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#16 今は今だ

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本を置くと同時に部屋のドアが開く。
タイト先輩達が帰ってきたようだ。
「よ、買ってきたぞ」
「ありがとう」
私はコンビニ袋を受け取る。
なかには鮭のおにぎりが入っていた。
「先輩…」
「ん?」
「私達、恋人らしいことしてないね」
「そうだなぁ、よし、デートするか!」
デート、それはまさに希望に満ち溢れていた。
憧れていた先輩、好みの先輩、大好きな先輩へと変わったタイト先輩と一緒にデート出来るのだ。
でも…
「いや、今はやめよ…家出してんだし」
「今は今だ。家出であっても、人生は一度きり!この体をまとって生きれるこの人生を、楽しもうじゃないか!」
…そうだね。
「確かに…じゃあ行こう」
「どこ行きたい?」
「んー…あっ!」
本屋に行って、あの謎の本について聞いてみようかな。
「本屋行こう!」
私たちは本屋へ向かうことにした。
妹は留守番ということになり、部屋から出るのは我慢で、ということになった。
早速本を持って外に出る。
…字が増える瞬間を見てみたいな…
謎の好奇心により、歩きながら本を振っていた。
すると…
「あんまりその本振り回さない方がいいよ」
「…!?」
耳元で囁かれた、ショタボイス。
小さな男の子のような声、耳で響き渡る。
すぐに声がした方を向くが、誰もいなかった。
「どうした?」
「いや…」
タイト先輩も気づいてなかったんだ。
…空耳か。
そしてまた歩き出した。

書店に着くと、早速店員さんに本を渡し、質問した。
「この本ってどうなってるんですか?」
店員さんは一瞬暗い顔をした。
「その本は、お客様の決めた目的が果たされると、なくなります」
「目的?」
「はい…お客様の場合は、〝家出をし、母が死んでから戻る〟までだと思います」
「そうですか…」
「ですが、目的がズレると全てが崩れるのでご注意を」
そう言い残し、店員さんは去っていった。
…目的がズレる…か。
「アヤ?」
「あ、ごめん!もう用は済んだから、タイト先輩の好きなところに行こう」
タイト先輩は頷き、真っ先に私を海に連れていった。
…海か。
ビキニを着てる女子がうじゃうじゃいる。
だが…タイト先輩は見る気もしなかった。
「何を…するの?」
無言でタイト先輩が隣に座る。
「アヤと海を眺めるだけで俺は楽しいんだ」
…嬉しかった。素直にその言葉を受け止めた。
今までで一番嬉しい言葉だ。
私といるだけで楽しい。
ただ海を眺めるだけでも。
デブでブスな私が、こんな恋愛していいのか。
タイト先輩に限っては、身体目当てではないようだ。
私は青い海に空、白い砂浜をただ眺め続けるのであった。
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