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襲撃 その3
しおりを挟む飼い葉へカクテルを施して外へ出ると、なんとそこにはシルバーシップが立っていた。
「よお、散歩中か? あんまり夜更かしするなよ」
シルバーのお出かけはいつものことだから、俺は気にも留めずに宿泊場所へ帰ろうとした。
ところが、シルバーは俺の袖をつかんで離さない。
「なんだよ、遊んでほしいのか? 魔力の大半を使ったんで俺も疲れているんだよ。遊ぶのはまた明日な」
そう宥めて離れようとしたのだが、シルバーはしつこく俺の袖をくわえたまま引っ張っていこうとする。
「どうしたっていうんだ? いくらなんでも――」
「ヒーン!」
シルバーシップのいななきが泣いているように聞こえて、俺は思わず立ち止まった。
「何かあったのか?」
警告の笛の音はどこからも聞こえていない。警報結界が破られた反応もないというのに……。
「まさか、リーンやミリアに何かあったのか?」
そう訊ねるとシルバーは大きく鼻を膨らませる。
そして、ついて来いと言わんばかりの顔で深夜の町を駆けだした。
◇
全身に無数の傷を負い、大量の血を流したリーンはついにこらえきれなくなって大地に膝をついた。
肩で大きく呼吸するリーンを、セルゲスは愉快そうに見下ろしている。
「思ったより粘るじゃないか。おかげで楽しませてもらっているぜ」
リーンにはもう言葉を返す気力も残っていない。
服の下にチェーンメイルを着込んでいなかったらとっくに絶命していただろう。
「いやあ、こんだけ頑張ってくれると殺すのが惜しくなってくるぜ。まあ、殺すんだけどな」
セルゲスはせせら笑いながら剣を振り上げたが、急に横へと飛び跳ねた。
そして誰もいないはずの虚空に向かって声をかける。
「遅かったじゃねーか、来ないかと思ったぜ。隠れてねーで出て来いよ。ちゃーんと匂いと気配でわかるんだから」
セルゲスの見つめる闇が歪み、透明魔法を解いたクロードが姿を現した。
「そいつが噂のインビジブルか、なかなか便利そうな魔法じゃねーか。俺には利かないけどな」
クロードはセルゲスを無視してリーンに向かって歩いていく。
ポケットから取り出したのはエクストラヒールのマジックスクロールだ。
こちらも一本だけ支給が認められた特殊スクロールだった。
クロードは大切なスクロールを躊躇なく使い、リーンを治療しながら質問する。
「何があった?」
「クロードさん……ごめんなさい、私……」
俯くリーンを見て、クロードはさらに訊いた。
「セルゲスが裏切ったのか?」
「裏切りというのなら、リーンも同じだぜ」
クロードは再びセルゲスを無視した。
「リーン、教えてくれ。あいつは裏切り者か?」
「うん。……ある意味、私もそう……」
「わかった」
クロードはようやくセルゲスに向き合った。
「貴様は何をした?」
「詳しいことならリーンに訊けよ。そいつが全部知ってるぜ。愛しのクロードさんのためなら何でも喋るだろうさ」
クロードはリーンを横目で見る。
「本当か?」
「うん……。クロードさん、ミリア団長が狙われている」
クロードの肩がピクリと動いた。
「だったら、お前にかまける時間はないな」
クロードはどこからか一本の細身の剣を取り出して身構える。
それはナイフというには長すぎたし、ショートソードというには短すぎる。
持ち手も含めて45センチほどの剣だった。
「ずいぶんと余裕をかましてくれるじゃないか。その華奢な武器で俺に勝てるつもりか?」
セルゲスの挑発にクロードは身じろぎもしない。
「ほら、さっさと透明魔法で消えたらどうなんだ? 特殊部隊には怖がりが多いって聞いたぜ」
「必要ない」
クロードの表情は変わらなかった。
だが、心の内は怒りに燃えている。
ミリアを誘拐しようとしていること、リーンを傷つけたこと、どちらもクロードにとっては許しがたいことだった。
「すました顔をしやがって……、すぐにお前も恐怖のどんぞ――」
続く言葉をセルゲスが発することはなかった。
まず、首の頸動脈が、続いて脇の動脈が、次に右の手首が、続いて太腿の内側が、最後に左のアキレス腱が瞬く間に切断されていた。
「な……?」
何が起こったのかわからないまま、セルゲスは絶命していた。
高速の払いで吹き飛ばされたのだろう、クロードの剣には血の一滴さえ付いていない。
「ど、どういうことっスか!? クロードさんがそこまで強かったなんて知らないっスよ!!」
エクストラヒールのおかげで全回復したリーンが驚嘆の叫びを上げた。
だが、クロードは何も答えずに走り出す。
「って、どこへ行くんですか!?」
そんなことは訊くまでもなかった。
クロードはミリアのところへ向かったのだ。
「リーンは死体の始末をしておいてくれ」
遠ざかるクロードを眺めながら、リーンは大きく息をついた。
「そこまで強いのなら最初に教えといてくださいよ。これじゃあ私がバカみたいじゃないですか……。でも、惚れ直したっス♡」
セルゲスの体は大きく、死体を埋める穴を掘るのは骨が折れそうだとリーンは思った。
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