生き別れの妹が騎士団長になっていたので、退魔師のお兄ちゃんは陰から支えることにしました

長野文三郎

文字の大きさ
12 / 39

谷間の村 その1

しおりを挟む
 ミリアが率いる別動隊が本隊に再合流したのは翌日の昼過ぎだった。
考えていたよりもずっと早くミリアたちが戻ってきたので、シシリアはとても驚いていた。
俺たちはいま、三人で本陣の天幕にいる。

「ずいぶんと早いお戻りでしたが、村の病人たちは……」
「疫病は治まったわ。それもこれも――」

 ミリアが俺の方を見て、小さく息を呑んだ。
俺が魔法薬を作ったことは内緒にしてくれと頼んだのを思い出したのだろう。

「その、いろいろあってね……。とにかく、治療は完了したわ」
「はあ……。ところで、どうしてクロウ店主がここにいるのですか?」
「それは、クロウ殿にお茶をふるまうためよ。私がお誘いしたの」

 ミリアは従者を使わず、自らお湯を沸かして、紅茶を淹れる準備をしている。
鼻唄交じりに茶葉を取り出す姿は、たいそう機嫌が良さそうだ。

「クロウ殿はミルクとレモンどちらを入れますか?」
「ミルクをお願いします。あの、お構いなく……」

 ミリアにしたわれるのはとてもうれしいのだが、シシリアの視線が痛い。
本陣の天幕でお茶に招待される酒保商人なんて俺くらいのものだろう。

「詳しくは言えないけど、クロウ殿にはお世話になったの。シシリアからもお礼を言ってね」
「そう言うことですか。クロウ殿、ありがとうございました」

 何かを察したようで、シシリアは丁寧に頭を下げた。

「とんでもない。称賛しょうさんされるべきは団長と騎士団の行動ですよ」

 これでミリアと聖百合十字騎士団の名声が上がるのなら俺も満足だ。

「はい、クロウ殿。お茶がはいりましたよ」

 ミリアはニコニコとティーカップを置いてくれた。
しかし、俺も予想外に頑張っているよな。
もともとは退魔師を引退して、南部のザカレアでのんびり過ごすために引き受けた仕事だったのに……。

「美味しいですか?」

 ミリアが覗き込むようにしてティーカップの向こうから俺を見つめている。
ちょっとだけ心配そうな顔だ。

「こんなに美味しいお茶は初めてです」

 破顔一笑はがんいっしょう
ミリアの笑顔に花がほころび、星が降る。
我が選択に一片いっぺんの悔いなし! であった。



 特に事件も起きないまま二日が過ぎた。
俺はいつも通り食料に細工さいくをして、ドーピング効果のあるスイーツを作り続ける。
今晩も見張りの従者を眠らせて、リーンと小麦粉や野菜にカクテルを施していた。

「毎晩、毎晩、面倒ですね」

 リーンは退屈そうに箱から小麦粉の袋を引っ張り出す。

「仕方がないだろう、カクテルの効果は24時間しか続かないんだから」

 まとめてやっておければ楽でいいが、24時間以内に摂取せっしゅしないとドーピング効果はなくなってしまうのだ。
使いきれなかった食材には魔法をかけ直さなければならない。

「文句を言ってないでさっさと終わらせるぞ。今晩中に明日のプリンも作っておかなければならないんだから」

 リーンは気に食わない顔で俺を見つめる。

「また団長のご機嫌取りですか? ひょっとして聖百合十字騎士団に入れてもらいたいとか?」
「まさか。ここの騎士団は真面目過ぎるよ。今日だって路肩に落ちていた農夫の荷馬車を助けてやっていたもんなあ」
「ふつうの騎士は無視しますよね。まあ、かわいいっちゃ、かわいいですけど」
「お、リーンにもお目当ての騎士ができたか?」
「やめてください、自分が股を開くのはクロードさんだけっス」
「言い方!」

 これがなければリーンはもっと素敵なんだがな……。

「それにしてもイアーハンの奴らはぜんぜんやってこないですね」

 俺もそのことは気になっていた。
襲撃をかけてくるのはまだとしても、偵察に来ている気配さえない。
奴らが来ればすぐにわかるように結界を張っているのだが、反応はまったくなかった。

「結界が見破られているってことはありませんか?」
「可能性はゼロじゃないけど、どうだろうな? リーンならあの結界を見破れるか?」
「無理です。すぐに見つかって、クロードさんに捕まって、淫らな尋問じんもんを受けちゃいます」
「そんなことするかっ!」

 カクテルで自白剤を合成すればいいだけだ。
やったことはないけど。

「にしても、俺もあの結界には自信がある。ということは奴らはまだやってきていない可能性が高いわけだ」
「おそらく、ファーレン山脈を抜けてからでしょうね」

 山を越えれば国境線はすぐそこだ。
特殊部隊なら森の中の間道にも詳しいだろう。
逃げ道も確保できる。

「俺もそう思う。ということはあと5日くらいしか猶予はないということだな。山脈を抜けるまでに騎士団をできるだけ強化しないと」

 そして、ミリアにはさらなるパワーアップも必要だ。
明日のプリンは念入りに作らないとならない。
だが、性急なパワーアップは肉体が耐えられないから焦りは禁物だ。

「よし、これで完了だ。帰って、カラメル作りから始めるとしよう」
「なんだか張り切っていますね。いいなあ、私はこんなに尽くしているのにプリン一つ食べさせてもらえないんだ……」

 急にリーンがしょげだしたぞ。
考えてみればリーンはよくやってくれているよな。
神殿関係者にドーピングはしないようにしていたけど、少しくらいはいいか?

「わかった、今日のプリンはリーンにも食べさせてやる」
「ほんとですか!? いまさら、やっぱなしはダメですよ」
「そんなことしないって。たまにはリーンにもご褒美をあげないとな。あとシルバーにも」

 自分だけ食べさせてもらえなかったと知ったら、プライドがファーレン山脈よりも高い天馬は、絶対に動かなくなるはずだ。

「私は馬と同じ扱いですか? なんか屈辱」
「そう言うなよ、美味しく作るからさ」
「だったら、クロードさんが食べさせてください。お嬢様、お口を開けてください、って感じで」
「バカ言ってるんじゃない。そんな恥ずかしい真似できるか」
「そんなぁ! 半日膝枕とかディープキスとかくらいのオプションもつけてくださいよ!」

 ごねるリーンを無視して、シルバーの待つ荷馬車へと戻った。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...