天国への階段

『南海琉生』編 【完結】

【10月】祐からのサプライズ

10月。
外はすっかり紅葉の季節で、赤や黄色、茶色といった葉っぱたちが広がっていた。
と、同時に僕の状態は少しづつ悪化していった。
日に日に増す疲れと怠さ、時々ある吐血。

僕はもうそろそろ死ぬのだろうか…

そんなことを思っていると、コンコンとドアが叩かれる音がした。僕が｢はい。｣と言うとそこには祐が立っていた。
片手に大きなトランクを持って。


｢祐、荷物多そうだね…つっきー達と旅行に行くの？？｣


｢いいや、違うぞ｣


｢え、じゃ、じゃあもしかして…一人旅行？｣


｢なわけねーだろ｣


｢わかった！！家族旅行だね！｣


｢ちげーよ。バーカ｣


｢あ！！バカって言った！！｣


｢お前と行くんだよ｣


祐は近づいてきたと思うと突然耳元でそんなことを言った。
僕は何が起こったのか分からず暫く思考停止モードに入った。
僕と旅行…？………

｢僕と旅行！？｣

｢そんな騒ぐなって、また血、吐くぞ？｣

な、なんでその事知って…！！
僕は祐が何を言っているのかさっぱり理解することができなかった。

｢とにかく、先生から何日か許可降りたから、今から準備して行くぞ。｣

｢旅行…外出…許可…外……外！？外、出れるの！？｣

僕は嬉しくてたまらなかった。
最後に外に出たのは入学式の春以来。
半年ぶりの外出だ。

僕は祐にされるがままに車いすに乗せられ、外へと向かった。
看護師さんたちが優しく、いってらっしゃいと送ってくれた。


外に出ると、祐のお父さんが待っていてくれた。

「父さんが、旅行先まで送ってくれる。ごめんな、二人っきりじゃなくて。」

「ううん！！外に出られただけでうれしいんだ！おじさんもありがとうございます！」

「着くまでドライブだ、体調悪くなったらすぐ言えよ？」

そう言っておじさんは優しく頭を撫でた。


車に乗って約1時間。あたりは段々アスファルトから山や川といった自然になっていった。
窓を開けると、涼しく綺麗な空気が入ってきて気分はさらに高まった。
横を見ると祐の寝顔がはっきりと見える。
昔から祐は車が苦手だ。すぐに酔ってしまいいつも寝ている。僕は少しだけ祐に寄り掛かった。

「ん、、どうした？」

「なんでもないよ。祐は体調大丈夫？」

「ん、、大丈夫、、お前がいるから、、」

どうやら起こしてしまったようだ。
祐は大丈夫って言うけど、見た目は全然大丈夫そうにはみえない。

「祐、もう少しで着くって。起こしてあげるから寝てて。」

「おう。ごめんな、、」

祐は頭を僕の肩に乗せて再び眠り始めた。

更に時間が経つと、辺りは綺麗なお花畑で染まっていた。

「祐！着いたよ！」

「ん、、すげ、、想像以上だ、、」

近くに車を止めた後、僕は再び車いすに乗せられてお花畑の中に入っていった。
秋の花であるコスモスがいろんな色を帯びて咲き誇っている。
赤や白、きい黄色にオレンジ、ピンクまであった。

「祐、、綺麗だね、、」

「あぁ、お前と来られて本当に良かった。」

「おーい、お前らー写真撮るからこっち向けー」

振り向くとおじさんがカメラを構えて準備をしていた。

「はい、チーズ！」

カシャ、、


この日とった写真は僕にとって忘れられない思い出の1枚となった。


日が落ちて涼しくなってきたため、僕たちは再び車に乗り込み旅館へと向かった。

チェックインが終わったらしく僕はおとなしく祐に付いていき、部屋へ向かう。
僕は楽しみで楽しみで終始そわそわしていた。

部屋には祐と二人っきり。
部屋に入ると、なにもかもが初めてでついはしゃいでしまった。

「祐見てみて！！露天風呂もあるよ！！わぁ、お部屋も広いね！」

「琉生、あんまり騒ぐなって。」

「でも、本当にすご「琉生」

前から包み込むように祐に抱きしめられる。強く、強く、誰にも取られないようにと言わんばかりに。
だから、僕も優しく抱きしめた。

「祐、今日はありがとう。僕のためにバイトまでして頑張って準備してくれたんでしょ？」

「お前、何でそのこと、、」

「僕は祐のことならなんでも知ってるからね！」

本当はつっきーから全部知らされていた。でも、ぼくのためにやっていたことだから安易にやめてっていえなかった。
祐の胸に顔をうずめる。しかしすぐに離されて僕に目を合わせてきた。

「琉生。好きだよ。ずっとそばにいる。俺と付き合ってほしい。」

僕はびっくりして少し黙り込んでしまった。

別に男同士だからと言って特に偏見はない。それに相手は祐だ。断る理由もない。だって昔から大好きだったからだ。でも、残り少ない命。僕が居なくなったとき、祐を悲しませてしまう。
でも、人生最期の時を最愛の人と過ごすのはどれだけ幸せなことだろうか。

そして僕は今度は寄り掛かって小さな声で言った。

「、、僕、、もう死んじゃうんだよ？」

「お前はまだ死なねえよ。俺と爺ジジイになるまでずっと一緒だ。」

「えへへ、、そっか、、」

おじいさんか、、それ程いられたら最高に幸せなんだろうな。
僕の目は涙で溢れていて前が見えなくなっている。

「ふつつかものですが、よろしくお願いします。」

僕は最高の笑顔で返事をした。
するといきなりキスをされた。触れるだけの優しいキスを。
すこしびっくりしてしまったけど僕は嬉しかった。

「琉生、露天風呂一緒に入るか？」

「、、祐のえっち、、、」

「は、はぁ！？ち、違ぇし、、！！」

本当はえっちしたいんだけどね？

「ふふっ、、噓だよ！！早く入ろう！」


祐の手を引っ張って露天風呂に向かう。
空には大きくて丸いお月様が浮かんでいてその光は僕たちを祝福してくれているようだった。