聞いてくる。それなりに苦労してここへたどり付いたことがうかがえた。
「もちろんよ。ずっとここにいてくれて構わないわ」
手を取ってそういうと、見たことのないくらいにこやかな笑顔でミソカは頷く。
昔から私には友だちがいなかった。
女王になる素質。
精霊は水から生まれ出た時、水とは少し違うものになる。水と精霊との境界線があやふやな存在。それが女王になれる素質。水にどれだけ溶け込めるか、一体になれるかというところが鍵だ。
私は水を通してこの川に起こっている変化はもちろん、他の精霊の位置や感情などがなんとなくわかる力を持っている。
その力のせいで女王にされ、感情を見透かされるのは気持ち悪いと川のみんなには距離を置かれた。女王になってよかったとは感じていない。強いていうなら、女王であることが唯一の居場所だと安心できることだろうか。
ミソカは他の場所から来たからか、私は気持ちを感じ取ることも、どこにいるのかもわからない。それが心地よかった。
長年この川を見守っていた先代の女王は、川を浄化するためにその命を終えた。この川で一番素質があるからと、あれよあれよと次の女王に私は選ばれてしまった。
今の女王の次はと昔からいわれていたものの、そんな番がこないうちにまた新たに力の強い子が生まれてくるんじゃないかと腹をくくっていた私は、自分の運命にあらがう暇もなく今の座について、引き継いだ仕事を淡々とこなす日々を送っている。
ここは平和な川だ。他の川なんて知らないけれど、問題なんて起こったためしがない。近くに人間が住んで、この川の水を汚すまでは。
でもそれも昔の話しとなりつつある。先代が川を一度浄化する少し前から、汚染されることは減って、今では自然の力で充分に綺麗な水を保てている。
だから私は、このままここでつまらない日々を平穏に過ごしていくんだろうな。
いつかこの世界の外を見てみたいと夢見ていたのはいつの頃だったかな。女王になる前は夢見ていたけれど、女王になってしまっては、ここから外に行くことは余計に叶わなくなってしまった。
何度も考えていることを頭の中でぐるぐる回しながら、私は目的の場所へと向かっている。単調なこんな生活だけれど密かな楽しみがその場所にはある。
違う世界の男の人。その彼の瞳の力強さにいつも胸がときめいた。
水を汚す人間。先代が命を終えることになってしまった元凶。そんな人間の男に私は恋をしてしまった。悪い人間もいい人間もいることは知っているし、この男の人はいい人間だと信じている。
今日も彼は来るかしら。いつも同じような時間にくるから急がなきゃ。
心を弾ませながら泳いでいると、見覚えのない精霊が漂っているのが目に入る。
のんびり昼寝でもしているといった雰囲気でもなさそうで、慌てて近寄ると生きているのか怪しいくらいに息が細い。よく見ると顔がげっそりこけていてかなり衰弱しているようだった。
「ねぇ、あなた一体どうしたの? こんなにぼろぼろで」
声をかけてみるが反応がない。
何か自分たちとは違う雰囲気を感じながらも家に連れ帰って手当をすることにした。
この川では見たことがない。新しく生まれてきたところだとしてもこんなに弱っているのはおかしい。
川の外から来た? 手当の最中に頭をよぎった考えにそんなことがあるはずがないと、頭を振る。
私は綺麗な水が染みだす場所と家を何度も往復して、見知らぬ精霊の看病に努めた。
三日三晩経った頃、ようやく精霊は目を開ける。
「えっと、ここは? あなたは?」
呟くようにいった細い声。私は刺激を与えないように小さくなるべく優しい声になるように気をつけて答えた。
「ここは私の家。私はコモチといいます。あなたは?」
「私はミソカ。あなたが看病してくれたのね。ありがとう」
それだけいえとミソカはまた目を閉じてしまう。
回復していっていることに安心したものの、まだ弱っていることには変わりない。
ただ、もう付きっきりの看病ではなくてもいいだろうと、女王としての務めを再開しつつ、ミソカの看病をする日々を私は送ることにした。
一週間もすればミソカはそこら辺を自由に泳ぎ回るくらいに元気になった。
よくしゃべり、よく笑うミソカがいる生活は、それだけで明るく張りがある。
「ねぇ、ミソカはどこから来たの」
この川に馴染み帰ろうとする素振りを見せないミソカのことは、ここにいて欲しいからこそ余計に気になってしまう。
「いってなかったっけ? 私は海から来たのよ」
「海!?」
外から来たのではと思ってはいたが、いざ本人の口から聞く衝撃は大きい。
「そう。この特別なピアスがそれを可能にしてくれてる」
そういいながら耳のピアスにミソカは触れる。今まで気づかなかったわけではないが、改めて見てみると海の力がギュッと凝縮されたような深い藍色をした丸い石が付いていた。
「私ね、海から逃げてきたんだ。ただ広いだけで、自由なんてない海から、決められた運命が嫌でさ。だからさ、ここにずっといてもいい?」
見たことのない沈んだ顔で語った後、ミソカはにこやかに聞いてくる。それなりに苦労してここへたどり付いたことがうかがえた。
「もちろんよ。ずっとここにいてくれて構わないわ」
手を取ってそういうと、見たことのないくらいにこやかな笑顔でミソカは頷く。
昔から私には友だちがいなかった。
女王になる素質。
精霊は水から生まれ出た時、水とは少し違うものになる。水と精霊との境界線があやふやな存在。それが女王になれる素質。水にどれだけ溶け込めるか、一体になれるかというところが鍵だ。
私は水を通してこの川に起こっている変化はもちろん、他の精霊の位置や感情などがなんとなくわかる力を持っている。
その力のせいで女王にされ、感情を見透かされるのは気持ち悪いと川のみんなには距離を置かれた。女王になってよかったとは感じていない。強いていうなら、女王であることが唯一の居場所だと安心できることだろうか。
ミソカは他の場所から来たからか、私は気持ちを感じ取ることも、どこにいるのかもわからない。それが心地よかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる