川と海をまたにかけて

桜乃海月

文字の大きさ
14 / 17
過去と現実の重なるところ

第2話

しおりを挟む
 川はいつものように平穏で、ミソカがいる生活にも慣れた頃。私は久しぶりに男の人をゆっくりと待っていた。この場所にはちょくちょくきていたし、何度か見かけることもできていたけれど、ミソカが気になってここでゆっくり過ごす時間は久しく取れなかったのだ。
 やがて現れた男の人はいつもの場所でじっと私のことを見つめる。
「ねぇ、何しているの?」
 突然の声にびくりと震えた。振り返るとミソカが不思議そうに私を見てから上を見上げた。
「人間の男じゃん。やけに思い詰めたような顔してんね。でもちょっとかっこいいかも。この男を見に出かけてたのか」
 納得したといった顔で、ミソカは私をにやりと見つめる。
「好きなの?」
 その言葉に頬がかっと熱くなる。
 人間に恋心なんてここでは考えられないことだった。それなのに、ミソカは相手が同じ精霊かのように当たり前に好きかと聞いてくる。だから、思わず頷いてしまった。
 好きでもいい。ミソカは受け入れてくれるのか。
「それなら私に力にならせてよ」
 いきなり手を握られてそういわれた。
「助けてくれた恩返しをずっとしたいって思ってたの。コモチがあの男と話したいっていうなら、そうできる力が私にはあるんだよ? コモチの願いを教えて?」
 あの人と話せる。あの瞳に見つめてもらうことを何度夢見ただろう。でも、本当にそんな力がミソカにあるんだろうか。それでも物は試しと私は願いを口にすることにした。
「あの人に見つめられたいの。できるなら話しだってしたいわ」
「任せて。明日コモチをあの男に会わせてあげる」
 ミソカとそんな話しをしている間に男は立ち上がって行ってしまう。
 それを見たミソカは私の手を取って家へと向かって泳ぎだす。
「本当はいけないことなんだけど、コモチなら大丈夫だと思うの。このピアスを耳につけて」
 家に着いてからミソカはいつもと違い、真剣に声のトーンを落として秘密を打ち明けるように話した。
 片耳のピアスを外して、私にそっと手渡したミソカ。手の平に乗る小さなピアスを見つめる。
 いつも大事に身に着け、たまにそこにあるか確認するように触れていた。
「これ、大事なものなんでしょ?」
 言葉と同時にミソカにピアスの乗った手を差し出す。その手の指を包みながら押し返される。
「とっても大事なもの。でも、コモチの願いを叶えるにはこの方法しかないし、私はコモチを信じているから。このピアスをして体になじませておいて」
 ミソカにいわれるまま、私はピアスを耳に刺す。ちくっと一瞬痛んだが、少しすれば着けていることを忘れてしまうくらいに違和感はなくなった。

「ねぇ、コモチ。恋ってどんな感じ?」
 私とミソカは夜、並んで眠る。お休みといったミソカはいつもすぐ寝息をたてだすのに、今日は聞こえないなと思っていたところだった。
「ふわふわする感じかしら。気づいたらあの男の人のことを考えていて、会いたくなって。全部捨ててここから飛び出して、隣に座れたらどんなに素敵だろうって思うこともあるわ」
 初めて話す気持ちはどこまでしゃべればいいものかわからず、ただ溢れ出す。
「そっかぁ。なんかいいなぁ」
 らしくない声音に私は不思議に思う。
「どうしてそんなこと聞くの?」
 しばらくミソカから言葉は返ってこない。寝ちゃったのかな? そう思った時だった。
「私ね、好きになるってまだわからなくて。私の家は決められた人と結婚するのが決まりだし、好きを知らなくてもいいんだけどさ、ある話に憧れてるの。聞いてくれる?」
 あまり自分のことやここに来る前のことを話さないミソカが、自分から話してくれるのを嬉しく思って、私は「うん、いいよ」となるべくさりげなさを装って話しを促す。
「人間に恋をした人魚の話しなの。人魚は海から出て人間と暮らす。でも、その恋は実らず泡となって消える運命が決まる。そこに男の命と引き換えに助かることができるといわれるんだけど、結局男を殺せず身を投げるの」
 私はただ黙って聞いていた。
「そこまで誰かを大切に思えたら素敵だなって思ったの。私は今まで誰かをそこまで大事に思ったことがなくて、なのに水の中に生きるもの全てを愛し守りなさいなんて、無理なこと吹っ掛けられるんだもん。逃げたくもなるって」
 海ではそんなことをいわれるのかと眠りにつこうとぼんやりする頭で思っていた。
「だから、コモチの恋を応援している内に何かわかるかなとか思ってるとこもあるんだよね」
 ミソカの声が遠くに聞こえる。私はいつの間にか瞼が重く閉じていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

処理中です...